フランス最古のテレビ局TF1のテレビリポーターとしてキャリアをスタートさせ、世界各国を飛び回り、有名アーティスト、映画監督、ファッションスタイリストなどの取材を経験。30歳で、テレビ番組『50’s inside』の監督を任され、同時期にフランスのドキュメンタリーネットワークSPICEEで現代芸術のドキュメンタリーを監督する。自身の劇団で俳優としても活躍。2012年、友人の紹介でゲイの水球チーム「シャイニー・シュリンプス」に加入。2015年、フランスのテレビ局Canal+で、名作映画の架空の舞台裏を描いた短編テレビシリーズ『Scene de culte』を製作。20エピソード分の監督・脚本・出演を務める。マキシム・ゴヴァール監督と共同監督した自身初の長編映画となる『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』は、ラルプ・デュエズ国際コメディ映画祭にて審査員賞受賞をはじめ、数々の映画祭で受賞を果たした。
『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』セドリック・ル・ギャロ&マキシム・ゴヴァール監督インタビュー
ゲイ嫌いの水泳選手がゲイの水球チームのコーチに!? 笑って泣けるヒューマンドラマ
#LGBTQ#シャイニー・シュリンプス#シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち#セドリック・ル・ギャロ#マキシム・ゴヴァール
「たとえ現実が厳しくともユーモアが勝利する」が本作の根底のテーマ
実在のゲイの水球チームにインスパイアされた、笑って泣けるヒューマンドラマ『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』が7月9日より公開される。
元オリンピック銀メダリストの水泳選手・マチアスは、同性愛者への心ない発言の罰として、ゲイのアマチュア水球チームのコーチをすることに。彼が課されたミッションは、弱小チーム「シャイニー・シュリンプス」を3ヵ月後にクロアチアで開催される「ゲイゲームズ」に出場させ、チームの一員として大会に同行すること! 勝ち負けにこだわらない“パーティー好き”なお調子者の集まりであるチームメンバーを前に、初めは適当にやりすごそうと考えていたマチアスだったが、それぞれに悩みを抱えながら大会を通して自分らしさを表現しようとするメンバーたちに、少しずつ心を開いていく――。
実際にシャイニー・シュリンプスに所属し、自らの体験を映画にしたセドリック・ル・ギャロと、彼と二人三脚で脚本・監督を務めたマキシム・ゴヴァールにインタビューした。
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セドリック:昔はゲイの友人なんて一人もいなかったんだけど、ある日女友だちに参加を薦められてね。チームの連中に会ってみたら、実に和やかな雰囲気で気に入ったよ。何度も通っていると、あれよあれよのうちに試合に出るようになり、メンバーと絆ができたんだ。堅い友情で結束したチームメンバーは僕の親友たちだ。チームに入るってことがそんなに大ごとなんて思わなかったのに、ありのままの僕を受け入れてくれる彼らに出会って人生が変わったよ。
セドリック:お互いに長所や短所、性の悩み、身の回りのあれこれ、恋の悩み、なんだって話せるからさ。ロッカールームで交わすジョークは、ストレートの人とはまるで違うんだ。チームの連中とそういう悩みや問題を分かち合えるって、いいことだよ。それに、みんなパーティとダンスとおしゃれが大好きだ。それって、僕なんか子どもの時以来やったことがなかった類のものだね。10代の延長を派手にやっているって感じかな……。
セドリック:もちろん。僕らの水球チームはもう何年も試合に勝っていないけど、練習とコスチューム作りは欠かしたことがない。上位に食い込むことは眼中になくて、狙うは“最優秀雰囲気”賞。僕らみんな水球は大好きさ、ストレス解消にはもってこいのスポーツだしね。ただ、ほかのチームと違って何が何でも勝ちたいとは思っていないんだ。僕らが大事にしているのは、あくまでみんなで一緒に過ごすことさ。
セドリック:すごく親しい、まるで思春期みたいな友人関係を体験できるなんて、かなりすごいことだと思っていた。それに、パーティなんかでゲイの水球チームに入っていると言うとウケたんだよ。マイナースポーツの水球にゲイがつくと、人の心をくすぐるんだね。Canal+の短編シリーズ『Scenes de culte』を撮影中にはもうこの映画のアイデアを思いついていたんだ。で、この番組には製作者が2人いたんだけど、その片方のアエドゥアール・デュプレにこの話をしたら、彼の目がキラッと輝いた。「あ、長編映画デビュー作のテーマが見つかった」と思ったね。それから脚本を書き始めた。インスピレーションはチームからもらったけれど、ストーリーが必要だった。そこでマキシムと僕がイメージしたのが、ゲイ嫌いのコーチとゲイの水球チームという、根本から全く違う世界に住む人間たちのぶつかり合いのドラマだった。
マキシム:そう、それこそ僕がこの作品をやりたかった理由なんだ。監督も2人必要で、まったく違うやり方を持ち込めたのがよかった。コメディ、ドラマ、ときにはアクション、スポーツ、ダンスとマルチなジャンルの映画で、おまけに全編がロードムービーの作りになっていたから、僕も学んだことは多い。これが長編処女作のセドリックにとってはどうだったか想像もできないけど、スキーに例えると、やっと夜間滑走を始めたところかな。
セドリック:そう、どのキャラクターも各自挑戦する課題を抱えているから、そこは重要だった。チームとしてのゴールは「ゲイゲームズ」に参加することだが、各人にそれぞれ自分のゴールがある。フレッドのゴールはルーティンを踊る権利を獲得すること、ジャンは秘密を隠しつつ親友たちと過ごすこと、ヴィンセントはパリに来た若いゲイを冒険に駆り出すこと。アレックスは愛し続けてきたジャンを取り戻したい。セドリックは家族とも友人たちともうまくやっていきたい。みんなそれぞれの旅があり、挑戦があるんだ。
セドリック:実際のチームメンバーとまったく同じという人はいなくて、誰もが「なるほど」と納得できる典型的なキャラクターになっているんだ。例えば、セドリックが興味深いのは、家庭を持つ一方で長年付き合っている恋人がいる実際のチームメンバーをモデルにしているから。シュリンプスのメンバーであるってことは、時間もエネルギーも必要だ。でも、ごく親密な集団で、独自のユーモアや関係性、文化や歴史を共有する、離れがたいチームなのさ。性別適合手術したフレッドは実際のシュリンプスにはいない。だけど、フレッドの素晴らしいエンターテイナー魂や振り付けにかける情熱、ファッションセンスは、僕らもちょっとずつ持っているね。実際のチームの中にもフレッドに近い人物は3~4人いるよ。性別適合手術はしていなくても、芸人魂と舞台センスがあって、スポーツの腕前以外の何かで脚光を浴びたい人たちがね。
セドリック:キャラクターそれぞれにちょっとずつ僕が入っている感じかな。初めて水球クラブに入った7年前の僕はヴィンセントだし、エンターテイナーに徹するフレッドも、僕の一部だったりするよ。快楽主義的なところはグザヴィエだし、恋愛関係を継続しているところなんかはアレックスだ。一番遠いのがセドリックかな。人生のいろんな段階の僕が、キャラクターの誰かに当てはまるね。
セドリック:キャスティングはややこしくてね。すご腕のキャスティング・ディレクター、コラリー・アメデオがいてくれて本当によかった、ビデオ・オーディションで予め選んだ俳優が、キャスティングルームに入ってくるたびに一目で気に入ったほどだよ。シーンを演じる前からその役にピッタリだとわかった。挨拶の仕方とか部屋に入ってくる動作とかに、そのキャラクターが見えるんだね。おかげで審査は難航しなかった。
一番苦労したのはフレッドを演じる役者だったな。ここはアメリカじゃなくフランスだから、性別適合手術をした俳優はほとんどいない。リアリズムを追求したいからそれでも探し続けたんだ。キャスティングが始まって数週間経っても、まだフレッド役にふさわしい人物が見つからなかったが、そんなときにピガールのキャバレー“マダム・アーサー”の踊り子ロマンを知ったんだ。やっとフレッドを見つけたよ。堅い友情で結ばれたこの集団の特徴を壊すのは論外だったので、明るいキャラクターを選んだ。でも、俳優たちはゲイのカリカチュアに堕ちないよう本当によく協力してくれた。現実感と繊細さだけは何としても保とうと、俳優だけでなくスタッフ全員がそこにこだわって、いつも絶秒なバランスを探していた。まるで綱渡りだったね。
マキシム:まあ、小学4年生の教室みたいなものかな(笑)。子ども主体の映画を撮ったことがあって、撮影はすごく刺激的だったけど、何が難しいって、一緒に過ごす時間の半分は友だちとして、もう半分は指導者として接しなきゃならないことだ。大所帯はとてつもなく素晴らしくもなるけど、収拾がつかなくなる場合もある。とんでもないエネルギーを発揮するよ!
他人の意見に煩わされることなく精一杯生き、どんな困難にぶつかっても自分に正直に
マキシム:水球ってタフで、想像しうるどんなスポーツよりも肉体を使うんだけど、それはあまり知られていない。初めて会ったとき、水中歩行さえろくにできない俳優もいたくらいだ。撮影3ヵ月前からトレーニングして、やっと全力で泳げるようになり、水球競技もサマになった。みんな頑張ったよ。
マキシム:日中は暑すぎてプールでの長時間撮影は厳しかったから、ちょっとズルをして夜に撮影した。ときには朝方4時まで撮影したので俳優たちはクタクタだったよ。俳優9人を1つの画面に収めるのは大変なこともあり、予算と時間が限られているからロングショットを多用したんだ。
マキシム:水中の撮影はほんとに疲れた。プリロールはたくさんあるわ、カメラが濡れるわで、問題山積……いや、参ったよ。ある夕方なんか雷雨に見舞われてね。土砂降りの雨が止むのを待って3時間もロスしてしまった。でも、水着を着た200人のエキストラがいる、メガホンやクレーンがある、チーフカメラマンが水中で撮影しているといった光景には元気づけられた。子供の頃の夢が叶った、と思ったよ。
マキシム:ああ、大変だったね。プールを大きなクラブに見立てて撮った7分間のシーンだったけど、何しろその日のためにパリから150人ものエキストラを連れてきたので、何か撮り忘れがあってももう一回というわけにはいかない。ロングショットの間、カメラは水を出たり入ったり、複雑に動かなければならなかった。しかし、どうしても納得いくショットが撮れなくて、気がつけば僕らは――といっても映画全体でいえばほんの一部の撮影チームだが――気温44度の中、祈る気持ちでモニターを見つめていた。そしてライトが切られる1分前ついに撮れたんだよ、いいショットが。すごく興奮したね!
セドリック:“たとえ現実が厳しくともユーモアが勝利する”が根底のテーマだからね。このシリアスな局面はマシアスによって表現されている。彼のゴールはただ一つ、競泳の世界チャンピオンになること。そこを目指して、たとえ娘との関係を犠牲にしても、ストイックで厳格な人生を歩んできた。ところが、シャイニー・シュリンプスの連中ときたら、みんなパーティと大騒ぎ、ジョークと笑いが大好きだ。世界でいろんな映画が作られてきたけれど、ユーモアの価値が軽視されている場合もあるように思う。だけど、それは間違っているよ。ユーモアは絶望を埋めてくれるし、自由への叫びでもあって、人生を少しだけ明るくしてくれる。シュリンプスのユーモアは、お互いの気持ちが楽になるよう手を貸してくれるんだ。
セドリック:それは難しい質問だね。他人の意見に煩わされることなく人生を精一杯生き、たとえどんな困難にぶつかっても自分に正直に生きること――確かに、シュリンプスはそういう人生の価値を謳っている。だけど、その根底にあるのは「積極的に人生を楽しもう」という考え方だ。なので、僕はこの映画を『BPM ビート・パー・ミニット』(17年)のようなはっきりそれとわかる人権闘争映画とは思わない。けど、闘争というのが同じ世界観を共有するという意味なら、そうかもね。シュリンプスのメンバーは世界観を共有しているよ。
セドリック:ゲイでもストレートでも、男でも女でも、「自分もあのバスに飛び乗ってシュリンプスと一緒に旅に出たい」と言ってくれたら嬉しいね。
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