アカデミー脚本賞ノミネート『セプテンバー5』テロ事件を生中継した生き証人が本作の意義を激白
ミュンヘンオリンピックで起きた人質テロ事件——部始終が生中継され、オリンピック史上最悪の事件といわれたこの事件を、TVクルーたちの視点で描いた『セプテンバー5』が公開される。その公開を前に、一部本編映像が公開された。
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テロを追ったTVクルーの1日を、ノンストップで描く
1972年9月5日、ミュンヘンオリンピック会場のイスラエル選手村にパレスチナ武装組織「黒い九月」が乱入、合計17人の死者を出した。そんな平和の祭典の最中に起こった事件を、突然生中継することになったTVクルーたち……。
『セプテンバー5』は放送のルールが明確化されていなかった時代に、全世界が生中継を通して、初めてテロリズムの脅威を目の当たりにすることとなったその様子を、90分間ノンストップで描ききる。
(C)2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
ショーン・ペンがプロデューサーを務め、ジョン・マガロ、ピーター・サースガード、レオニー・ベネシュ、ベン・チャップリンといった実力派キャストが集結。緻密な脚本と重厚な映像で圧倒的な緊迫感を描き出し、本年のアカデミー賞・脚本賞にノミネートされている。
今回公開された本編映像は、中継をするクルーたちの前に警察がやってくる緊迫したシーンである。
この事態を世界中に生中継すると決めたスポーツ局のクルーたちは、カメラを外に持ち出し、テロリストたちが立てこもる選手村にカメラを向ける。この時点で、すでに2人が殺害され、まだ9人が人質になっている。
しかし、彼らはある重大なことに気付く。選手村のテレビは、どの国際放送も見られるようになっているため、ABCも例外なくテレビに映し出されるのだ。
スタジオに一気に緊張感が走る。テロリストたちが潜む部屋の窓をズームすると、カーテン越しにテレビの光がちらついていた。「……奴らも生中継を見ている? 警察の動きが筒抜けじゃないのか!?」
すると、警察無線がスタジオにも入ってくる。警察も同様に生中継を見ていたのだ。「放送を止めろ!」という声とともに、スタジオに警察がなだれ込んでくる……。
当然、これは実際の現場で起こったことだった。
「警察から、生中継しているカメラを切るよう指示された瞬間、ハッとしました。私たちの中継は、世界中、誰でも見ることができる。テロリストたちにも見られているかもしれない。とても慎重にならなければ、と」
こう語るのは、実際にこのテロ事件を報じたTVクルーの中心人物、ジェフリー・メイソン。当時ABC中継のコーディネーション・プロデューサーで、当時32歳だった。
現代社会にも通ずる「報道の自由」とその責任
「ミュンヘンに入る前、私たちは入念な準備をしていました。しかし、まさかオリンピック中継がテロ事件の生中継へと変わるとは、夢にも思っていませんでした。あの日、事件が起きた瞬間に感じたのは、『これは人生で最も重く、大変な仕事になる』という覚悟でした」
突如として起こったテロ。ABCスポーツ局のクルーは、急遽22時間におよぶ生中継を実行することとなる。そのなかでメイソンが痛感したのは、想像したことないほどの報道の責任の重さだった。
「私たちの生中継の映像を見ていたのは、一般の視聴者だけではありませんでした。人質になった選手の家族も、自宅の居間で事件の推移を見守っていたのです。そのことを知ったとき、私は自分たちが担うべき責任の重みをまざまざと実感しました」
クルーたちのこうした思いをかかえて始まった生中継だったが、そのなかでABCニュースが報道を引き継ぐべきかという議論が持ち上がった。しかし、スポーツ部門のトップであるルーン・アーレッジは、断固としてそれを拒否した。
「『私たち以上の報道を、ニュース部門ができるはずがない』とルーンは言いました。私たちは事件現場から100ヤード(約91メートル)も離れていないところにいました。スポーツ中継に特化した数十人ものチームでした。その状況を考えれば、ニューヨークにいるニュース部門よりも、私たちが続けるべきだと判断したのです」
こうした状況を描く『セプテンバー5』の脚本を読んだメイソンは、衝撃を覚えたという。
「当初は、事実を並べただけの、単なるテロ事件の記録映画のようなものかと思っていました。しかし、脚本を読んで驚いたのは、非常に深くリサーチされていることと、そこに描かれていたのが『人間の物語』だったことです。事件の背景や経過だけでなく、私たちが目の前の出来事にどう向き合い、何を感じたのか。私たちの心情が深く描かれていることに感心しました」
そのうえで、メイソンは本作の意義を、こう語る。
「私は自分の目で見たことを語れる数少ない一人です。あの日、中継スタジオにいた人のほとんどは亡くなってしまって、もういません。だからこそ、あの日あの場にいた仲間たちの目と心を通して伝えることができるこの機会は、私にとって特別なものです。『セプテンバー5』は、9月5日に何が起きたのかを忠実に描く物語です。事件が次第に大きな悲劇へと発展していくなかで、私たちは手元の技術を駆使し、正確な報道を目指して奮闘しました」
正確な報道──メディアでの拡散を強く意識したテロリズムや、SNSの普及で誰もがメディア化した現代社会においても重要な「報道の自由」、そしてその責任のあり方を本作は描いている。
「今は業界全体が、情報を発信する責任をより理解するようになったと思います。テレビにおけるスポーツ中継は、基本的に生放送です。ということは、何が起こってもおかしくない。だからこそ準備が肝要であり、今はその教訓が活きています。私たちは正直に真実を追求し、徹底した報道を行う責任がこれまで以上にあります。『セプテンバー5』は、事件の真相を伝えるだけでなく、それが描けていると確信しています」
『セプテンバー5』は現在公開中。
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