『アンモナイトの目覚め』ケイト・ウィンスレット インタビュー

『タイタニック』から20余年を経て、社会規範から脱却した女性を再び!

#アンモナイトの目覚め#ケイト・ウィンスレット

ケイト・ウィンスレット

役からこんなに力をもらったのは初めて。化石採集の虜になった

『アンモナイトの目覚め』
2021年4月9日より全国順次公開
(C)2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited

『ゴッズ・オウン・カントリー』で鮮烈なデビューを果たしたフランシス・リー監督が、ケイト・ウィンスレットシアーシャ・ローナンという二大女優をキャストに迎えた話題作『アンモナイトの目覚め』が4月9日より公開となる。

1840年代、イギリス南西部の海辺の町ライム・レジスで、母親とつつましく暮らす古生物学者メアリー・アニング。彼女が弱冠13歳で発掘した化石は、大発見として大英博物館に展示されるが、女性であるメアリーの名はすぐに忘れ去られ、今は観光客の土産物用にアンモナイトの化石を探しては細々と生計を立てている。そんな彼女はある日、町を訪れた裕福な化石収集家の妻シャーロットを数週間預かることとなる。美しく可憐で、何もかもが正反対のシャーロットに苛立ち、冷たく突き放すメアリー。 だがメアリーは、自分とはあまりに違うシャーロットに次第に惹かれていく。

主人公メアリーを演じるのはハリウッドを代表する演技派、ケイト・ウィンスレット。偉大な功績を残しながら歴史に埋もれてしまった古生物学者を演じるため、ライム・レジスに滞在して化石採集を習得。初共演となるシアーシャ・ローナンと体当たりの演技に挑んでいる。彼女がインタビューに答えた。

『アンモナイトの目覚め』予告編

──本作で演じたメアリー・アニングとはどのような人物だったのでしょうか?

ウィンスレット:貧しい家に生まれたメアリーは、学校に通う余裕がなく日曜学校で読み書きを覚え、父親から化石発掘を教わった。その父親を10歳で亡くし、13歳でイクチオサウルスという巨大な化石を発掘したの。でも兄弟を次々と亡くし、化石で稼いだお金で家計を支え、母親の面倒を見続けた。貧しい家に生まれたら誰でもそうするはずよ。一方で、精力的に化石発掘を続けた。
メアリーは探求心が強くとても幅広い知識を持っていた。学校へ行けなかったメアリーが偉大な科学者になる可能性は低かった。でも彼女には独学できる能力があり、生涯学び続けたの。称賛に値する資質の持ち主よね。男性優位の階級社会の中で、彼女の功績は科学界からは認められず、隅に追いやられていた。彼女の大発見の数々は無視はされなかったけれど、男性科学者たちに奪われてしまったの。

ケイト・ウィンスレット

フランシス・リー監督(左)とケイト・ウィンスレット/『アンモナイトの目覚め』撮影中の様子

──メアリー・アニングという人物について以前から知っていましたか?

ウィンスレット:フランシス(・リー監督)から送られてきた脚本を読んで、自分の知識のなさに途方に暮れたわ。メアリーについて、名前と出身地以外は何も知らなかったの。彼女の素晴らしい功績も、歴史上で果たした重要な役割も、それまで知らずにいたことが恥ずかしくなった。ライム・レジス(メアリーの出身地)では学校で教えているそうよ。素晴らしいことよね。

──役作りについて教えてください。

ウィンスレット:役作りのために新しい技術や技能を学ぶことはよくあるけど、まさか化石採集を習うとは思わなかった。今ではあなたをライム・レジスに連れて行って指南できる腕前よ! ごく基本的な手法だけどね。ボディダブルを使わず撮影するために、技能の習得は重要だった。メアリーにとっては体に染み込んでいる作業だしね。専門家の指導を受けながら、来る日も来る日も、海岸で化石が入っていそうな石を打ち砕いたわ。
ライム・レジスの町にも助けられた。1800年代初頭と比べると町自体は大きく変化したけど、雰囲気や連帯意識は変わっていない。全員が知り合いのような町で、メアリーは町の誇り。この町にある博物館の厚意で、所蔵されているメアリーの自筆の文を閲覧することができた。撮影前に滞在した3週間は役作りに大いに役立ったわ。

──演じる上で最も難しかったシーンは?

ウィンスレット:天候に苦しめられた。まだかなり寒かったから屋外ロケは大変だった。私は寒さに強いので平気だけど、シアーシャは私より小柄で、寒さでガタガタ震えていた。身震いしながら演技するのは本当に大変だったと思う。とはいえ、風や雨は心の準備をして乗り越えるだけのこと。本当に難しいのは静けさが強調されたシーン。
メアリーは冷静沈着で感情を抑え込むタイプだけど、素の私は声が大きく活発で、動き回るタイプ。だから監督は私を身体から変身させた。シーンに合った体の動き、エネルギーレベルを把握して、私を静めてくれた。撮影中は1日のほとんどを動作・呼吸・発話のリズムを抑えて過ごした。より静かで親密なシーンであればあるほど、私には難しかった。表情や視線のわずかな動きで感情を伝えなければならないから。当時は同性間の関係や恋愛感情はひた隠しにされてきた。「内に秘めた愛」を表現するのが私にはとても難しかったわ。

『アンモナイトの目覚め』撮影中の様子

──フランシス・リー監督とのお仕事はいかがでしたか?

ウィンスレット:フランシスとの仕事は本当に素晴らしかった。最も心を打たれたのは、すべてのキャラクターを大切にするところ。キャラクター1人ひとりに愛情を抱いている。そしてそれを演じる俳優のことも、まるで我が子を愛するようにとても大切にしている。だから常に見守られ、支えられている感じがするの。親密なシーンの中には演じるのが難しいものもあって、監督も私たちと同じくらい緊張していたわ。だけど誰よりもキャラクターを理解しているから安心して演技できた。

──シアーシャ・ローナンとの共演はいかがでしたか?

ウィンスレット:シアーシャとの共演はとても楽しくて、そして大変だった。あまりに上手だから。私たちはとても協力し合って仕事をした。でも役への取り組み方はまったく違って、彼女は瞬間を大切にするの。
メアリーとシャーロットという役柄を、彼女と演じられてとても力づけられた。役からこんなに力をもらったのは初めてよ。彼女が25歳、私が43歳と私が年上なことで、生まれる関係性もとても好きだった。メアリーとシャーロットには母と娘のような側面もあり、実生活で母親であることも役に立ったわ。相手役には自然と気を配るようになるものだけど、私たちは進んで支え合ったの。

メアリーのように社会規範から脱却した女性の物語が今こそ必要

──メアリーとシャーロットの関係は大きく変化していきますね。

ウィンスレット:物語の初めのメアリーは疲れ果て、貧しい暮らしと病気の母へのいら立ちを募らせている。冒頭で海岸へ向かうメアリーの足取りはとても重い。仕事へのやる気は徐々にそがれ、20代の頃のような体力と気力はおそらくもうない。いろいろなことに対して心を完全に閉ざし、人生でいいことは起こらないと思ってる。ところがシャーロットが現れ、メアリーの中に彼女への愛情が芽生え始める。
最初は、上流階級の女の世話なんて絶対にごめんだと思っていた。だってヒールとレースの手袋で化石採集に来るような女よ? でも知らないうちにシャーロットの見方がどんどん変わっていく。住んでいた世界は全然違うけど、2人には共通点が多い。2人とも愛に飢えていて、自分の世界に囚われている。本当に少しずつだけど、2人は互いに心を開いていくの。
流産の悲しみに暮れていたシャーロットは、メアリーとの友情を通じて、健康と活力を取り戻す。彼女が本当の自分を知ることができたのはメアリーのお陰よ。シャーロットの世界に、夫を持たず独りで生きる強い女性はいなかった。だからメアリーに尊敬の念を抱き、ふさわしくあろうとする。そこに監督はこだわった。メアリーは類いまれな歴史的人物だから、メアリーの恋愛関係を描くなら彼女の偉大さにふさわしい、敬意のある平等な関係でなければならない。最初は正反対だった2人が、最後には対等になるの。

──今、この物語を描く意義とは何だとお考えでしょうか?

ウィンスレット:本作でシアーシャと親密なシーンを撮影していた時、あることに気づいて自分に腹が立ったの。親密なシーンならそれ以前にも経験があったけど、ほとんどの相手役は男性で何の違和感もなかった。だけど突然気づいてしまった。男性が相手だと自ずと、ある力関係が働く。「舵を取りシーンを先導するのは男性で、女性はそれに身を任せるものだ」とね。私はその立場に甘んじ、疑問すら抱いてこなかった。だけどシアーシャと完全に対等になった瞬間に怒りが湧いてきた。「男性共演者に対して自分が対等だとなぜ思わなかったのか」とね。
残念ながらそれが今の社会の現実で、私たちはもっと声高に言うべきなの。「女性と男性は対等であるべきだ」とね。北欧諸国はとっくに理解してるのに、なぜ私たちは遅れてるの? 今こそ、本作のような社会規範から脱却した女性の物語が必要。これは一過性のブームではなく、今やムーブメントなの。映画はムーブメントの決定的な役割を担っていて、女性たちが声を上げ続ける後押しをしている。本作のような物語を、嘘偽りなく感情豊かに紡いでいくことが重要なの。

──思い出深い撮影時のエピソードはありますか?

ウィンスレット:化石採集をするシーンね。アンモナイトが入っているのは大きくて特殊な石なの。石を叩いたらパカッと割れて完璧なアンモナイトが現れるはずなのだけど、そんなことは練習中一度も起こらなかった。石を見つけても小さかったり割れていたり、強く叩きすぎて壊してしまったこともあった。ところがカメラを回していた時のことよ。カメラの前で私が石の側面を叩いたらパカッと割れて、中から完璧な化石が現れたの! ものすごく興奮したわ。ジュラ紀の水が入っていてその場で飲み干した。映っていたのが手だけで本当によかった。完全に役を忘れて素の顔で「アンモナイトを見つけた!」と喜んでいたから。演技とはまったく関係ないけどそれが一番ね。化石採集の虜になったわ。

──観客に本作から何を感じ取ってほしいですか?

ウィンスレット:メッセージを受け取ってほしい。「どこで、どんな人生に生まれついても関係ない。可能性は無限にある。自分をごまかさず、なりたい自分になるために、自分の声を使うことほど大切なことはない」、そう感じてほしい。メアリーという偉大な女性のことも学んでほしいわ。

ケイト・ウィンスレット
ケイト・ウィンスレット
Kate Winslet

1975年10月5日生まれ、イギリスのバークシャー州出身。17歳で出演した『乙女の祈り』(94年)で世界的注目を集め、続く『いつか晴れた日に』(95年)でアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。大ヒット作『タイタニック』(97年)で一躍スターの座を獲得。これまで米アカデミー賞に計7回ノミネートされ、『愛を読むひと』(08年)で主演女優賞を受賞。今後の待機作に『Naya Legend of the Golden Dolphin』(19年)、ジェームズ・キャメロン監督の大ヒット作続編『Avatar2』(20年)がある。『エニグマ』(01年)、『コンテイジョン』(11年)、『スティーブ・ジョブズ』(15年)、『女と男の観覧車』(17年)などに出演。