悪の華も凡人も巧みに演じるマッツ・ミケルセンと素晴らしき北欧俳優たち
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“北欧の至宝”が近未来SF『カオス・ウォーキング』に登場
【この俳優に注目】トム・ホランドとデイジー・リドリーが主演を務める近未来SF『カオス・ウォーキング』(2021年11月12日より公開)。ある星で、女性が死に絶えたコミュニティ“プレンティスタウン”を仕切る首長デヴィッド・プレンティスを、マッツ・ミケルセンが演じている。
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そこでは、自分や他者の心の声が筒抜けになる“ノイズ”という現象が発生していて、誰も隠し事ができない状況だが、プレンティスは巧みに心の内を覆い隠して町を支配している。冷静沈着で、意に沿わない行動を取る者には情け容赦ない非情の男だ。
マッツ・ミケルセンは、『007 カジノ・ロワイヤル』、TVシリーズ『ハンニバル』など英語圏では悪役を演じることが多い。特にハリウッドで望まれるのはわかりやすい悪役像だが、マッツが演じると、謎を感じさせる複雑なキャラクターになる。クールな悪の華を美しく演じながらも、賛美するのではなく、悪を悪として見せる批評性がある。『カオス・ウォーキング』ではポーカーフェイスで余裕たっぷりなプレンティスの振舞いに、独裁者とは強がる卑怯者に他ならないのかも、と思わせる瞬間を忍ばせるのだ。
母国デンマークでは平凡な男の役で自然な名演を披露
母国デンマークの出演作品では、ハリウッドとは180度違う普通の男性役も多い。そんな人物の日常を演じるときの嘘の無い自然さに、いつも感嘆する。最新主演作『ライダーズ・オブ・ジャスティス』では、列車事故で妻を亡くし、赴任先のアフガニスタンから帰国した軍人マークス役だ。実は、事故は犯罪組織による暗殺計画によって引き起こされたことを知ったマークスは、妻と同じ列車に乗り合わせた同年配の学者たちと組織への復讐を企てる。
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世界的なスターでありながら、1人突出することなくアンサンブルの一員として、単純な復讐劇に収まらない人間ドラマ、さらにちょっと笑えて泣けてしまうエモーショナルな物語を作り上げる。『カオス・ウォーキング』と好対照なマッツが見られる。
ステラン・スカルスガルドは『DUNE/デューン』で存在感を発揮
今、欧米の作品ではマッツを始め、北欧出身の俳優が活躍している。特に、気になる敵役や悪役を演じる俳優を調べてみると、その多くがスカンディナヴィア出身だ。マッツの兄ラースもTVシリーズ『SHERLOCK』、Netflix『ハウス・オブ・カード 野望の階段』のロシア大統領役などで知られている。
ミケルセン兄弟よりも前からハリウッドに進出していたのがステラン・スカルスガルドだ。1980年代後半から国際的に活動し始め、エミリー・ワトソン主演の『奇跡の海』で注目され、『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』でマット・デイモンが演じる主人公の隠された才能を発見する数学教授を演じ、その後は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ(ビル・ターナー役)、『アベンジャーズ』シリーズ(セルヴィグ教授役)、『マンマ・ミーア!』(ビル役)シリーズなど、大作への出演も多い。現在公開中の『DUNE/デューン 砂の惑星』では、特殊メイクで大きく膨れ上がった巨漢の敵役、ハルコネン男爵を怪演している。
彼の子どもたちも同じく俳優の道に進み、ハリウッドでも活躍中だ。長男のアレクサンダーは『ゴジラvsコング』など数多くの映画やTVでも活躍し、『ビッグ・リトル・ライズ』ではエミー賞や全米映画俳優組合(SAG)賞を受賞している。三男のビルは『IT/イット』シリーズのペニーワイズ役で知られる。
『スーサイド・スクワッド』のジョエル・キナマンもスウェーデン生まれ
『スーサイド・スクワッド』シリーズでリック・フラッグ大佐を演じるジョエル・キナマンもスウェーデン生まれ。父親がアメリカ人で、両国の市民権を持っていて、英語に訛りもないので、ミケルセンやスカルスガルドのように、外国人キャラクターを演じることは少なく、『ハウス・オブ・カード 野望の階段』では米大統領候補を演じた。
マッツの映画デビュー作『プッシャー』(96年)で主人公の麻薬密売人フランクを演じたキム・ボドゥニアは北欧圏での仕事が多かったが、2018年に始まったTVシリーズ『キリング・イヴ/Killing Eve』で、ジョディ・カマーが演じる殺し屋のハンドラー、コンスタンティン役でブレイクした。クマのような体躯に、乾いた大きな笑い声が印象的。残虐なのにカラッと明るく、どこかセクシーでもあるという多面的なキャラクターを打ち出した。12月にシーズン2が開始になるNetflixのダークファンタジー・ドラマ『ウィッチャー』にも出演している。
人間の中にあるのは悪だけでないし、善だけでもない。そのバランス次第で人はどちらにもなるのだが、その両端を行き来しながら進む人物。決して紋切り型に一刀両断させない存在。北欧出身の俳優たちは、そんな人間をいつも魅力的に演じ、簡単に割り切れない人生そのものを、役を介して伝えてきてくれている。(文:冨永由紀/映画ライター)
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