環境活動家グレタに密着した監督が語った撮影秘話
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ついに公開! 『グレタ ひとりぼっちの挑戦』ネイサン・グロスマン監督からメッセージ
2019年のフォーブス誌にて“世界で最も影響力のある女性”に選出、同年のタイム誌でも“今年の人”として紹介された、世界でもっとも有名なスウェーデンの若き環境活動家グレタ・トゥーンベリの素顔に迫ったドキュメンタリー映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』が10月22日より、全国で公開されている。
同作は、気候問題に関する専門的知識と揺るぎない覚悟を持ち、国連総長アントニオ・グテーレスやフランスのマクロン大統領、ローマ教皇など世界のリーダーらと議論を重ねていく様をもっとも身近なところで寄り添うように捉えていくと同時に、世界から注目を集める1年以上前から彼女に密着し、犬や馬と戯れるリラックスした姿のほか、アスペルガーの症状について冷静に自身で分析する姿、重圧と向き合い葛藤する姿、彼女の様々な行動を支える家族の姿も映し出すドキュメンタリーだ。
この度、グレタがストライキを始めた頃から一緒に座り込みをして密着し、注目を集めたヨットでの大西洋横断にも同行したネイサン・グロスマン監督から日本の観客に向けたメッセージ動画が到着し、インタビューも公開した。
監督は「日本で公開されることになって大変嬉しいです。みなさんが楽しんでくれることを願っています」と観客に呼びかけた。
さらに、当時全くの無名だったグレタを密着撮影するに至った経緯や、完成した本作を見た彼女のリアクションなどについても語った。
「1日だけの密着取材」から始まった撮影に至る大旅行
──スウェーデンでの一人きりの抗議活動から、世界的アイコンへと成長していくグレタの姿を見られるのは凄いことですね。グレタのことは、どのようにして知ったのですか?
「私の友人がもともとトゥーンベリ一家と知り合いで、気候問題に対して誰も行動していないと感じたグレタが、抗議として座り込みストライキを計画していることを聞きました。スウェーデンでは国政選挙が迫っていたから、グレタはこの問題がいかに重要かを伝えたかった。僕たちはそれを見守りながら、1~2日間撮影をして何が起こるか見てみようと考えました。プラカードを持ったグレタ1人で座り込んでいたので、僕はグレタに『今日1日、マイクを付けて密着取材をさせてくれないか』と申し出ました。『先のことは何も決まってないんだ。短編映画になるかもしれないし、子どもの活動家を取り上げたシリーズにして、その中の1本になるかもしれない』と伝えました。そこからはトントン拍子に事が進み、初日にも関わらず、立ち止まって質問してくる人たちが現れ、グレタはとてもしっかりと答えていました。3週間後、グレタは選挙が終わった後も活動を続けることを決め、毎週金曜日にストライキを行っています。この運動は徐々にスウェーデンの他の地域にも広がり始め、その後フィンランドやデンマークにまで広がりをみせました。撮影も1か月が過ぎたところで、僕はこの撮影に全力で取り組みたいと伝えました。この運動と、グレタ自身を描いた作品として形になるかもしれないと思いました」
──今回の撮影では、どのようなチャレンジがありましたか?
「自分がどんなふうにこのストーリーを伝えたいのか、頭を整理するのが最初の課題でした。当初は、グレタが中心人物になるのか、それとも運動自体が映画の主題になるのか判断がつきませんでした。僕のカメラがグレタに引き寄せられるような感覚が、この課題の答えになりました。グレタは人とは違う見方で世界を見ている。人からどう見られているかは、全く興味がありません。各国の要人が集まる会合の撮影や、国連気候行動サミットに出席するためヨットでニューヨークへ向かった旅も過酷でした。電気自動車や列車でグレタたちと旅するのにはとても時間がかかりましたし、撮影をさせてもらえるか分からないまま旅をすることもよくありました」
──監督もグレタさんと一緒に大西洋を横断してニューヨークまで行ったのですね。
「グレタが国連に招待されたと話してくれた時、このストーリーの最高のエンディングになると感じ、一緒に行きたいと言いました。これが最高の筋書きだと信じていたから、僕はヨットにカメラを持ち込みたかった。数週間もかかる過酷な航海になると分かっていたので、同行するという決断は簡単ではありませんでした。行くのは怖かったけれど、このストーリーに不可欠なものだという気がしました」
──ヨットでの旅の終盤にグレタさんがつらそうにしている姿や、自身に向けられた悪意に満ちたSNSコメントを読んでいる姿など、見ているのがつらい場面もありました。このような場面を映画に入れることにこだわったのはなぜですか?
「僕は、グレタの全体像をつぶさに見せる必要があると思いました。良い日もあれば悪い日もある。このストーリーのとても重要な部分だと感じていたので、グレタにもそう伝えていました。グレタと家族に『不快に感じるような場面も撮影させてほしい。もちろん、「撮影をやめて」とか「部屋から出ていって」と言ってもらって構わないよ』と話しました。ありのままのグレタの姿と、難題に立ち向かう活動家の顔を余すところなく記録したかったのです」
──グレタさんは映画を見ましたか?
「はい。スクリーンに自分が映っているのを見るのは、とても変な感じだというのが最初の反応でした。グレタはセレブになりたくて映画に出ているわけじゃない。気候変動について伝え、自分のメッセージを発信するためです。一度、グレタに『映画の中の自分を自分と思えないのではないか、別人のように仕立てあげるのではないか』と言われたことがあります。映画を見て『ちゃんと自分自身がいた』と言われた時は最高の瞬間でした。波乱万丈だった撮影の末にできた映画を、グレタが真実だと感じたという意味では、彼女が望むことをやってのけたような気がしました」
──グレタさんの何が世界中の人々の心に強く訴えかけたのだと思いますか?
「タイミングではないでしょうか。気候変動問題について不満を表現してくれる誰かを、世界がこれまでずっと待っていたんだと思います。何の対策もされず、年月が積み重なったせいで今の現実がある。もうそんな状況とは異質の時代に移りつつある。グレタの生い立ちやアスペルガー症候群であることも相まって、人々は彼女に共感できるのだろうと思います」
──新型コロナウイルスは、グレタさんと気候ストライキの活動にどのような影響を与えていると思いますか?
「もちろん、ストライキを行えないことは、このムーブメントに影響を与えています。グレタと仲間たちは科学的な助言に厳密に従っているので、物理的なデモ活動はしていません。しかし、今の新型コロナウイルスへの政府の対応が、長期にわたって影響を及ぼすと僕は思っています。突発的な危機への対応には何十億というユーロやドルが使われる一方で、気候危機への対応は莫大な費用がかかる上に難しいと長年後回しにされていたことに若者たちは気づくでしょう。やはり、政治システムというものは短期間しか機能せず、未来の世代を欺くものだと露呈しました。未来の活動家からは今よりもっと強い反発があるかもしれないですね」
──観客にこの映画から何を感じ取ってほしいですか?
「この映画は気候変動よりもグレタ自身に焦点を当てています。映画を見れば分かるけれど、彼女はこの1年で大きく成長し、より活動的になっています。気候変動についてグレタが世界に訴えているのは、世界を白か黒か単純化して考えることも、時には良いということです。不快なことを直視できる方法だから。僕がこの映画を見た人に心から願うことは、自分と意見が異なる人々や、問題から目をそらさずに指摘し、自分の意見を堂々と述べる人々に対して、今よりもっとリスペクトを払うことです。何が問題かを明らかにしてくれる人たちを大切にすべきだと思います。アスペルガー症候群で、率直に自分を表現するグレタのような人物が、この活動のアイコンになれるなんて本当に素晴らしいことです。なぜ彼女たちが闘っているのかを理解することから始めてほしいと思います。グレタに限らず、メディアでは一面的に見える人々にもさまざまな面があることも伝われば嬉しいです」
SDGsへの関心が高まる今だからこそ知りたい。爽やかな余韻の中に深く思いを巡らせるドキュメンタリー『グレタ ひとりぼっちの挑戦』は、10月22日より全国で公開中だ。
■ネイサン・グロスマン監督
スウェーデンのドキュメンタリー映画監督、カメラマン。環境問題を追求する作品を手掛けることが多い。ストックホルム・アカデミー・オブ・ドラマティック・アーツ卒業。「ローリング·ストーン·インディア」のカメラマンとしてキャリアをスタートさせた後、映画に活動の場を移す。再生回数が1,500万回超えを記録した2015年の短編映画『THE TOASTER CHALLENGE(原題)』で、グロスマンは世界的な注目を集めた。2017年、初の長編テレビシリーズとなる『KÖTTETS LUSTAR(原題)』(SVT公共放送局)を完成させ、スウェーデンの肉消費量の増加をテーマに扱った。当シリーズは、Kristallen television awardの年間最優秀ファクチュアル番組にもノミネートされた。
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