『スーパーノヴァ』コリン・ファース インタビュー

20年を共に歩んできた2人の旅の終着点、深い愛に心が震える

#コリン・ファース#スーパーノヴァ#LGBT

コリン・ファース

どちらの役でも構わないと思うほど、サムとタスカーの関係に魅了された

『スーパーノヴァ』
2021年7月1日より全国順次公開
(C)2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

ピアニストのサムと作家のタスカー、20年来のパートナーである2人がキャンピングカーで旅に出る。最初の目的地はイギリスの湖水地方。2人が出会った頃に訪れた思い出の場所だ。次に向かったのは、サムの姉夫婦が暮らす実家。タスカーがサムのために企画したサプライズ・パーティに友人たちが集まり、温かい時間が流れる。しかし認知症が進みゆっくりと記憶力をなくしているタスカーは、サムの負担になっているのではと不安を打ち明ける。同じ頃、友人の1人から、タスカーがもう文章を書けないと嘆いていたと聞いて驚くサム。パーティを抜け出してキャンピングカーに戻り、タスカーの創作ノートを探すサムは、ある秘密を見つけてしまう。

実際に20年来の友人であるコリン・ファーススタンリー・トゥッチが、深い愛と友情で結ばれたサムとタスカーを演じた『スーパーノヴァ』。先に出演のオファーを受けたトゥッチが「2人の絆が本物でなければ成功しない」と考え、ファースに脚本を手渡し、2人の豪華共演が実現した。

コリン・ファースが、サム役を演じるまでのいきさつや、撮影中のトゥッチとの思い出を語ってくれた。

互いを想い合う2人が愛がゆえに導き出す答えとは?『スーパーノヴァ』予告編

──初めて脚本を読んだ時の感想を教えてください。スタンリー・トゥッチから渡されたそうですね。

ファース:通常とは違い今回は、脚本はスタンリーから直接受け取った。だから読んでいる間、常にスタンリーを意識していた。配役も聞いていなかったと思う。だが、どちらでも構わないと思うほど、サムとタスカーの関係に魅了された。1人の人間として、カップルとして、どちらの役にも魅力を感じたんだ。スタンリーとは昔からの友達だ。20年の付き合いともなれば、互いの良い時も悪い時も見てきているわけだ。だから僕たちなら作品に深みと個人的要素を足せるだろうと思った。
そして何よりも2人だけの小さな宇宙に興味を引かれた。個人的なルートで届いたことで、僕の中で特別深く響いたんだ。エージェントも何も介さなければ、製作会社や契約といった込み入った話もない。友達がシェアしてくれた極めて個人的な脚本だった。だから僕の中で本作とスタンリーはイコールと言ってもよかった。スタンリーから受け取っていなければ、これほどまでに刺さらなかっただろう。ただ、スタンリー以外が僕を求めているのか不安だった。スタンリーはよくても、他の関係者や製作陣が僕の出演を望んでいないなら、邪魔したくないと思ってまず確認したんだ。

──本作の舞台である湖水地方での撮影はいかがでしたか。

ファース:湖水地方は特別な雰囲気を持っている場所だ。だから映画の舞台は湖水地方しかないと全員の思いが一致していた。そしてサラ・フィンリーがすばらしいセットを作り上げた。セットの醸し出す雰囲気が作品に統一感を与えた。足を踏み入れた瞬間から、そこは作品の世界だった。「もっとこうしたほうが……」という気まずい会話を後でする必要もなかった。クルーとキャスト以外とは会わない濃密な6週間だった。特にスタンリーとは本当にずっと一緒にいたよ。泊まっていたロッジも隣同士だった。スタンリーは料理の腕前が抜群なんだ。僕も料理好きだが腕はイマイチなので、スタンリーが毎晩夕食を作ってくれた。毎晩2人もしくは他の人も交えつつ、彼の手料理を食べながら感想を言い合った。その後ベッドに入り、夜明けから顔を合わせた。
本作の大部分はとても狭い世界で進む。そう、キャンピングカーの中だ。トイレと台所とベッドが隣り合っている。だが、窓の外は広大だ。畏怖の念すら抱くほどに果てしなく広大で美しい。この美しい景色には確たる実体がなく、その時々の気持ちに応じて見え方が変わる。湖水地方はすべてを映し出していく。撮影は10月だった。同じ道を走っても、光の具合で見える景色が毎日変わる。雲の動き、雨の降り方、晴れ間ののぞき方によって、ほんの数分でその姿はガラリと別物になる。本当に刻一刻と変化しているんだ。穏やかな空かと思えば、敵意すら感じる空に変わり圧倒されたよ。

撮影中の様子

──はじめはサムではなく、タスカーを演じるはずだったそうですね。

ファース:最初は自分がどちらの役を演じるのか知らないまま脚本を読んだんだ。ただ、スタンリーが「自分がサム役を頼まれそうな気がする」とは言っていた。実際にハリー(・マックイーン)監督の希望は僕がタスカー役、スタンリーがサム役だった。その時は疑問には思わなかった。どちらも豊かで魅力的なキャラクターなので、両方自分で演じたいくらいだったよ。演技は“誰を演じるか”だけの問題ではなく、相手役も非常に重要。「誰を愛し誰に愛されるか」もとても大事なんだ。
でも、何度本読みをしても役がしっくりこず、試しにサムの台詞を読み始めたんだ。何か通ずるものがあったんだろうね、読んでいたらサムがしっくりきた。スタンリーのタスカーを聞いた時、彼以上に演じることはできないと思った。彼がサムをやってみた時もそう思ったからもう家に帰ろうかと思ったよ(笑)。読み合わせを重ねて確信したんだ。“正しい配役は逆だ”と、その場にいる全員が思った。タスカーを演じるのが楽しみだったシーンもあるので、役を離れるのがさみしい気持ちもあった。だが役の交換を決めてからは、誰もがきっぱりと気持ちを切り替えていた。

「私から解放されて自分自身の人生を生きろ」

──ハリー・マックイーン監督とのお仕事はいかがでしたか。

ファース:ハリー自身、そして彼の正直さと情熱の虜になった。本当にいい意味での“バカ正直”な人なんだ。彼は本作に全力を注いで、この物語を伝える意味についてとことん考え抜いていた。多くの意味で刺激をもらったよ。本作に対するハリーの真剣さを見ていたら、自分もこの作品に関わりたいと強く思えたことが出演理由の1つさ。

──スタンリー・トゥッチとの共演についても聞かせてください。

ファース:彼は多才な役者だ。役もスタイルもジャンルも限定する必要がない。なぜならスタンリーは知性と思慮深さを醸し出すことができる。そして“脆さ”も持ち合わせている。本作において彼の脆さの演技には大きな影響を受けた。僕が思うに、彼の演じるタスカーにはおもてには表れない脆さがある。だから矛盾しているように聞こえるかもしれないが、脆さの中にいくらでも強さを出せる。彼の演じるタスカーには強い意志がある。人生をコントロールし、自ら決断して現実に臨みたい。人生に絶望してもいないしボロボロになってもいない。スタンリーにしかできない脆さの演技だと思う。

──タスカーのある決意を、サムは変えさせようとします。もしご自身が本当にサムの立場だったら、タスカーの意志を尊重できると思いますか?

ファース:タスカーが下した決断は自分勝手なんだろうか? サムからしたら望んでいない決断だ。「君が逝ったあと僕はどうなるんだ?」とね。だが、この先に来る現実を考えれば、タスカーの決断はサムを助けるためのものだ。サムの独り立ちを促そうとしているんだ。「私から解放されて自分自身の人生を生きろ」とね。もしずっとこのままでいられるならタスカーだって一緒にいたい。だがそれは不可能だ。だからサムを解放しようとしているんだ。自分の力で解決策を見つけられるよう、サムの背中を押している。確かにサムはひどく苦しむことになる。だが苦しみを乗り越えてタスカーの愛ゆえの選択を尊重したんだと思う。

コリン・ファース
コリン・ファース
Colin Firth

1960年9月10日生まれ。イギリスのハンプシャー州出身。『アナザー・カントリー』(84年)で注目を集め、テレビドラマ『高慢と偏見』(95年)でブレイク。『英国王のスピーチ』(10年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞。主な出演作は『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ(01年、04年、16年)、『ラブ・アクチュアリー』(03年)、『マンマ・ミーア!』(08年)、『シングルマン』(09年)、『キングスマン』(14年)、『キングスマン: ゴールデン・サークル』(17年)、『メリー・ポピンズ リターンズ』(18年)など。