大阪府出身。舞台女優としてキャリアをスタートさせ、「TSUCHI-GUMO〜黄昏の血族、暁の王」(10年)、 「Letter」(11年)、 「荊姫」(13年)、『オルゴール〜ただ一途に〜(16年)、ミュージカル「白雪姫」(17年)などに出演。和田秀樹監督の映画『私は絶対許さない』(18年)では、15歳の時に集団暴行を受けた過去を持つヒロインを熱演し、ノイダ国際映画祭審査員特別賞を受賞したほか、マドリード国際映画祭では主演女優賞にノミネートされた。
体当たりの熱演」という言葉はよく用いられるものだが、7月19日に公開を迎える映画『アンダー・ユア・ベッド』で西川可奈子が見せた芝居は、この形容では表現しきれないほどに力強い。
高圧的かつ暴力的な夫からのDVに苦しみながら、我が子を守ろうと必死に生きるヒロインを演じた西川に、被虐的な女性を演じることの意義や、女優としての原点、これからの展望について話を聞いた。
西川:こういう役どころって、なかなか演じるチャンスがないと思うんです。被害と言いますか、DVやレイプといった悲惨な芝居って、リアクションが大事だと思うんですけど、そういったものは相手があってのことなんですよね。こういう役って撮影期間中はとても苦しいんですけど、しんどいからこそ、すごくやりがいを感じます。お芝居自体は、どの役にも精一杯取り組むことには差はなくて、被害者だから、痛みがあるからと言って、特にお芝居の方法が変わるわけではなく、リアクションが多くなるだけだと、私は思っていますね。
西川:夫婦のバックボーンというものを、3人で話し合いました。どういった経緯で、劇中で描かれている関係になったのかということをしっかり考えていないと、普段の生活感が出ないので。2人は初めからこういった夫婦だったわけではなく、健太郎の過去や千尋の家族関係、そういうことも関係して「今」に至る。そういった部分はちゃんと共有しました。緊張感はかなり大事にしたと言いますか、今にも細い線がぷちっと切れてしまうんじゃないかというぎりぎりのところで、千尋は毎日を過ごしているので、そういった部分が画面を通して伝わるように、緊張感・緊迫感を大切に空気を作ったという感じですね。
西川×:そうですね。「終わったぁ〜」と(笑)。でも本当に、私が思う以上に皆さんが心配してくださっていました。今回のオールロケでは、地方で2週間、缶詰め状態だったんですが、それも千尋としての精神状態や身体を心配してくださってのご配慮だったので、その環境はとてもありがたかったです。やはり集中して取り組めましたし、そのことだけを考えて過ごせた2週間だったので、その環境をいただいて、本当にありがたかったですね。皆さんは「大丈夫?」と心配してくださるんですけど、本人は意外とケロッとしているものなんですよ(笑)。
西川:本当に! だから「終わったぁ〜」と感じるともに「ああ、終わったのか……」とも感じたんです。「今日で千尋が演じられなくなる」って、なんか寂しかったんですよ。なので打ち上げの時に「幸せでした」と言ったら、皆が「えー!!」「本当に!?」と驚いてました(笑)。「いや、本当に!」と伝えたんですけど、皆さんは本当に常に心配してくださっていましたね。
西川:三井くんにとって、千尋という存在は唯一の生きがいだったと思うんです。千尋も、張り詰めた環境の中で生活していくうえで「誰か」(=三井くん)の存在というのは、かなり大きかったと思うんですよ。それが「誰か」ということは、千尋にははっきりわからなくても「誰か」が私を見てくれている。ただそれだけで、どれだけ千尋が救われたか……。その人と関係や面識がなくて説明できない関係性ですけど、2人の中では成立していたというか、大切な存在だということは、お互いどこかで分かっていたんじゃないでしょうか。
西川:それが、役についてや、どう芝居するかということは、一切話さなかったんです。高良さんは、その場の空気感や現場で生まれるものを大事にされる方なので。私も、そちらの方がうれしくて、事前に演技プランを固めていくよりも、現場の雰囲気や高良さんが演じる三井くんの表情で、演じる空気を作っていったという感じですね。
西川:印象深いシーンは本当にたくさんあるんですけど、健太郎との関係性がひと目でわかるシーンがあって・・・・・・。その画は身体暴力よりもきついシーンだと感じましたね。その時の千尋の表情は、もう……。
セリフも頭にこびりついています。そう言わなきゃ後でもっと酷いことに遭うかもしれない。2人が対峙した、あの張り詰めた空気感は、私の中では何よりも強烈に残っています。
あとは、高良さんの表情ですかね。今まで高良さんの作品は幾つも見てきましたけれど、「あ、こんな表情をされるんだ。高良健吾さんって」という、初めて見る表情でした。繊細な、色々な表情をしてくださったので、自分が見えていないところで「あ、こんな表情をしてくださっていたんだ」ということを、完成した映画を見てわかったというか……。改めて「すごい役者さんだな」と思いましたね。
西川:撮影では毎度、覚悟を決めて挑んでいますが、今回は振り切った感がありました。とにかく、監督の熱量が本当にすごい現場だったんですね。監督だけでなく、スタッフさんやキャストの皆から「勝負するぞ!」という空気感が、現場中に漂っていたというか。言葉で説明できない、そういった空気感があったので、この監督が言うことには、このスタッフさんたちが求めることには「全力で応えたい!」と、心から思ったんです。「お願いできますか?」と言われたら「やります!」と。本当に心を決めて「何を言われても大丈夫」という覚悟が、今回新たに生まれたなという思いがありました。
それは、女優・西川可奈子にとっても、大きな自信につながったと言いますか「これができた。じゃあ次は、何でもできるだろう」と思うようにしました。「怖いものはないのかな」という思いが、固まってきたというか。あとは、見せ方などをいろいろと研究しながら、魅力的に見える女優になりたいです。やっぱり、今回は必死な部分が多くて余裕がなかったので。
西川:ミュージカルや商業舞台を、小さな頃から見ていたんです。自分がまさかやるとは思っていなかったんですけど、表現することの楽しさというのは、ある時に目覚めて。それはコンテストだったんですけど、その場で自分が表現したことで、周りの人が評価してくださって。それで賞をいただいたときに「もっと自分で表現していきたい」という思いが固まって、まずは舞台に立とうと思ったんです。
それで、大阪から東京に出てきて。といっても何のつてもないので、オーディションに通いながら、まずは現場で一から全てを学んでいったという感じです。とにかくお芝居することとは無縁だったんですけど、そういったきっかけで、最近は映像の方にチャンスをいただくようになりました。もともとは、映像もやりたいとずっと思っていたんです。遅いスタートですが、映像の方を頑張らせていただきたいなと思っています。
西川:20歳〜21歳くらいの時ですね。その時はもう社会人だったんですけど、会社に辞表を出して「辞めます」と(笑)。
西川:そうですね。皆、大学を卒業して就職するタイミングで、私は逆に会社を辞めて、勝手に東京に出てきたので。母親も、すぐ戻ってくるものだと思って送り出したんですけど、なかなか帰ってこないという(笑)。
西川:そうですね。今はそう思ってくれていますね。途中はやっぱり「ちゃんとけじめをつけないと」と言われていたんですけど、「まだまだ、まだまだ」と辛抱強くやってきたおかげで、こういったチャンスをいただけて。
西川:好きな作品はたくさんあるんですけど、けっこう強烈な作品を見ることが好きなんです。映画『キャタピラー』とか、寺島しのぶさんが出演されている作品は、けっこう見ていたり。衝撃を受けて、寺島さんの作品をいくつか見ていく中で、「この覚悟はすごいな」と感じて。寺島さんも、思い切って演技される方じゃないですか。どこかのインタビューで「女優は、服を着ていても、服を着なくても一緒。裸も衣装みたいなもの」といったことが書かれていて、「かっこいい……。どこかで言おう」と思って(笑)。今、言っていいですか? 今からじゃ遅いか(笑)。でもいつかは、そういう風に堂々と言いたいなと思っています。
西川:最近、お酒を飲む機会が増えていくにつれて、お酒が強くなったんでしょうね。別に、呑まなくても全然平気な人なんですけど、ふらっとお店に入って、カウンターで呑むんです。
西川:(笑)かっこいいでしょう? カウンターで1〜2杯呑んでサクッと帰るというのをやっているうちに、会う人会う人に「お酒強そうな顔してますね〜」と言われるようになって(笑)。
西川:むしろ、そのことばっかり考えますね。
西川:大切だと思います。マネージャーともよく呑みに行きますけど、そういう時間は「こうなっていきたい」とか「こうなろう!」というのを明確にする、有言実行のきっかけになるので、そういった話をしている時間が好きですね。なんか、大丈夫ですか? こんなこと言って、いいのかな(笑)? まぁお酒がどうこうというより、仕事のことを話す時間というのが大切というのがさっきの答えですね。
西川:「この役をやりたい、あの役がやりたい」と言ってもキリがないと思うんです。どんな役でもやらせていただきたいっていうのが、正直なところで。愛せない役でも愛そうとする努力だったり、そういったことの方が大事だと思うんです。
ただ、今までやってきた役の中では、けっこうヘビーなものが続いていたので、振り幅を大きくしたいという面でも、真逆の役とかもやってみたいなという思いはあります。それこそ、コテコテの大阪人とか(笑)。もちろん、生活感というか、普段の生活のお芝居の方が難しいと思うんですよね。なので、人情モノや家族の話、日常を描く作品にも、どんどん携わっていきたいなと思います。
(text&photo:岸豊)
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