今回のコラムでは、ホラー映画をよく観る方向けとして、近年の作品を中心に割とマジで怖い(あるいは、面白い)ホラー映画を紹介していくのだが、本題に入る前にピックアップする際のルールを作成しておきたい。策定したルールは以下の5つ。
①ガチで怖い作品をセレクトする
②それほど怖くないがホラー映画として完成されている作品もセレクトする
③存在自体がある意味ホラーな珍作もホラー映画の醍醐味なので、せっかくだから入れる
④Netflix、またはAmazon Prime Videoなど何らかのサブスクで視聴できる
⑤上記ルールは一度だけ破って良い
かなり緩いレギュレーションであるのはさておき、まずは今年公開された作品からピックアップしていく。
・一家殺人事件に超常現象、『悪魔の棲む家』の舞台となった幽霊屋敷のその後
現時点でゴアの極地『哭悲/The Sadness』
台湾発のスプラッター映画で、本国での公開は2021年。日本では今年の7月に公開された。
未知のウィルスにより凶暴化した人間は、自分のあらん限りの欲望を果たそうと狂気の沙汰を繰り広げる。感染者たちの狂宴はさながら地獄絵図といった感じで、現時点のゴア表現としては、かなり高いレベルにある。
とにかく血飛沫の量が凄まじく、痛い描写もノンストップで繰り広げられる。ゴアというかグロ表現であれば『セルビアン・フィルム4Kリマスター完全版』も今年改めて公開されたが、セルビアン・フィルムはまあ……お察しください。
とにかくグロやゴアがお好きな人には間違いなくおすすめできるが、全員が全員モラルの欠片もない行為を繰り返し、セクハラなんぞ生ぬるいエグめの強姦シーンもたっぷりあるので、その手の表現に精神的な苦痛を感じる方にはまったくおすすめできないし、やめておいた方が良い。
・[動画]衝動が抑えられず凶暴化した感染者が襲う/映画『哭悲/THE SADNESS』予告編
今年は台湾ホラーが強かった『呪詛』
2本目にピックアップした『呪詛』も台湾製ホラーで、日本ではNetflixで配信された。
本作は台湾で実際に起きた事件から着想を得ていて、過去の咎により激しく呪われた母親が、さらにハードコアに呪われた娘を助けようと奔走するのだが、そうは問屋が卸さない。周囲の人間を巻き込みながら、呪いの連鎖は続いていく。
ホラー映画には「精神的に恐ろしい」ものと「視覚的に恐ろしい」ものがあるが、本作は前者よりながらも、後者のスパイスも花椒を振りまくった麻婆豆腐のごとく添加されている。
不思議なことに、『呪詛』はホラー映画好きは「怖い」と言い、それほどホラー映画を観ない、あるいは苦手な人は「そうでもなかった」と語る人が多い。要はリテラシーが高いほど恐ろしさが増す仕様になっている。ここが凄い。
筆者は他媒体で書くために今夏5回ほど鑑賞したのだが、3回目で帯状疱疹にかかり死にそうになった。これが映画を観た結果の呪いかどうかは定かではないが、疱疹が生じたのは事実である。未見の方はぜひ「ホーホッシオンイー シーセンウーマ」と唱えながら視聴してみて欲しい。責任は取らない。
精神的に怖いといえば『哭声/コクソン』
『呪詛』は精神的にくる作品だったが、その手の映画ならば2017年の『哭声/コクソン』もまた、呪い、韓国土着宗教、キリスト教、そして韓国が潜在的に持つ「恨(ハン)」を効果的に活用した凄まじいホラー映画だった。
山の中を半裸で走り回り鹿を生で食らう國村隼も相当怖いが、小さな村で起きた事件を追う警察官、ジョングの娘であるヒョジンが豹変する瞬間は韓国語を解さなくとも『震える舌』レベルで恐ろしい。
ちなみに、本作で國村隼のコレオグラフ(振り付け)を担当したパク・ジェインは『新感染 ファイナル・エクスプレス』で全てのゾンビに振り付けをほどこしている。新感染はストレートで実直なゾンビ映画だが、このコレオグラフによってフレッシュさを獲得している。
『哭声/コクソン』『新感染 ファイナル・エクスプレス』の両作とも「韓国映画には興味がないけれど、ホラー映画は好き」といった方で未見の方は、ぜひご覧になってみて欲しい。
・[動画]ナ・ホンジン監督最新作、男優助演賞・國村隼/映画『哭声/コクソン』予告編
スッキリしたホラー映画なら『マリグナント 狂暴な悪夢』
3本連続でアジアのホラー映画、かつ精神的にキツい作品をピックアップしてしまったので、ここでルール2「それほど怖くないがホラー映画として完成されている作品」を適用し、近年ではトップ候補に入る『マリグナント 狂暴な悪夢』を紹介したい。
監督は『死霊館』『ソウ』シリーズのジェームズ・ワン。本人は「もうホラー映画は撮らない」と言っていたのに、あっさりと物凄いホラー映画を制作してみせた。
あまりネタバレのできない作品なので詳述は避けるが、とにかくクライマックスへ向かう一連のシーンが最高で、「何も『アクアマン』で培ったテクニックをホラー作品で活かさなくていいのでは」と爆笑してしまうほど。ここ数年の映画のなかでも、トップクラスのアクションシーンを観ることができる。
上記3作に比べて精神的な怖さもないし、音による「驚かし」も少ない。またゴア・グロ表現もそこそこなので、ホラー映画にそれほど縁がない方でも楽しめるだろう。もっとも、あくまで上記3作と比べての話だけれども。
・[動画]「地獄少女」能登麻美子、初【R18+】作品ナレーション!映画『マリグナント 狂暴な悪夢』能登麻美子ナレーション予告編
これでいいのか?これでいいんです『Mr.タスク』
ルール2を遵守したところで、最後にルール3「存在自体がある意味ホラーな珍作もホラー映画の醍醐味なので、せっかくだから入れる」を適用し、『Mr.タスク』をピックアップした。
本作は2015年に公開された作品で、ある人里離れた屋敷を訪れた男が監禁され、とにかくひどい目に遭う。構成は『ミザリー』に近いが、バカバカしさは『ミザリー』の100倍付けである。
これまたネタバレになってしまうので詳しくは書けない、というかネタを知ってしまうと中後半の驚き〜爆笑が半減するので、できるだけ事前情報を入れずに鑑賞して欲しい。
ネタバレ防止のために本筋以外の周囲を旋回するならば、実はジョニー・デップの娘であるリリー=ローズ・デップの初出演作でもあり、コンビニ店員を演じる彼女を主人公にしたスピンオフ『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団も後年制作されている。
そして何より、本作の配給は今や信頼と実績のA24であり、ドゥニ・ヴィルヌーヴの傑作『複製された男』と同年に『Mr.タスク』を配給するという懐の広さは、正直なところどんなホラー映画よりも怖い。
そんな『Mr.タスク』だが、なんと続編が作られているらしい。今から本作を観ておけば2も楽しめるだろう。(text:加藤広大/ライター)
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