【落語家・瀧川鯉八の映画でもみるか。/第27回】
我が落語芸術協会から転送されてきた1通の手紙。
ぼくの落語を聴いてくれたことがあって、
結構昔から聴いてくれたことがあって、
その感想をしたためてくれたお客様からの、
おそらくそんな手紙。
・【鯉八の映画でもみるか。】才能はある日突然降ってくる ~『JUNK HEAD』
なんでそんな曖昧な言い方なんだよ!
本当は読んでないんじゃないのか!
と思われるでしょうが、そうなんです。
読んでないんです。
正確には、読むことができなかったんです。
仕事終わりに夜遅く両手に大荷物でクタクタになって帰ってきて。
ポストに入ってたこの手紙を指で挟んでズボンのポケットにねじこんで。
なぜなら両手に大荷物だから。
荷物置いてお風呂に入って、その間に洗濯機まわして。疲れた体を引きずって、最後の力を振り絞り洗濯物を干すときに気づいた、
手紙が濡れてクシャクシャになっていることに。
そりゃ気づきませんよ。
こっちは疲れてるんだから。
それでも試みましたよ、ビリビリに破れた宝の地図をなんとかして修復して謎を解こうとするインディ・ジョーンズのように。
インディ・ジョーンズにそんなシーンがあるかはわかりませんが、きっとあるでしょう。
ある感じする。
書いてくれた方の名前も住所もわからない。
判別できた文字は、「鯉八師匠」「悲しい」「ひどい」「つまらない」「捨てる」「もう1度」のみ。
「毎日ひどい上司にイビられてつまらない毎日を送っています。
こんな悲しい思いをするのであれば、いっそ自分を捨ててしまいたい気持ちでありましたが、鯉八師匠の落語を聴いてもう一度前向きに生きていこうという希望が湧いてきました」
きっとこんな文面であったはずだと鯉八ジョーンズは解き明かしました。
決して、
「なにが鯉八師匠だ。おまえなんか師匠剥奪だ。しかし、悲しい男だよおまえは。あんなつまらない落語をよくも堂々と作っておしゃべりできるもんだ。ひどいったらありゃしない。あんなネタ捨てるだろ普通の感覚なら。もう1度たりとも聴かないからなお前なんて」
などではない。
ちなみに漂流郵便局という郵便局を改装したアート作品が香川県の栗島にあるそうです。
これは未来への自分へ、亡くなった人へ、行き先のない手紙などが、全国から送られてきて保管され展示されているそう。
ここを訪れた人はそれを読むことができるそう。
なんて素敵なんでしょう。
いつか訪れてみたい。
ちなみに洗濯機のなかで溺れてしまった手紙はちゃんと乾かして家に保管してあります。
心当たりのある方、良かったらまた送ってください。
※【鯉八の映画でもみるか。】は毎月15日に連載中(朝7時更新)。
プロフィール/瀧川鯉八(たきがわ・こいはち)
落語家。2006年瀧川鯉昇に入門。2010年8月二ツ目昇進、2020年5月真打昇進。落語芸術協会若手ユニット「成金」、創作話芸ユニット「ソーゾーシー」所属。2011年・15年NHK新人落語大賞ファイナリスト。第1回・第3回・第4回渋谷らくご大賞。映画監督アキ・カウリスマキが好きで、フィンランドでロケ地巡りをした経験も。
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