1969年5月7日生まれ、愛知県出身。大学卒業後に会社員として働きながら、1996年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、全公演で作・出演を担当する。舞台中心に活動した後、「勇者ヨシヒコ」シリーズ、「幼獣マメシバ」シリーズなど数多くのドラマや映画で個性的な役で人気を博し、CMにも多数出演。最近の主な出演作はドラマ「「浦安鉄筋家族」、Amazon Originalドラマシリーズ「誰かが、見ている」、映画は「ヲタクに恋は難しい」(20)「今日からは俺は!!劇場版」(20)、『新解釈・三國志』(20)、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』(21)など。2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にも出演。
もがき苦しみながらも、それでも生き抜こうともがく男女の話
映画、ドラマ、そしてTV番組のMCとしても活躍する佐藤二朗。主宰する演劇ユニット「ちからわざ」で2009年、2014年に公演した「はるヲうるひと」を映画化した。映画用に新たに脚本を書き、山田孝之を主演に迎え、佐藤自ら監督と出演もしている。
架空の島の売春宿=置屋を舞台に、過酷な状況に耐えながら地を這うように生きる人間たちを描く物語はどのようにして生まれたのか、きっと彼自身が俳優であるからこその、いい俳優に対する強い思いなど、真摯に語ってもらった。
・虫けらのように扱われる男に涙が止まらなかった/山田孝之インタビュー
・深く考え出したら、たぶん病むような作品/仲里依紗インタビュー
佐藤:正しい判断。女性が見たら、それは……。
佐藤:確かに、もがき苦しみながらも、それでも生き抜こうともがく男女の話です。生き抜こうということなんです。
これはいろんなところで話してますが、負を抱えた人間がいて、その障害が最後には全部取っ払われていいことになる作品はあんまり興味がないんです。負は相変わらず昨日と同じように今日もそこにあるのに、明日もちょっと生きてみようかって思う話にグッとくる。明日も生きてみようか、というほんの些細なことで思うところに、すごいドラマを感じるんです。だから、僕が書くといつもそういう話になるんです。今、おっしゃったことに近いかもいしれないです。誰も「死んだほうがまし」とはならず、明日も生きてみようか、ということですね。
佐藤:それは負を抱えた人間を描きたく。そして、ある島の存在を知り。今から12年前に新宿のTHEATER/TOPSで「はるヲうるひと」の初演を打ったので、たぶん脚本を書いたのは13年前ですね。小さい小屋だし、その時はもちろん映画になるとも思っていませんでした。お金のある舞台だったら、大がかりなセットにもできるんですけど、そんなことはもちろんできなくて。
そこで1つの設定の1つの舞台。もう少し濃密なものにするために置屋を思いつきました。負を抱えた人たち……女郎たちが負を抱えてるというのも先入観ですけど、そういう人たちの物語の舞台にしたいと思いました。
佐藤:舞台から映画でも連投してるんですけど、今藤洋子が演じた純子、笹野鈴々音が演じたりりをはじめ、実はほぼ全員当て書きなんです。坂井真紀ちゃんがやった峯は、映画に母親役で出演する兎本有紀が舞台で演じましたが、例えば“りり”という名前は笹野鈴々音の“りり”の部分かぶってるぐらい、全部当て書きしました。
やっぱり僕は俳優のお芝居が見たいんです。自分が俳優だからということもあって。(山田)孝之がやった役を舞台では僕がやってるんですけど、その得太も僕に当て書きしました。そういうふうに当て書きしたものを、自分が本当にいいと思う俳優たちがどういうふうに演じるのかを見たいという気持ちがすごくあります。
佐藤:僕は本当に、山田孝之が日本で最高レベルの俳優だと思ってるので、孝之がOKしてくれた時点で、この映画の製作の永森裕二さんから「じゃあ哲雄の役、二朗さんやれば」と言われて、それはありかもな、ということで僕がやろうと思いました。
佐藤:今回は、正直言うともう演じることはしたくなかったんです。『memo』のときに大変だったから。でも、さっき話したように「二朗さん、出たほうがいいよ」と言われて。
今はどう思ってるかというと、これからは出ようと思います。やっぱり僕、脚本も書いて、監督で、自分も出なきゃなって思うな。書いた本を一つの映画というものにするときに、やっぱり僕が出る。『はるヲうるひと』の前は、『memo』で大変だったから、もう今度は監督に集中したいと思ってたんだけど、『はるヲうるひと』を経てみると3作目とか4作目も出ようかなと思ってます、なんか。
佐藤:映画って本当に1つ作るのに大変で、もちろん、大きな会社はどんどん作りますけど、そうじゃないところは、まずお金を集めるのが大変です。お客さんに届けるまでが完成だとしたら、いろいろ障害が山ほどある。今回もコロナで1年延期になってますし。ですけど、自分が作るからこの表現になる、という表現があると自分の中では信じられるうちは、やっぱり3作4作撮りたいなという。
一番ひどいこと言うのは、向井理が演じた“ごく普通”のサラリーマン
佐藤:僕の中から出てます。それは舞台ではなかったんです。打ち合わせをしてるときに、僕が客なら、やっぱり得太といぶきを見たい、つまり、孝之と仲里依紗が見たい、と。ネタバレになるんで、具体的には言えないんですが、そこから出てきた場面です。
佐藤:舞台から連投している今藤洋子、笹野鈴々音、太田善也は、初演も再演もやっているので、ある程度計算できる、という部分もあります。もしかすると、純子のことは今藤が一番知ってるかもしれないし、りりのことは笹野鈴々音が一番、ユウのことは太田が一番知ってるかもしれないぐらいの域なんですが、ふたを開けたら、山田孝之も仲里依紗も坂井真紀も本当に素晴らしい芝居で。たぶん、みんなが同じ方向を向いて、これはいい作品になると思ってくれて、この本に賭けてくれたなという気はします。
佐藤:僕が今回、哲雄をやるというのも意外性というか「見たことがないと感じる方もいると思います。山田孝之があんな弱っちいチンピラで、ばかで、すぐ泣いて、そのくせよく吠える。そういう山田孝之を見てみたかったし。そこまで心に内圧を抱えた仲里依紗の芝居も見たかったし。そして、女郎の中で一番姉御肌で強く見えていたのが、誰よりも弱かったっていう坂井真紀も見たかったし。
向井理もそうです。あんなに普通のサラリーマンの役で、だけど、この作品で一番ひどいこと言うのはあのサラリーマンなんです。ものすごいひどいことを言って、悪気なく去っていくというのを向井理で見たかったし。
佐藤:そう。俳優には色んな可能性があるんです。
佐藤:まず、限りなく昭和というか、むしろ大正ロマンを感じさせるような女郎の世界というのは海外の人にも興味を持たれるかもしれません。そして、やっぱり「試しに笑え、無理でも笑え」というのも万国共通のことだと思うので、そういう意味も含めて、海外の方にも見ていただきたいと思っています。
特に韓国で最優秀脚本賞を取ったのはうれしかったです。役者は演じることに集中すべきじゃないのか? でも、書きたいものがあるから書いていた僕にとっては非常に、今まで書き続けてよかったんだって思わせてくれる賞だったので。
佐藤:当然、作品が色あせることはないし、逆に今のように、みんなが何かを抱えているようなときにこそ、この映画を見ていただきたいと思っています。1年延期になりましたけど、満を持して6月を迎えたいと思っております。
(text:冨永由紀/photo:小川拓洋)
(ヘアメイク:今野亜季〈エイエムラボ〉/スタイリスト:鬼塚美代子〈アンジュ〉)
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