ECサイト「北欧、暮らしの道具店」店長。実兄の青木耕平(現在、同店を運営する株式会社クラシコム代表)とともにスウェーデンを旅し、そのライフスタイルにインスパイアされ、北欧輸入雑貨を扱う店を2007年9月18日にオープン。「フィットする暮らし、つくろう」をキャッチフレーズに、やがて北欧以外の雑貨やアパレルの販売のほか、読み物や音声、映像コンテンツの掲載までするように。18年にYouTubeに公開したウェブドラマが話題となったのを受け、長編映画『青葉家のテーブル』(21年)を企画・製作した。
『青葉家のテーブル』佐藤友子「北欧、暮らしの道具店」店長インタビュー
かつての自分と、今の自分に向き合うところで、「いつも泣きそうに…」
ちょっと遅咲きで、屈折が来た
6月18日に公開される映画『青葉家のテーブル』は、青春のみずみずしさと葛藤を映し出すとともに、青春の延長にある大人たちの生き方を描く。「北欧、暮らしの道具店」の世界観が作り出す美術、料理、音楽、衣装と、西田尚美(主人公の青葉春子)、市川実和子(春子の友人・国枝知世)、寄川歌太(春子の息子・リク)、栗林藍希(知世の娘・優子)らが展開する映画版オリジナルストーリーは、雑貨店製作の異色の出自でありながら、若い世代と20年前に青春を過ごした世代への応援メッセージが込められた温かい作品となっている。
今回、その映画を製作したECサイト「北欧、暮らしの道具店」の佐藤友子店長にお話を伺った。
『青葉家のテーブル』に絶賛の声、続々。ふとした日常に“好き”はあふれてる
佐藤:たしかに、春子と同居する女友だちのめいこ(久保陽⾹)は広告代理店、春子はECサイトを運営する会社に勤め、めいこの彼氏ソラオ(忍成修吾)も小説家ですね。このあたりは監督などともどういう設定にしようか考える機会はあったのですが、最終的には松本壮史監督が登場人物のキャラクターを立ち上げています。
魅力あふれる知世のキャラクター設定も松本監督が決めましたが、この“優子のおかあさん”の感じは市川さんでいこうというのはみんなで決めました。市川さんも約5年ぶりの映像作品の復帰作となりましたが、この映画版は、市川さんあっての作品だった気がします。
佐藤:人生観はドラマ版の中でも描かれていたように思います。何か上手くいかないことをどう克服していくかを、青葉家の4人について各1話ずつで描いた全4話だったんです。
誰もが人生で経験する迷いや葛藤を描くという点では同じで、それをもうすこし壮大な長編作品として描き直したいというのはありましたが、テーマを変えようとは思っていませんでした。
佐藤:全て国立で撮影したわけではありませんが、ドラマ版の舞台にもなった私たちの会社をはじめ、国立のさまざまな場所がロケ地になっています。
国立は中央線の果てにあって、高い建物がなくて大学通りに爽やかな風が吹いています。文化的な匂いのする喫茶店や書店があり、文教地区の指定も受けていて子育てにもいい環境です。
兄と起業した会社、クラシコムを青山から移転する段になって、渋谷とか六本木ではなくあえて都心から離れたこの土地を選びました。今もとても気に入っていますよ。
佐藤:今回の映画ではドラマ版と違い、大学の同級生・知世とその娘の優子ちゃんが登場します。優子は10代ですが、彼女がYouTuberや粘土作家などいろいろなことを試しても何だかピンとこなくて、自分のやりたいことが何かすらわからない、という設定です。
でも私はというと、優子の頃はまだ悩みもなく溌剌と過ごしていたんです。中学の終わりから高校の終わりまでの多感な青春期は、父の転勤で広島にいました。山に向かってチャリで登校し、帰りは海に向かって坂道を下る……それが体に合いすぎていたんです。
だから、18歳で東京に帰ってきた私は、自分が周囲とは異質な存在に思えました。同世代が言っていることの意味がわからないし、ノリが合わない……。
佐藤:そうなんです。屈折が20代で来ちゃったんです。居心地のいい場所、自分を活躍させる場所がみつけられなかった。
優子と同じように、その頃の私にもどんな職業になりたいという目標がありませんでした。でも、すごく明確にあったのは、「誰かの暮らしに何らかのポジティブな影響を及ぼせる存在になりたい」ということでした。
それって、花屋かもしれないし、カフェかもしれないし、本を書くことかもしれない。“なりたい私”を追い求めるまま、20代では、バイトなどを通じて、あらゆる職業を経験したんです。様々な上司の下で働き、いろんな人に会って……まさに、優子状態でした。
佐藤:春子も、優子が試行錯誤している姿を見て、自分も若い頃は同じだったことを思い出すシーンがある。また、有名人となった知世を見てうらやましく思う気持ちを抱いて「ずっとやりたかった。いつ始めてもいいよね」と自分に言い聞かせるような場面もあります。
いま40代になって振り返ると、春子じゃなけれど、若い頃に考えていた「こういう職業になっていれば、そういう姿になっていた」という人間像には、私自身もなっていないんですよ。まさか、「WEBショップの店長」がその答えだとは思わないし、今に至ってもそれが正解かどうかはわからない。ただ、責任があるから一生懸命やっている。なりたかった自分を考えられる状況じゃないんです。
佐藤:そうそう。優子にも春子にも知世にも、私の今や過去のエッセンスが投影されているように思えるんです。
映画の中で春子が過去になりたかった自分と、今の自分とのギャップに向き合うシーンがあります。あそこでいつも泣きそうになってしまいます。私も過去になりたかった自分とは違うかもしれないけれど、今の自分がこういう場と役割を与えられれていることには感謝しています。
お店を育てることと、映画作りって?
佐藤:「どうしてこうなったのだろう?」とは、私自身も思います。やっぱり、「北欧、暮らしの道具店」を好きで居てくれた方がここまで導いてくださったんだと思います。
「こういうことをしたら喜んでくれるのではないか?」ということを商品の形にして発売すると、共感した方が買ってくれて次のご提案ができる。その過程は、ドラマから映画へ至る道のりでと全く同じだったなぁという実感があります。反応してくれたり、反響をくれたり、共感してくれる人たちがいない限り、先の道は開かれていきませんから。
実は、WEBドラマの第1話を作る時点では、自分でも腑に落ちていなかったんです。どうしてECサイトが、しかもフィクションのドラマを作る仕事なんか始めてるんだろう?って。会社のスタッフにも、まったくその背景を説明できなかったんです。「何かいい匂いがするからやってみてるんだよね、でも何も起こらずに終わるかもしれない」と言いながら、第1話をやってみて手応えがなければ止めよう、手応えがあったら4話までやろうと決めていたんです。
蓋を開けてみると、第1話にすごく大きな反響をいただくことができました。これまでとは別の取り上げ方をしていただけたことで、会社も一段新しいステージに上がった気がしたんです。
それを受けて、ドラマをやればモノが売れる訳ではないけれど、会社の成長にとって価値があることだと考え、全4話を作りました。
さらに最終的な目標として、皆さんをひとつの会場に招待して、上映会をイベントとしてやることを掲げました。2019年のことです。そして実施した上映会の場で、600人ほどの来場者に対して、「長編やります」って言っちゃったんですよね(笑)。その約束を守るために、なんとしてでも長編映画を完成させなければならなくなった。
モノを売ってお店を育てていくという10年以上続けてきたサイクルと、ドラマから映画製作に至るまでの道のりも、ある意味同じような努力の道のりだったなあと、今は思っています。
(text:fy7d・遠藤義人/photo:小川拓洋)
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