1985年3月5日生まれ、青森県出身。2002年に俳優デビューし、2005年に『男たちの大和/YAMATO』で一躍注目を集め、『デスノート』『デスノート the Last name』(ともに06)のL役で人気を博す。映画、ドラマ、舞台などで活躍。最近の主な映画出演作は、日本アカデミー賞優秀主演男優賞、ブルーリボン賞主演男優賞に輝いた『聖の青春』(16年)、『怒り』(16年)、『関ヶ原』(17年)、「ユリゴコロ」(17年)、『宮本から君へ』(19年)、『ホテルローヤル』(20年)、『ブレイブ - 群青戦記 - 』(21年)、公開待機作に『川っぺりムコリッタ』(21年)がある。
なんで殴り合うのか、何が楽しいのかを知りたかった
ボクシングなど格闘技の世界で、挑戦者を象徴するブルーコーナー。誰よりもボクシングを愛し、努力しながらも負けが続き、「ブルーコーナーがお似合い」と陰口を叩かれるボクサー・瓜田、同じジムの後輩でチャンピオンへの道をまっしぐらに進む小川、遊び半分で始めたボクシングにのめり込んでいく新人の楢崎。そして彼らを見守る、瓜田の初恋の相手で今は小川の婚約者である千佳。
ボクシングを軸にそれぞれの思いを描く『BLUE/ブルー』は、『ヒメアノ〜ル』『愛しのアイリーン』の田圭輔監督の最新作。ブルーコーナーの男、瓜田信人を演じた松山ケンイチに話を聞いた。
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松山:吉田監督の作品が元々好きだったというのが一つの理由です。でも実は、好きな監督の作品ほど出ないほうがいいと思っているんです。1つの作品として見られなくなってしまいますからね。好きな監督の作品を見たいのに、自分が出ていたら客観的に見られなくなってしまいます。
また、ボクシングという題材自体もハードルが高いと思っていたんです。でも、その後に(小川役の)東出(昌大)君と会った際、「自分にも作品の話が来ました。もし一緒にやれるんだったら、やりたいです」と。なかなかそういうふうに言ってくれる人もいないので「やるか!」と(笑)。
松山:もともと、半年後に撮影を開始したいと言われていたんですが「1年間、時間をください」とお願いしたんです。「そうしましょう」と言ってくださいました。そこで、もうやるしかない、と気合いを入れなおしたんです。
その後、撮影開始がさらに1年延び、2年になったんです。その2年の間には違う作品もありましたが、トレーニングは細く長くずっと続けていたんです。だから、珍しいというよりは運がよかったんだと思っています。忙しすぎるとそれも難しいですからね。
松山:単純に、ジャブを打つ動作やシャドーボクシングの姿で分かってしまうんです。見る人が見れば、「この人、嘘だ」とすぐに分かる。そうなるとこんなにいい台本の素晴らしさが伝わらなくなってしまうと思いました。そこにばかり目が行って、雑音というか目障りになる。観客としての僕自身がそういうタイプなんですよね。
そこは本当にちゃんとしていかないと駄目だと思ったのでとにかくジムにいる人たちがどんな振舞いをしているのか、それをずっと見ていましたね。もちろん練習もして、説得力のあるボクシングシーンにしなければ、と考えていました。
松山:例えば、新品の椅子って座り心地が悪いじゃないですか。それが座るたびに、自分の座り方が椅子に馴染んでいく。一瞬では出来ないですよね、その調整は。やっぱり時間をかけて、座り心地が良くなっていく。演技もそういうものなんじゃないかな。
松山:僕もなんで殴り合うのか、何が楽しいのかを知りたかったんです。分かったのは、ボクシングにおいて殴り合いというのは、1つのコミュニケーションなんです。老若男女いろいろな人たち、プロや俳優がミットを打ってくるのを受けてきたんですが、全部違うんです。その人それぞれのテンポやリズムだったり、強さだったり、打ち方も全然違ってくる。こっちも相手に合わせていくから、コミュニケーションなんですよね。その中に……ちょっとくさい言い方かもしれませんが、想いがあるんです、そのパンチに。
そしてボクシングには試合があります。そこでは勝者が出て、それは次に繋がっていくと思うんです。負ける人はバトンを渡しているんです、勝った人に。それをまた今度は勝者だった人が負けて次にバトンを渡す。そうやってどんどん研ぎ澄まされていくというか。
松山:1つの世界というのは、そうやって出来上がっていくのかなと思うんです。それを見るとやっぱり感動します。
「敗者」を書いたのは大河ドラマで平清盛をやった後でした。平家は源氏に破れますが、武家社会を平家がつくり、その武家社会をさらに発展させるために源氏と戦い平家は負けた。勝った源氏がまたさらに発展させていく。物事はそうやって続いていくような気がします。
松山:嫉妬だとか悔しさだとかを持っていないわけじゃない。ただ、瓜田1人で終わっていないというか、もうちょっと大きく物事を考えると「あなたという敗者がいたから、ここまで面白くなったんだ」ということはあると思うんです。狭い視野で見ていると分かりませんが、客観的に見るとそういうことだったりするんだと思います。
松山:(木村)文乃ちゃんが演じた千佳に対しては、好きな気持ちもありますよ(笑)。
ただ、やっていて思ったのは、ボクシングジム自体が1つの社会で、瓜田はやっぱりそこに居心地のよさを感じていたんです。そこに自分の居場所があった。そして次に進んでいく。それは孤独ということとはまたちょっと違うような気がするんですよね。何かを求めて進んでいく。「生きている」というか、泳いでいる感じがするんですよね。旅というか。小川が瓜田について「あの人は強えよ」というのは、そういうことなのかなと思うんです。
それは言葉にできないから面白いんだと思っています。それが田監督の作品の魅力だとも思います。
自分でも「なんだったんだろう、あれは」と思っているんです。ただ、やっぱり確実に心を動かしている。それが本当にすごいなって思うんです。多分この気持ちはずっと残っていくし、それをお客さんにも持って帰ってもらいたいです。
演技について、自分の中でどこか一区切りしていたところがあった
松山:偶然だと思います。でもうれしかったです。また東出君、時生君と一緒にできるのは。
松山:役作りとか、ボクシングをどれだけやっているかとか、そういう話はしなかったですね。ただ、瓜田と同じで僕はこの2人の足を引っ張りたくなかったんです。自分だけボクシングが下手くそとかそういうのは嫌だった。ちゃんとやって、何かを渡せたらいいなと思いながら演じていました。
松山:やっぱり1人の時とみんなといる時は、明らかに違うと思ったので、そこは監督と相談しました。監督に「例えば映画の企画が一生懸命やっても通らなかった時、1人になるとどんな感じになりますか」と聞いてみました。一生懸命やっても駄目だった時、僕はいつも独り言を、それも罵る言葉みたいなことをしゃべっちゃう。それが瓜田にもあるんじゃないかと思い監督にも聞いてみたんです。監督も口にしている事があると仰っていました。
松山:そう。あれは単なる汚い言葉とはまた違うんですよね。あの言葉がボクシングに向けられているのか、自分の生き方に対して言っているのか、色々な捉え方ができると思います。
松山:「演技ってこういうものだ」と、自分の中でどこか一区切りしていたところがあったんです。無限に可能性はあるのに、自分の中で決めきってしまっているところがあるような気がして、それがすごく嫌だったんです。自分のセオリーの中だけで色々な作品をやっていくというのは、面白くないだろうと思いました。
人は東京だけにいるわけじゃないし、いろんな所で暮らしています。それぞれ、その土地の季候とか環境があって、そこからいろんな考え方が生まれてくる。それを知りたかったというのがありますね。それは自分にとって新しい感性を生んでくれますから。
松山:今は、そこで得たものを現場にちゃんと持ち込んでいきみたいなって思っています。
(text:冨永由紀/photo:今井裕治)
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