逆境に打ち勝つ強さと許す心が世界平和への道

被爆2世である娘の美甘章子(みかも あきこ)が父・進示の被爆体験を記した原作を映画化した『8時15分 ヒロシマ 父から娘へ』が今夏、公開されることが決定した。この度、本編映像の中で最も印象的なシーンのひとつである、“黒い雨” にうたれる進示少年を幻想的に描いた映像が到着した。

・戦後75年、原爆投下の悲劇と被爆者の終わらない苦しみを伝える3本

原作は1945年8月6日に世界で初めて広島に投下された原子爆弾を至近距離で被爆した、父・進示の壮絶な体験を長い時間をかけて丹念に聞き取り、13年に英語版、14年には日本語版「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」として出版したもの。

20年に美甘がエグゼクティブ・プロデューサーとして、家族らの支援を受けながら映画化した。監督はJ.R. ヘッフェルフィンガーがつとめ、主人公の被爆者・美甘進示のインタビュー撮影は美甘の息子アンドリュー丈示(被爆3世)が担当した。

原爆が投下されたその日、第二次世界大戦中の広島は普段と変わらない朝だった。父の福一と共に建物疎開の準備をしていた19歳の美甘進示は、自宅の屋根に上って瓦を剥がしていた。その時、目をくらます激しい光が襲った。その “爆発する太陽” は一瞬にして進示を真っ暗闇の奈落の底に突き落とした。史上初めての原子爆弾は広島中を焼き尽くし、瞬く間に7万人以上の命を奪ったのだ。

真夏の炎天下、父と息子は想像を絶する苦痛の中、ひどく焼けただれた体を引きずり、救助を求めて彷徨う。進示はあまりの激痛から解放されたい一心で、死にたいとすら願った。だが父・福一の力強い言葉に支えられ、進示は必死で前へ進む。しかし、父と離れ離れになった進示は一人きりになり、毎日父が探し当ててくれるのを待つことに。

3ヵ月後なんとか歩けるまでに回復した進示は、父を探して自宅のあった場所に戻った。そこで燃え尽きた瓦礫の中から、ガラスは吹き飛び、高熱により原爆炸裂の時間「8時15分」の針の影が文字盤に焼きついた父の懐中時計を見つける。全て焼き尽くされた広島で、進示を家族や先祖と結びつけるものはそれしかなかった……。

本作は原爆の映画にも拘わらず、米ナッシュビル映画祭2020 において、若い審査員に圧倒的な支持を得て観客賞を受賞した。ポンテ審査委員長は「映画を見なければ知る術のなかった大切な史実を知ることができる」と絶賛し、松井一實広島市長は「“許す心”と“助け合い”の大切さが、人類への根源的なメッセージとして強く訴えかけてくる」と語る。

戦争の愚かさ、原爆の残酷さのみを声高に訴えるのではなく、その地獄の様な状況にあっても、生きることを諦めなかった父の思い。そして、その40年後に起こったある事件から導き出され、父から娘へしっかりと受け継がれた世界の平和を叶えるための大切なメッセージを、確かに伝えてくれる作品となっている。

『8時15分 ヒロシマ 父から娘へ』は、7月31日より公開(広島は8月6日より公開)。

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