SNSの成功と炎上と…。Z世代のリアルと危うさを描くジア・コッポラ監督作
#SNS#アンドリュー・ガーフィールド#ジア・コッポラ#ソフィア・コッポラ#マヤ・ホーク#メインストリーム#レビュー#週末シネマ
ジア・コッポラ監督長編2作目『メインストリーム』
【週末シネマ】表現者としての成功を夢見てYouTubeに動画をアップするも、注目されることなくくすぶっている20代の女性が偶然出会った青年のパフォーマンスにインスパイアされ、作家志望の友人も巻き込んでSNSで成功を掴む。その先に待ち受けるものまでを一気に描いた『メインストリーム』は、巨匠フランシス・フォード・コッポラの孫のジア・コッポラ監督の長編2作目だ。
・もはや家業! 二代目どころじゃない、華麗なるコッポラ一族の映画ビジネス
ロサンゼルスのコメディ・クラブのバーで働きながら、日中はスマホを片手に街をぶらついて動画を撮り、YouTubeチャンネルにアップしているフランキー(マヤ・ホーク)はある日、ショッピングモールの広場でネズミの着ぐるみ姿の男(アンドリュー・ガーフィールド)と出会う。他愛ないやりとりから、フランキーのスマホに向かって語り始め、あっという間に居合わせた人々を巻き込んだパフォーマンスを展開。一部始終を収めた動画をアップするや、今までにない反響があった。
リンクと名乗るその男は「スマホは持っていない」と言い、正体も明かさないが、手応えを感じたフランキーはバイト仲間で作家志望のジェイク(ナット・ウルフ)にも声をかけ、二人三脚で「ノーワン・スペシャル(ただの人)」というキャラクターを作り、センセーショナルな動画を次々アップし、ネット上で人気が高まっていく。やがてエージェント(ジェイソン・シュワルツマン)が付き、ストリートからメインストリームの人気者に成り上がるに従って、表に立つリンクは暴走し始める。
ソフィア・コッポラの『ブリングリング』から10年足らずで時代は大きく変化
どんな状況でもすぐに反応する瞬発力と、絶対に相手より優位に立とうとする姿勢を崩さないリンクの発言や行動は次第に過激になり、炎上し、対等なはずの3人のパワーバランスも崩れ、フランキーとジェイクは本来の目的とかけ離れてしまった現実に戸惑い……という展開は定石通りで目新しさはないが、だからこそリアルで恐ろしい。パッとしない3人がキラキラ輝き、あっという間にギラギラし始める。汚いものが映りそうになると、画面は絵文字で覆いつくされ、けたたましく落ち着きのないリンクが暴れ回る。SNSの狂騒をベタに視覚化する映像はカラフルな悪夢のようだ。
ジア・コッポラの叔母であるソフィア・コッポラが『ブリングリング』(13年)を撮って10年も経たないうちに、すでに多くのことが変わった。『ブリングリング』のミレニアル世代のようにリアリティ番組に登場するセレブに憧れるのではなく、SNSを駆使して自らセレブになるのが2020年代の今、Z世代と呼ばれる若者たちだ。
ローラの出演がリアリティを与える
劇中には人気ブロガーや、メイクのチュートリアル動画の人気者、インスタグラムのスターといったインフルエンサーたちの1人として、近年アメリカを拠点に活動するローラも登場する。彼らを礼賛するというより皮肉っている物語なのだが、そこで敢えて作品に貢献する姿勢も興味深い。ガーフィールドの怪演は間違いなく観客を巻き込む力に満ちているが、彼を見つめる実在のネット・セレブたちが放つ本物感もまた、SNSがはらむ危うさを描くには欠かせない。
SNSのセレブカルチャーを風刺しつつ、その流れの勢いに呑まれていくような無力感が漂うが、わかったような決着をつけない作り手の混乱は正直で、潔い。
(文:冨永由紀/映画ライター)
『メインストリーム』は2021年10月8日より公開。
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