ダンテ「神曲」になぞらえた長編作で秘密研究所の内部を描き出す

第70回ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞し、前代未聞の手法でソ連全体社会を赤裸々に描き出した異色作として日本でもヒットを記録しした映画『DAU. ナターシャ』。その続編である『DAU. 退行』が8月28日より公開される。この度、予告編が解禁された。

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DAU」プロジェクトの劇場映画第2弾として、ソ連全体主義社会のその後の世界を描いている本作。「DAU」プロジェクトとは、処女作『4』で成功を収めたイリヤ・フルジャノフスキー監督が手掛ける「史上最も狂った映画撮影」と呼ばれるもの。今や忘れられつつある「ソヴィエト連邦」の記憶を呼び起こすために、「ソ連全体主義」の社会を完全に再現するという前代未聞の試みだ。ウクライナの大都市で、かつてはソ連の重要な知性・創造性の中心地でもあったハリコフに欧州史上最大の1万2千平米もの秘密研究所のセットを建設。オーディション人数約40万人、衣装4万着、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40ヵ月、撮影ピリオドごとに異なる時間軸、35mmフィルム撮影のフッテージ700時間という莫大な費用と15年以上もの歳月をかけて『DAU.』の世界が作り上げられた。

本作の舞台は前作が描き出した、スターリン体制下の1952年から10年以上が経過した66年~68年。キューバ危機の後、フルシチョフ時代を経て、スターリンが築き上げた強固な全体主義社会の理想は崩れはじめた頃。人々は西欧文化にも親しむようになっている。前作ではカフェのウェイトレスであるナターシャの視点で閉鎖的かつ断片的に描かれた秘密研究所だが、本作では一転、カメラは研究所内部に入り込む。

公開された予告編では「共産主義は宗教だ。マルクス、レーニン、スターリンへの信仰。この宗教では進化のために退化し、革命のために破壊せざるを得ない」という宗教学者と科学者の対話の中のセリフで幕明ける。この秘密研究所では年老いた天才科学者レフ・ランダウのもとで、科学者たちが「超人」を作る奇妙な実験を繰り返しているのだが、西欧文化の流入と共に、かつては徹底的に管理されていた人々の風紀は乱れ、腐敗している状況が赤裸々に描き出されていく。

しかし、そんな堕落を上層部が許すはずもなく腐敗を正すために、KGBのウラジーミル・アジッポが派遣される。彼は所長に「昔なら黙って銃を渡したが幸い時代が違う。いますぐ辞表を書くがいい」と迫り、彼自身が新所長に就任する。こうして研究所を監視下に置いたアジッポは、次第に特別実験グループと呼ばれる被験者の若者たちと親しくなっていく。

予告編の後半に挿入されたテロップで、本作はイタリアの詩人・政治家、ダンテ・アリギエーリによる長編叙事詩「神曲」の「地獄篇」で描かれた9つの地獄の層にちなんだ9章で構成されていることが示され、映画評論家の柳下毅一郎氏の「十年に一度の衝撃!」というコメントが映し出されて本映像は締めくくられる。

この6時間9分の超大作を見れば、第1弾『DAU. ナターシャ』をパズルの1ピースとする、『DAU.』の広大な一枚絵が見えてくる。スタンリー・キューブリック監督の『時計仕掛けのオレンジ』やジョージ・オーウェルが著した代表作、「1984」が描いたディストピアを現代にアップデートさせ、その先の深淵に迫ろうとするような鬼気迫る一大叙事詩となっているのだ。

本作で共同監督を務めたイリヤ・ペルミャコフ監督は、「国家が社会的に荒廃していく状況が迫ったときに、どのように気づき、対処するかを、映画という媒体を通して学ぶことはとても重要だと思います。本作は、権力の上層部が超過激派たちと、どのように関わっているかという問題を扱っており、単に分析するだけでなく、これらの状況を見たときに皆さんに深く感じて欲しいのです」と語る。

本作は本国ロシアでは上映禁止となったいわくつきの作品。日本では第1作目の『DAU. ナターシャ』が好評を博したことで、第2作目にして完結編ともいえる『DAU. 退行』が上映決定し、世界では劇場初公開となる。ファシズム、優生学、性搾取、差別……人間の暗部を余すことなく抉り出し、現代社会への警鐘を鳴らす本作の結末を、劇場で確かめてみたい。

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