【週末シネマ】泣き所たっぷり、巨匠チャン・イーモウ監督の並外れた実力を実感

『サンザシの樹の下で』
(C) 2010, Beijing New Picture Film Co., Ltd and Film Partner (2010) International, Inc. All Rights Reserved.
『サンザシの樹の下で』
(C) 2010, Beijing New Picture Film Co., Ltd and Film Partner (2010) International, Inc. All Rights Reserved.
『サンザシの樹の下で』
(C) 2010, Beijing New Picture Film Co., Ltd and Film Partner (2010) International, Inc. All Rights Reserved.
『サンザシの樹の下で』主演に大抜擢された新星チョウ・ドンユィ

『初恋のきた道』や『HERO』、『LOVERS』など数多くのヒット作を手がけてきた巨匠チャン・イーモウ監督の最新作『サンザシの樹の下で』(7月9日より全国順次公開)。中国系アメリカ人作家エイミーが、友人の実話をもとに書いたベストセラーの映画化で、初々しい男女の純愛を繊細な映像と共に綴ったラブストーリーだ。

[動画]『サンザシの樹の下で』予告編
『サンザシの樹の下で』主演チョウ・ドンユィ インタビュー

舞台となるのは文化大革命の嵐が吹き荒れる1970年代初頭の中国。主人公で都会育ちの女子高生ジンチョウが、農村を訪れるところから物語は始まる。農民たちに学ぶという革命の教えを受け、都会の高校生たちは農村に派遣され、住み込みで実習を行っていたのだ。

その村でジンチュウはスンという名の青年に出会う。少々、内気なジンチュウとは違いフレンドリーな性格のスンは臆することなく彼女に接し、様々な場面でジンチュウの助けとなってくれるのだった。

時代が時代だけに昔風のハンサムながらも、笑顔が爽やかでさりげない心づかいを見せ、決して押しつけがましくないのに「ここぞ!」というときには多少の強引さも見せるジェントルマン、スンはまさに王子様! 最初はためらいを見せていたジンチュウも、徐々にスンに惹かれていく。

だが、反革命分子として迫害を受ける両親を持つジンチュウと、特権的な家庭の息子であるスンは身分が違うため、その恋は家族にさえも秘密にしなければならなかった。とはいえ、障害が大きければ大きいほど燃え上がるのが恋愛の常。2人は人目を忍びながらも逢瀬を重ね、絆を深めていくのだった。

身分違いの恋、おまけにスンはどうやら病気らしいことが明らかに……という泣き所がたっぷりの本作。あくまでもプラトニックを貫くスンの誠実さが少女マンガばりにロマンティックで、女子のハートを揺さぶるはずだ。おまけに、きらめくように美しい映像。川を挟んで見つめ合う2人。水辺ではしゃぎ、物陰で寄り添い、つかの間のデートを楽しむ2人……。イーモウ監督の映像マジックに心がキュンと締め付けられる。

とはいえ、ラブストーリーとしては『初恋のきた道』の方が、どうしても格上に見えてしまうのはなぜだろう。本作でジンチュウ役に大抜擢されたのは、スタッフが中国全土を探し回り7,000人ものなかから選ばれたチョウ・ドンユィ。演技経験ゼロの無名の一般人から選ばれたシンデレラガールで、本作で大ブレイク。今や引っ張りだこの人気だそうだが、役柄のせいか、ちょっと地味で、『初恋〜』のチャン・ツィイーには遠く及ばないように見えてしまうのだ。

また、思い出は時間と共に美化されていくとはいえ、できすぎた「王子様」とあまりにも美しすぎるストーリーは、人生経験を重ね、すっかりひねくれてしまった目で見ると、清潔すぎて白けてしまう部分も正直ある。状況を字幕で説明していく構成も、イーモウ監督の“手抜き”に思えてしまうのも難点。

とはいえ、中国での興行収入は2億元(約26億円)と、文芸映画としては過去数十年で最大のヒットとなったそうで、他の凡百の監督が全力で取り組んでも達せないレベルに軽々と達しているあたりは、天才の面目躍如といったところではないだろうか。(文:ムビコレ編集部)

【関連記事】
[動画]『サンザシの樹の下で』チョウ・ドンユィ インタビュー
『サンザシの樹の下で』プロデューサー、ビル・コン インタビュー
【週末シネマ】幸せすぎるナタリー・ポートマンが「イタいオンナ」を好演!
『サンザシの樹の下で』作品紹介
ニュース、動画、作品紹介、映画情報ならムビコレ!