悲しい瞳をした花嫁が独り、走る、ある男性の元へ。時は流れ、花嫁は身内から“爆弾”と呼ばれるお祖母ちゃんになっていた。南イタリアの田舎町レッチェでパスタ会社を営んできたお祖母ちゃんから親子3代、カントーネ一家に起こった“ゲイ騒動”を描いているのが『あしたのパスタはアルデンテ』だ。
主人公は、一家の次男で、お祖母ちゃんの孫にあたる青年トンマーゾ。彼はローマで気ままに暮らしているが、現社長の父(お祖母ちゃんの息子)が会社を2人の息子と共同経営者に引き継ぐ大事なディナーに参加するため、久々に故郷に帰ってきたのだった。彼は、ディナーの席で家族に自分の秘密を告白しようと決心していた。その秘密とは、会社を継ぐ気はなく小説家を目指していること、そしてゲイだということ。しかし、決意は見事に砕かれた。なんと、兄で長男のアントニオが「ゲイ」であることを告白し、先を越されてしまったのだ! 父親は卒倒して入院、長男は勘当され、トンマーゾは自分もゲイだと言い出せぬまま会社経営に関わるはめに。さらにはローマからゲイ友だちと恋人(もちろん男)が訪ねてきて……。
あらすじだけ書くとコメディのようであり、実際に笑ってしまうシーンは多いのだけれど、この映画の魅力はそれだけではない。美しい映像と印象的な音楽にのせて、家族それぞれが自分のアイデンティティや家族との問題に目を向けざるをえなくなる過程が厳しくも温かい視点で描かれているからこそ、深い余韻を残すのだ。家族という絆と枠組みのなかで「自分らしく生きる」にはどうしたらよいのか。そのヒントと勇気を与えてくれる作品なのだ。家族とは愛する者同士が一緒になるという単純なものではなくて、ひとりひとりの個性と学びに適したメンバーが一緒になるようにと導かれているのだと思う。だからこそ、自分らしく生きることが難しいこともあるけれど、愛情を忘れずに、乗り越えていかなくてはならないのだろう。
お祖母ちゃんは言う、「“普通”なんてイヤな言葉だね」と。そして孫のトンマーゾに、人の望み通りに生きるのではなく自分の幸せを考えなさいと語りかける。それは、悲恋の思い出のなかに生きて“甘く耐えがたい人生”を送ってきたお祖母ちゃんだからこそ、身をもって伝えられるメッセージなのだ。
純白のドレス姿で“乳白色の街”を駆けたあの日から続いた人生と家族に、お祖母ちゃんはついに爆弾を落とした。この手段が、映画を見ればわかるが、どうしようもなく人間味があって、悲しく、愛おしい。けれども、お祖母ちゃんは知っている、悲しみと混乱の後に何がもたらされるのかを。そして、魂の旅路は続くことを。
『あしたのパスタはアルデンテ』は8月27日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開される。(文:秋山恵子/フリーライター)
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