国民的作家の故・井上靖が、次第に記憶が薄れていく母との生活を描いた自伝的小説を映画化した『わが母の記』。この映画が第35回モントリオール世界映画祭コンペティション部門に出品され、現地時間の8月27日に記者会見と公式上映が行われた。
・役所広司・樹木希林・宮崎あおい共演の『わが母の記』がモントリオール映画祭に出品
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本作を手がけたのは『クライマーズ・ハイ』の原田眞人監督だが、残念ながら映画祭には欠席。この日は原田遊人と、「母」を演じた樹木希林が出席した。午前中には業界関係者向けのプレス試写会も行われ、原田と樹木はそこでも舞台挨拶。原田は「監督は現在、役所広司さんと別の作品の撮影を京都で行っている」と監督が来れなかった事情を説明してから、「映画祭に参加できたことを光栄に思っています。映画を楽しんでください」と挨拶。
プレス試写会には本木雅弘の息子で樹木にとっては孫に当たる内田雅楽も通訳担当として登壇。樹木は内田を指さし「私の孫です。映画が好きな13歳です」と紹介した。
その後行われた会見では、原田が監督のメッセージを代読。メッセージで原田監督は、クランクアップの翌日に東日本大震災が起きたこと、余震が続き、飲み水の心配や停電が続くなかでポストプロダクション作業が続けられたことを述べてから、「この作品は、みなさんとそのお母様たちに捧げます」と語りかけた。
質疑応答では、「段々と記憶が薄れていく老母」という難役を演じた樹木に、役作りについての質問が。樹木が「正常なときと不安的なときの差というのは、何も難しいことはなくて、それは私が普段からそうだからなのですが」と答えると、場内は爆笑。若い人の思い込みによるステレオタイプな「年寄り像」にしたくなかったとも話していた。
また、以前、ガンを患ったことが今回の演技に影響したかという質問に樹木は「本来、役者は健康な方が絶対にいい」と前置きしてから、病気を経験したことにより人の弱さが分かるようになったと吐露。「それが今回の役に生きたかどうかは定かではない」と話す一方、死が日常生活から遠いものになってしまった日本の現状について触れ、「自分が病気をすることによって、人間は死というものと常に背中合わせだということを感じ、“死は日常である”ということを表現しようと思いました」と語った。
現地時間の夜9時半からは公式上映が行われ、上映後は大きな拍手が鳴り止まず、樹木たちは大勢の観客から握手とサイン攻めに。日本映画が好きだという30代の男性は「記憶を失い始めている母と息子の関係が修復されていく様を描くというのは、とてもユニーク。映画全体の雰囲気はとても良く、風景や演技がすべてはまっていて、とても質の高い映像美だと感じた」とコメント。また舞台挨拶で樹木は「この役は、初めに産んだ長男を手元で育てることができなかった、つらい母親の役です」と説明していた。
『わが母の記』は2012年に全国公開される。
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