オリンピックがあるから、汚いアパートは取り壊していい
東京ドキュメンタリー映画祭 特別賞受賞作品『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』の公開日が2021年8月13日に決定、特報が解禁された。
特報は、「こんな一等地にこんなきったないアパートがあるって言うのは駄目だ」「だからいつ取り壊してもいい」と言われたと語る住民のシーンから始まる。本ドキュメンタリーは、強制退去させられた都営霞ヶ丘アパート住民の最後の生活の記録から、 五輪ファーストの陰で繰り返される排除の歴史を描く作品だ。
明治神宮外苑にある国立競技場に隣接した都営霞ヶ丘アパートは、10棟からなる都営住宅。1964年のオリンピック開発の一環で建てられ、東京2020オリンピックに伴う再開発により取り壊された。平均年齢が65歳以上の高齢者団地であるこの住宅には、パートナーに先立たれて単身で暮らす人や身体障害を持つ人など様々な人たちが生活していた。団地内には小さな商店があり、足の悪い住民の部屋まで食料を届けるなど、何十年ものあいだ助け合いながら共生してきた。しかし2012年7月、このアパートに東京都から一方的に「移転のお願い」が届く。
2014 年から 2017 年の住民たちを追った本作には、移転住民有志による東京都や五輪担当大臣への要望書提出や記者会見の様子も記録されている。
忘れてはいけない。オリンピックによって居場所をなくした人たち
監督・撮影・編集は、本作が劇場作品初監督となる青山真也。音楽は、人気ドラマ「あまちゃん」(2013年)の 音楽でレコード大賞作曲賞を受賞した大友良英が務めた。
特報解禁にあわせて、青山真也監督から以下のコメントが届いた。
1964年のオリンピックの際に立ち退きがあったことを私は知らなかった。 今回の霞ヶ丘アパートのことも、オリンピックが始まったら歓声と共に忘れられてしまうのではないかという危機感からこの映画を撮り始めた。 国立競技場でイベントがあると、歓声がこのアパートの中まで響いた。夜には眠れなくほどの音量だったが、ある住民は「耳が遠くなった一人暮らしにはちょうどいい」と言っていた。 コロナウィルスにより歓声をあげられない時代になって、私の危機感は斜め上に逸れていったが、 よりタチの悪い状況ではある。東日本大震災からの復興五輪と言っていたのに、いつのまにかコロナを乗り越える五輪にすり替わって、これまでに湧き起こったオリンピックの様々な問題が覆い隠されてしまった。
2021年 4月末現在、コロナ禍でもオリンピックを強行しようとする政府の姿勢に対し、twitter等では「オリンピックより命が大切」の声が上がりはじめた。 この映画に映るアパート住民の何人かは移転後に亡くなっている。「命よりもオリンピックが大切」にされた結果だということは言うまでもない。
『東京オリンピック2017 都営霞ケ丘アパート』は2021年8月13日より公開。
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