1985年7月5日生まれ。東京都出身。01年にロックバンド「RADWIMPS」を結成し、「25コ目の染色体」(05年)でメジャーデビュー。illion(イリオン)名義でソロプロジェクトを行っているほか、俳優としても『トイレのピエタ』(15年)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18年)、NHK連続テレビ小説『エール』(20年)などに出演。
山田組初参加で変わった映画への印象
松竹映画100周年を記念して、人気作家・原田マハの同名小説を『男はつらいよ』シリーズなどの名匠・山田洋次監督が映画化した『キネマの神様』が8月6日より公開される。本作は、妻や娘からも見放されたギャンブル狂いのゴウ(沢田研二)が、孫の勧めでかつて青春時代にとん挫した映画の脚本を書き直し、脚本賞に応募しようとすることから、止まっていた人生が再び動き出す様を描いた人間ドラマ。
劇中の青春パートで若き日のゴウ(菅田将暉)の盟友・テラシンを演じたのが、人気ロックバンド「RADWIMPS」やソロ活動「illion」など音楽家としてファンを魅了してきた野田洋次郎。これまでにも第39回日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞した『トイレのピエタ』をはじめ、『泣き虫しょったんの奇跡』やNHK連続テレビ小説『エール』など、音楽家だけでなく俳優業でも独特の個性を放ってきた野田に、自身の若い頃にも重なったというテラシンとゴウの関係や、初参加となった山田組を経て変わった俳優業への思いを聞いた。
・菅田将暉×野田洋次郎が青春の喜びと挫折を歌い上げる! 『キネマの神様』特別予告編
野田:俳優が現場に入る何時間も前からスタッフたちだけで動きや撮り方を明確に作られていて、撮影が終わってからもずっと監督はスタッフと話をされていたと毎日聞いていました。現場でも監督がどんどん思いつくことがあり、それに合わせてみんなでどう実現させていこうかという情熱が詰まった現場でした。
野田:リアルを追求する方なので、「人間ってこうするとこうなるんじゃないかな」「きっとこの人はもっとどもったりするんじゃないかな」とか、その場でその人間がどう生きるかをすごく大事にされる方で、気づかされることがたくさんありました。
野田:山田監督はあのご年齢で何十年とやってこられたのに、多分1作目を監督された時と何ら変わらない情熱でやられているのではないかと思いました。単純にモノを作る人間として励みになるというか、果たして僕はあの年齢であそこまでの情熱を持てるだろうかとかとも思いましたけど、こういう方がいるのであれば僕も出来る限り作っていきたいと思いました。
野田:僕自身は自分のことを役者だとは思っていませんでしたが、山田組に参加してそんなぬるいことは言っていられないというか、参加したからにはやはり役者であるべきだと思いました。あの現場を経験して初めて自分も役者と言っていいのかなという気になれたくらい大きな出来事でした。山田監督を見ていたらものづくりにおいて妥協なんかしたらいけないんだ、最後の最後の一秒まで考え尽くして自分の持てる全てを出し尽くすんだ、という。言葉にすると簡単そうなことですけど、そういうことを本当に気づかされました。
才能ある人と見抜く人は同じくらい必要。テラシンとゴウに共感した思い
野田:テラシンは自分に才能がないと言っていましたけど、才能ある人を誰よりも見抜く力があったと思います。僕自身は普段作る側ですけど、世の中は2種類の人たちが必要な気がして。何かを作り出せる人がいるとしたら、それに気づいてあげられる人もセットで同じぐらい大事だと思います。両方あるからこそ世の中のアートだったり作品やクリエイティブなものが進化してきていると思っていて。そういう意味で、僕にも高校時代に「お前の歌すごい」と言ってくれた人がいました。自分にとっては当たり前で「何がそんなにすごいんだろ?」と曲を作っていましたけど、バンドメンバーだったりそう言ってくれる人がいたからこそ、もうちょっと頑張ってみようかなと感じたのを思い出しました。
野田:テラシンのゴウへの疑いようのない確信と言うか、そこに一つでも疑いがあったら2人の関係性は違っていたと思います。(映画監督を夢見る)ゴウが生み出そうとする発想の力みたいなものを全身全霊で愛していることは伝えたかったし、そういう役だと思ったので、そこはすごく意識したと思います。
俳優業の心境に変化「この先もぜひやってみたい」
野田:謙遜というか、役者ではない僕にオファーをしてくれたのだから役者である必要はない、みたいなひねくれた思いがどこかでありました。僕が僕でいればいいのかなと。でも、山田組はそれが許されるわけもなく、その場で4つも5つも6つも7つもつも同時に色んな演出をされて、「ここでこう動いてここでこう飲んで、ここできっと彼はこんな風な表情をして、瞬きを2~3回して」とか。煙が頭から出そうな瞬間もありましたけど、それをやっていくにつれて演じることの面白さみたいなものを教わった気がしました。(山田監督が)全力で役者として僕と向き合ってくれたのもありましたし、嬉しかったです。
野田:それはあると思います。改めて「俺は音楽家だ」と気づかせてくれますし、スタジオに戻った時のあの安堵というか自分の居場所感もそうですね。音楽は基本的にスタジオという密室の中でひたすら自分の中と格闘する感じですけど、俳優業は自分の外側に色々な人や初めて会う方もいて、そういう人たちと面白いものを作るんだっていう。そういう内側と外側が交互に入れ替わる感じで、すごく面白いです。
野田:あまり思っていないかもしれないですけど、未体験のものに触れてみたいという思いは常にあるので、こんな役を自分が演じたらどうなるんだろうと思えるものは、この先もぜひやってみたいです。
主題歌、RADWIMPS feat.菅田将暉「うたかた歌」は「テラシンとゴウでしか完成しない曲」
野田:1年ほど前なのでプロデューサーの房(俊介)さんに言われたのか僕自身が勝手に作ったのか記憶は曖昧になっていますけど、大体僕は作品に入ると音楽にしたくなるんです。監督に感謝の気持ちを伝えられたらいいなとの思いもありましたし、撮影が終わってしばらくして志村(けん)さんのこともあったので、この映画もそうですけど現実とどこが境界なのか分からなくなるような不思議な時間を音楽にしようというか、残したいと思って最初作りました。そこから主題歌への話や、菅田君と一緒に歌ってみてはと提案されてできた曲です。
野田:もうあの曲はやはり、テラシンとゴウでしか完成しない曲だったと思います。この映画の中で生きたあの2人が、一つの楽曲の中に存在することに大きな意味というか価値があると思いましたし、彼の持ってる説得力みたいなものが声でも変わらず存在するし、すごい稀有な存在だと思います。
野田:全ての登場人物がこの映画の中で100%生き抜いていて、嘘がないです。こんなに作り物なのに嘘がない映画は稀だと思いますし、山田監督のエネルギーと知性とアイデアで、(鑑賞中)1回も飽きることがなく見る人すべてをちゃんと最後は幸せへと届けてくれるのは間違いなく保障できます。だからこそ映画館で見て欲しいですね。映画の神様に会って欲しいと思います。
(text&photo:ナカムラヨシノーブ)
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