見下されても突き進む! 16歳の青春をビーニー・フェルドスタインが好演

#コーキー・ギェドロイツ#ビーニー・フェルドスタイン#ビルド・ア・ガール#レビュー#週末シネマ

ビルド・ア・ガール
『ビルド・ア・ガール』
(C) Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
ビルド・ア・ガール
ビルド・ア・ガール
ビルド・ア・ガール

作家志望の少女がいきなりロック雑誌のライターに

【週末シネマ】なりたい自分の姿を間違えてイメージしていたら? ほとんど誰もが十代だった頃に身に覚えがあるのではないか。『ビルド・ア・ガール』は作家志望の少女が、見当違いの空回りをしながら成長していく様子をコメディ・タッチで描く青春映画だ。

脚本も務めたケイトリン・モランの自伝的小説を映画化で、1993年のイギリスの地方都市が舞台。アイルランド系の労働者階級の家庭に生まれ育った16歳のジョアンナが主人公だ。

【映画を聴く】90年代前半のUKロックシーンの喧騒もパワフルな、自分探し少女の青春映画

ジョアンナは文学少女で、自室の壁にはブロンテ姉妹やシルヴィア・プラスといった女性作家やエリザベス・テイラー、カール・マルクス、『サウンド・オブ・ミュージック』の主人公・マリアなどなど、彼女にとっての神々の肖像が飾られ、彼らは時に迷えるジョアンナに話しかけ、アドバイスもする。

詩作に耽り、学校では浮いた存在のジョアンナは音楽好きの兄の勧めでロック雑誌のライター募集に応募する。実はロックに興味はなく、応募原稿のテーマは大好きなミュージカル「アニー」について、という無茶をしながら、文才と若さと度胸を買われてチャンスを得た彼女は、いきなり取材を任される。

名作『あの頃、ペニー・レインと』の女子版のようで大きな違いが

文才あるティーンが若くしてライターとなり、音楽界の狂騒に飛び込んでいく物語といえば、キャメロン・クロウ監督の名作『あの頃、ペニー・レインと』がある。一見、あの物語の女子版のような設定だが、『あの頃~』の主人公の少年とジョアンナが大きく違うのは、彼女にとってライターの仕事は“ひと夏の冒険”ではなく、大家族を養う生活がかかっていること。そして男性中心、それも上から目線の輩ばかりのコミュニティにたった1人で来た若い女性だということだ。

ジョアンナはヘアスタイルや服装を一新し、ドリー・ワイルドというペンネームで人気者になっていく。取材で出会ったミュージシャン、ジョン・カイトに夢中になって書いた記事は、推しへの愛まる出しで、編集部では「10代の女の子みたいだ」と一笑に伏され、そこで彼女は“辛口ライター”という新たなペルソナを作り上げる。辛辣に書けば書くほど持て囃され、日常の振舞いも傍若無人のドリーそのものになったジョアンナが行き着いた世界、そこで向き合った自分とは何か。

ビルド・ア・ガール

自分が誇れる自分になる! その素直さを大切にしたい

原作・脚本も製作者も、これが長編映画デビュー作のコーキー・ギェドロイツ監督も女性で、思春期の少女の背伸びも素直さもリアルな表現で描いていく。

ジョアンナを演じるのは『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のビーニー・フェルドスタイン。恋心や虚栄心に振り回されてもがきながら、自分という女の子を作っていくヒロインはコンプレックスも抱えるキャラクターだが、フェルドスタインのポジティブな明るさと聡明さで魅力的に演じている。

斜に構えず、間違いを認めて変わろうとするのは、いくつになっても出来る。自分が誇れる自分を目指すジョアンナの態度は、SNSなどでシニカルな表現がエスカレートしがちな今、人として大切にしたい感覚だ。

ロックスターになる夢を捨てきれない父親(パディ・コンシダイン)、子沢山で産後うつ状態の母親(サラ・ソルマーニ)、ジョアンナが恋するジョン・カイト(アルフィー・アレン)など、彼女を囲む人々も完ぺきではない。そんな彼らがジョアンナの反省を受け入れる寛容さも、今の社会に必要とされるものの1つだろう。

フェルドスタインのパワフルな演技に共感し、実名で登場する1990年代のバンドの曲の数々が懐かしくも新鮮に響く快作。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ビルド・ア・ガール』は、2021年10月22日より公開。