『列島制覇‐非道のうさぎ‐』小沢仁志インタビュー

Vシネマの帝王、その意外な弱点とは?

#列島制覇#小沢仁志#非道のうさぎ

小沢仁志

口パクでごまかしていたんだけど、先生にバレていた

『列島制覇ー非道のうさぎー』
U-NEXTにて先行配信中、6月1日よりAmazon Prime Video、Hulu、FODほかでも配信開始
詳細は公式ホームページでご確認ください。

4月より配信中の『列島制覇‐非道のうさぎ‐』。極道と合唱道という、ギャップのあり過ぎる二足の草鞋を履く男・宇佐木林太郎が主人公のアウトロー作品だ。

15年もの服役生活で合唱の魅力にハマった“非道のうさぎ”こと宇佐木は、大きく変わった任侠の世界に戸惑いつつも身を置き、事務所を構えた商店街の人々と合唱団「うさぎの会」の練習にも励む。

凄まじい組同士の抗争と、のどかな合唱活動との間で揺れ動く宇佐木を演じるのは、Vシネマの帝王と呼ばれる小沢仁志だ。

本作を手がけた『ミッドナイトスワン』の内田英治監督との仕事について、配信作品という新しい試みについて、役者としての思いなどを語ってもらった。

小沢さんの歌があんなに下手くそだとは思わなかった(笑)/内田英治監督インタビュー

──ひと足先に全8話を拝見して、とても面白かったです。こう来るか!という展開も含めて、新鮮な驚きを楽しみました。

小沢:ありがとうございます。

──極道と合唱というギャップのある組み合わせがキャッチーですが、やはりこれが出演の決め手になったのでしょうか?

小沢:いや、まず一緒にやっていこうという企画があっての話だったので、脚本を読んで決めたわけじゃない。監督がなかなか決まらなくて、その間もいろいろな案があったけど、内田監督が撮ってくれることになって急に「合唱」って言うから。は?って(笑)。俺、聞き間違えたか? 歌は医者に止められてるのに(笑)。
もう散々言われたからね。編集が終わったときも監督と飯を食ってて、「みんなで歌っているときは誤魔化せるけど、単体寄りになると、本当下手だよね」って。良かった、現場で言われなくて(笑)。

──設定を聞いて、歌はちょっと……と思われたら、「No」と言えるお立場だと思うのですが、そうはされなかった。

小沢:最初から、何がきても内田監督に全部まず預けようと思っていたから。冷や汗はかいたけど(笑)。
あとはやっぱり役者だからね、いいなと思ったことにはチャレンジしていきたいというのは常にあった。でも、オファーが来るのは、大体「あ、またこんな感じか」みたいなのが現実じゃん、どうしても。
それを内田監督が「小沢仁志と組むんであれば」と考えて、そういう答えが出ているわけだから、「No」という選択肢は俺の中にはなかった。嫌だったのは歌の練習だけ。1回目の練習でも、「いや小沢さん、それは違うよ。もうちょっと笑顔で歌ってくんない?」と言われて、「監督、これ練習だから(笑)。今、音取るのでいっぱいいっぱいだから、すみませんけど、口出さんでもらっていいですか。カメラ回ってねえし」って(笑)。
合唱シーンは、音取んなきゃいけねえ、表情ある、しまいには振りまで入ってきやがって(笑)。芝居もしなきゃいけないって、4つもやんなきゃいけないことがある。もう、こんなんだったら階段落ちやったり、車にはねられている方が楽でいいやって、常に思ってた。

──撮影に入る前に、みっちり練習はされたんですか?

小沢:いや。3回ぐらい、6時間ぐらいかな。小学校、中学校を思い出したよ。俺、先生の目の前に置かれるから。いつも後ろに座るんだけど、「小沢さんはこっちだから」って。
本当に最初の稽古では出ない音があって、みんなが一緒に歌っているから、ちょいちょい口パクでごまかしていたんだけど、先生にバレていて「小沢さん、今歌っていませんよね」って(笑)。
撮影はわりと、合唱は合唱でまとめて、ヤクザの事務所とかヤクザごとはまとめて、という形だったから、明日から3日間ずっと歌のシーンの撮影だよってなると、めっちゃ気が重い。

──新しいことへの挑戦ですね。

小沢:そう。現場でもぶっ飛びちゃん(真飛聖。「うさぎの会」リーダー・みゆき役)に怒られーの、監督に言われーの。しまいには、台本になかった鏡に向かっての発声練習まで撮って。「笑顔で」とか言われて、もう、めっちゃ恥ずかしかったもん。

──今まで見たことのないような表情をたくさん見せていただきました。

小沢:台本に「至福の笑顔」とか書いてあるんだよね。ああいうのはプレッシャーで、活字に書かれていると嫌だったりする。芝居の自然な流れではいいんだけど、プレッシャーが先にくるじゃん。それで監督に「書いてあるでしょう、台本に。至福の笑顔」とか言われると、もうめっちゃ恥ずかしいわけよ(笑)。
何回もやらされたよ。横で、ぶっ飛びちゃんが「小沢さん、かわいい」とか言うから、「もうそれ以上言わないでくれ、それ以上言われるとできなくなるから、俺をそっとしておいてくれ」って(笑)。

──「至福」という言葉は、まさにあの表情を見て思い浮かべたものでした。もちろん台本を拝見していないので、知らなかったことですが。

小沢:ありがとう。役者だから、どんな役でもあるわけだけど、ずっとそういう感じの役がなかったから。大体ヤクザかギャングじゃん。だから、見る人には新鮮だったんじゃない?

──組同士の抗争のストーリーに商店街も巻き込まれる形になり、宇佐木の立ち位置に黒澤明監督の『用心棒』のようなものも感じました。小沢さんは脚本を読んで、物語についてどう思われましたか?
小沢仁志

小沢:内田監督は自分でも書くから、台本を読んだときにどういうふうに持っていきたくて、どう撮るのかっていうのが、やっぱり伝わるね。撮影前に、賞を取った『ミッドナイトスワン』を見せてもらって、何となく、監督はシュールな間とか、そういうのが好きなんだなと思った。そういうのは俺も好きだから。
ただ、しゃべっていないときが大変。セリフがないときの存在感みたいなものも大事だし。
俺の中で、宇佐木の「音」というのがあって、その音を守っていれば、内田監督が目指している宇佐木像とが合っているんだろうな、みたいな。

──その「音」というのを、もう少し詳しくお聞きしてもいいですか。

小沢:言葉で言うより、感覚だからね。合唱の音とは違うよ。あれは、もう全く俺にとっては別もんだから。何て言ったらいいんだろう。あんまり立ち過ぎず、低過ぎない。
最初の1話、2話ぐらいは監督も俺も手探りで入っていったから、宇佐木も枯れた雰囲気でやっていたんだけど、監督が「ちょっとトーンが下がり過ぎているかな」と言うんで、3話ぐらいから少しずつ「音」を上げていった。
1話では、宇佐木は元々ああいうキャラだから、あれでいいと思うんだけど、あのままずっと続くと、作品の流れ的にはやっぱりヘビーかなって監督は思ったんじゃないかな。

──私は普段Vシネとかオリジナルビデオはあまり馴染みがないので、第1話を見て、衝撃でした。

小沢:あのバイオレンス・シーンね。内田監督、好きだから、ああいうのが。
俺もキャラによっては、もっとアクティブにすることもあるけど、やっぱり宇佐木みたいな「音」の中では、ああいうバイオレンスの方がリアリティーがある。静かじゃない? バイオレンスでも。あっちの方が、やっぱり見ている人は怖いのかな。

──凄みがありました。同時に、小沢仁志という俳優にすごく興味が湧きました。組織の幹部クラスになると、どっしり構えているだけ、という先入観があったのですが、今回拝見して、小沢さんはアクション俳優なんだと思いました。

小沢:俺が一番嫌いなのは、年齢的に親分とかになってくると、幹部会で座ってるんだよ。『日本統一』もそうだけど、座ってさ、周りがしゃべるから、もう時々寝ちゃうんだよね、つまんねえから(笑)。セリフねえし、こうやって聞いているだけ。どんどん老けていくんだよね、そんなのばっかりやっていると。
だから遊べるシーンがないと嫌だって言って、『統一』でのかみさんとのやり取りは、ほぼ全部アドリブだから。そういうので遊んでバランスを取ってる。
前にやっていた『制覇』シリーズ(15〜19)も最初の頃はアクションがあったけど、偉くなってからは段々座り芝居ばっかりで、これじゃ俺、老けるからシリーズやめようって(笑)。20でやめるときには「もうやめるからいいだろう、アクションやって」って、最後ばっかアクションやって死んで終わるみたいな。基本、アクションがあった方が好きだから。

──内田監督とのアクション撮影はいかがでしたか?

小沢:ラストのアクション・シーンでは、監督とアクション監督、殺陣師と打ち合わせしながら、俺も「ここはいいよね、監督。ちょっとギラギラしてても」と言ったら、「うれしそうな顔をしているよ。本当にアクション好きなんだね。顔が違うもん」って言われた(笑)。

──大がかりなシーンだけではなく、例えば階段を駆け下りて手すりを跳び越える身のこなしが素晴らしいですよね。周りに20代、30代がたくさんいるのに、その人たちと身体のキレが全然違うところに感銘を受けました。

小沢:40年間やっているからね。内田監督に「20代のときはもっと動けたということですよね」って言われて、「そうですよ」って。「そのときやりたかった」と監督は言っていたけど、いや、今でもイケてるって(笑)。
持久力とか跳躍力は、それは若いときよりも変わっているかもしれないけど、今の方が、流れとかコツかな?それをつかんでる。
若いときって全部に全速力でいくから、無駄が結構多い。ある程度いくと、その押し引き分かるから、バランスでいったら今の方がうまいんじゃない?と思う。
俺も来年還暦、年男の本厄だけど、20代、30代で男も女も日本一動けるようなめっちゃ速いやつらと組んで、アクション映画を作ろうと思っている。
俺の3分の1とか半分ぐらいの年齢のやつらに、おまえら大丈夫? 還暦の男に負けててってやってやろうかなと思ってる(笑)。

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見ていて、スッといくじゃない? そういうのがいいよね

──すごく説得力あるアクションを今回見せてもらっているので、楽しみです。ところで、今回はキャストの顔ぶれが本当に幅広いですね。ベテランから若手、元宝塚スター、ミュージカルで活躍されてる方々まで。

小沢:うん。すごいよね。合唱するとき、ミュージカルのベテランの俳優さんたちに挟まれてるんだよ。歌声がすご過ぎて、俺の歌は聞こえないわけよ。圧倒的なんだよね。すごい人たちのおかげで合唱はできちゃった感はあるけど、1人のやつだけだとしんどい(笑)。
みんな、ヤクザと合唱のコントラストのついている作品だと言うけど、逆にこのヤクザの方の役者さんたちについても、俺はすごい合唱だなと思ってる。みんなのバランスが良くて。
例えば、右京をやっている高橋(光臣)は、あの笹野(高史。菊森組組長・菊森役)さんと近藤(芳正。菊森組若頭・桐原役)さんに挟まれても、ぶれずにちゃんと自分のパターンでいるじゃん。あれだけ左右が好き勝手やっていると、どっかでぶれそうなんだけど、自分のポジションをきっちり守っているから、見てていいじゃん。右京というキャラクター(菊森組のブレーン)に思うのは、やっぱそういうことだし。
近藤さんは、芝居で絡んでいるときに「近藤さんの舌は別な生き物?」と思うぐらい口の中でやたら動くよね。ものすごい動きをするよね。俺、見入っちゃって(笑)。笹野さんは、しゃべっていないときのあの目がさ、「やらしいな、この人。役者だな」と思うし、萬田(久子。関西江南組の姉御・麗華役)さんはやっぱり相変わらずお美しいしね。菅原大吉さん(青州会会長・栗山役)を見て、こんな男の下にいるのは嫌だよね、みたいな(笑)。
内田監督は、現場でエキストラにもやっぱ芝居付けるから。こんな役あったっけ? と台本を見ると、セリフもない、そこにいるだけの人物だったりする。『ミッドナイトスワン』でも、たった一言しかしゃべっていないような人物が結構いいよね。

小沢仁志
あれだけのキャストが縦横無尽に「音」を出し始めても、監督が指揮者みたいにバランスを保っている。だから歌の合唱と、役者の芝居の合唱。
新羅(慎二。宇佐木の兄弟分・片岡役)には「おまえはいいんだよ、ギラギラして。俺がこうなんだから、アンバランスでいいじゃん、おまえが目立って」という感じ。あとは「うさぎの会」の若い3人衆、(吉村)界人・小柳(友)・渡部(龍平)もいて、真飛ちゃんもいい女優さんだし、歌はもちろんすごいし。とてもバランスの取れた作品なんじゃないかな。
見ていて、スッといくじゃない? 誰かの芝居が鼻に付くことがないじゃん。あれだけみんなぶっ飛んでんのに。そういうのがいいよね。
地上波のドラマでは、あれほどのバイオレンスは表現できないかもしれないけど、それを差っ引いたとしても、やっぱりこれぐらいのクオリティーをドラマで出していかないと駄目なんじゃないかな。
この作品も、映画でもなく配信のドラマだし、ぼちぼち、もう「Vシネマ」っていう言葉は消えるからさ。

──そうですか?

小沢:だって、もうビデオショップがどんどんなくなっているからね。俺もバラエティーに出て、そこで作品を紹介してもらうせいもあるのかもしれないけど、ヤクザ映画イコールVシネマになっちゃってる。ビデオショップにしかない映画だからVシネマなんだけど、もう言葉自体が古くなって、意味合いも分かってないんだから、言葉はもう消えちゃっていいんじゃねえ?って。ただ、ジャンルとしては続くから、新しい言葉が出てくるかもしれない。

──『列島制覇』はその先駆けになりそうですね。

小沢:ぜひなってほしいから、いろんな人に見てもらいたい。
あとどれぐらいでコロナが落ち着くのか分からない中で、劇場も大変だし。いろんな配信サービスの、そこでしか見れない作品……U-NEXTならU-NEXTでしか見られない、そういう配信作品の時代になっていくときに、パッケージ・ソフトがメインの「Vシネマ」という言葉は消えていくよね。
「Vシネマ」っていう言葉自体、東映のものだからね。他にVムービーとか4種類ぐらいあったのが自然淘汰されて、東映のVシネマだけ残って、東映以外のも「Vシネマ」と呼ぶようになった。
でも、当初はまだ1本の予算が結構あった。今は、良くてもその10分の1。それはしようがないんだよね。人気がないから。Vシネマのパッケージ売りの基本が根底にあると、店舗が少なくなりゃ、それだけバジェットが落ちちゃうんだよ。
それがこれから変わってくる。配信と組んでいけば、予算は広がっていくし、生まれ変わっていく時代の中で、こういう『列島制覇』みたいなかたちが出てくればいいと思うんだよね。

──実は、今回の取材の前に『日本統一』シリーズの1本を拝見したんですが。

小沢:あ、一番長いのに手を出したね(笑)。

小沢仁志

──まだ全部は見ていないのですが、90年代に見ていた小沢さんの主演作『SCORE』などをちょっと思い出しました。予算が少ない中で、なんとか面白いものを作ろうと創意工夫を凝らしていらっしゃいます。

小沢:Vシネマって、昔で言うATG、ディレクターズ・カンパニーみたいなところがある。あれは独立系の映画だったけど、それが今Vシネマになっていると俺は思ってて。地上波でもできない、大手の映画でもできないことがあるから。
最近あんまりよそはやっていないけど、例えばOZAWA組で俺が監督やったりするのは全部ゲリラ撮影だから。『組織犯罪対策本部捜査四課』(05〜06)なんて、歌舞伎町で『24-TWENTY FOUR-』の日本版を作ろうと思って、5本で3日間徹夜して戦う刑事の話なんだけどね。出てくるパトカー、救急車、制服警官、全部本物だもん。
俺らがロケをやっていると見物人ができて、そこで職質が始まって大捕物やっているところの現場を映して、刑事役の俺がその前に立って、「何? 分かった、そっちへ行く」とか言って、パトカーどんどん来る間、全部ゲリラ撮影。
何回もパトカーの実景を撮っていて怪しまれると、「すみません、パトカーマニアなんで」と答えたり。絶対に製作会社名が入った台本なんか持ち歩かない。最悪、何か言われたら「大学の映研です」って言っとけって(笑)。
松竹で『SCORE』撮っているときも会社名は台本に入れなかった。フィリピンで撮り切れなくて、日本でも撮ったんだけど、渓谷のつり橋で俺がぶら下がってるのを上から撮っていたら、向こう側に派出所があって、「おまえら何やってんだ」って(笑)。スタッフに実際に学生がいたから、「明治大学の映研です」って学生証を見せて。「駄目だよ、学生だからって。危ないんだから」と怒られたり。それをいまだに縦横無尽にやっている。
この『列島制覇』を皮切りにして、新しいかたちが生まれてくるきっかけになっていってくれればいいね。作品としてのクオリティーは十分あるんじゃないかと思ってる。

(text:冨永由紀/photo:今井裕治)

小沢仁志
小沢仁志
小沢仁志
おざわ・ひとし

1962年6月19日生まれ、東京都出身。1984年のTBSドラマ『スクール☆ウォーズ』で本格的に俳優デビュー。以後、『SCORE』『太陽が弾ける日』など、多くの映画やドラマで強面の個性を発揮。スタントマンをほとんど使わないアクション俳優としても知られている。“顔面凶器”“Vシネマの帝王”などの異名を持ち、その出で立ちから数々の悪役を好演。OZAWA名義で監督や企画、脚本をも担当。 近年では活動の場をバラエティ、YouTubeなども始め、更なる活躍が今注目される存在。