生産性とは無縁に生きた天才芸術家が幸せであり続けた理由とは? SNSが発掘した才能の軌跡

#SNS#ドキュメンタリー#ミールアート#今井次郎#芸術

SNS上で「ミールアート」が話題に 死の直前まで創作し続けた芸術家

没後9年が近づく今も、SNS上で発見され話題を呼んでいる芸術家・今井次郎の半生を追ったドキュメンタリー『芸術家・今井次郎』が10月30日から公開される。この度、その予告編動画が解禁された。

がん病棟の病院食がポップアートに 没後もSNSで再発見される芸術家・今井次郎とは何者?

にっこりと笑うパン、食べ物で作られた犬や鳥の写真。それらは、今井が悪性リンパ腫に侵され、厳しい抗がん剤治療の最中に作り続けた「ミールアート」と呼ばれる作品たちである。半年間の入院生活の間日々SNS上に投稿されたミールアートは、現在もなおSNS上で再発見され、評価され続けている。

今井は戦後7年目である1952年生まれ。手塚治虫やビートルズに熱狂し、中学生の頃からバンド活動を始める。1976年に劇団「時々自動」の前身である「自動座」に入団し、劇団での活動と並行してバンド活動を展開。東京のパンク/オルタナティブ音楽シーンにおける伝説のバンド「PUNGO」にはキーマンとして参加し、現在でも活動を続ける「時々自動」に音楽や出演で参加し続けた。1990年代半ばには、「JIROX(ジロックス)」名義で活動し、ありあわせの素材で創作したオブジェや絵画、自身の作品を用いたパフォーマンス「JIROX DOLLS SHOW」は若者たちから支持され、以降も多くのミュージシャンやアーティストたちから愛されてきた芸術家である。

「いつどんな形であっても自分自身を表現せざるを得ない」古典的な芸術家のような今井の姿は、死に先立つ半年間の作品からも見て取れるだろう。「ミールアート」をはじめ、ノートの端や薬の袋に走り書きされた譜面、Twitterなどに発信されたシュールな回文、オブジェや「時々自動」の公演での新作曲など、闘病の最中に創作され、発信され続けた作品たちは、死の意識への迫力を伝える一方、作られたものの「自由さ」は見るもの聞くものに「幸せ」を感じさせる。

今井の死後、2018年には『芸術家・今井次郎』制作のためのトリビュートライブが開催され、7組のアーティストが参加した。本作は、「時々自動」の出演や映像として参加していた青野真悟と大久保英樹が監督を務め、「今井次郎トリビュートライブ」の映像を主軸に、今井本人のパフォーマンス映像や取材映像などをリミックス。関係者インタビューも行い、社会に適応できない一面を持った人間が「幸せであり続けた理由」にも切り込む。「生産性とは無縁のなもの、不要不急なもの、役に立たないもの」の大切さを問う、コロナ禍の今だからこそ見たい作品になっている。

また、ブックギャラリーポポタムで10月8日から10月31日まで、連動企画「芸術家・今井次郎」特別展を開催。映画に先駆けて「ミールアート」をはじめとする今井作品をチェックできる。

映画『芸術家・今井次郎』は、10月30日全国順次公開される。