『ノマドランド』クロエ・ジャオ監督、80年代の事件を描くミニシリーズで製作総指揮
現在公開中の『エターナルズ』や、今年アカデミー賞作品賞・監督賞を受賞した『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督が1980年代に起きた中国系アメリカ人青年殺害事件を題材にしたミニシリーズに製作総指揮として参加することになった。
題材となるのは1982年、ミシガン州デトロイト市で中国系アメリカ人のヴィンセント・チンさん(当時27歳)が日本人と間違われ、白人男性によって殺害された事件だ。
チンさんは幼少期に中国系アメリカ人夫妻の養子となって渡米し、当時は自動車部品メーカーで働いていた。1982年6月19日(現地時間)、挙式を控えたチンさんは友人たちとストリップクラブでバチェラー・パーティ(結婚式前に男性が独身最後の夜を男性の友人たちと楽しむ習慣)を開いていたところ、米自動車メーカーのビッグ3の1社、クライスラー社の工場で働くロナルド・エベンスと義理の息子マイケル・ニッツと口論になった。争いは一旦収まったが、白人2人はその後、店を出たチンさんを探し当てると、ファストフード店の駐車場でチンさんの頭部を野球バットで繰り返し殴打し、病院に搬送されたチンさんは脳死状態で事件の4日後に亡くなった。
事件の背景には、アメリカにおける日本車の台頭で、自動車産業で栄えたデトロイトでは自国の自動車会社に勤めるアメリカ人労働者の失業が相次ぎ、犯人の1人であるニッツも自動車工場の職を失っていた。クライスラー社勤務だったエベンスは口論の際、チンさんに「お前らのせいで俺たちは仕事がないんだ」と、チンさんを日本人だと思い込んで言いがかりをつけたという。
エベンスとニッツは現行犯で逮捕され、第二級殺人罪で起訴されたものの、ニッツは無罪となり、エベンスは過失致死罪で3年間の保護観察処分と3000ドルの支払いのみで懲役刑にならなかった。
あまりにも理不尽な判決は社会問題となり、アジア系アメリカ人の権利を求める抗議活動に発展。1984年にはエベンス被告に第二級殺人罪の有罪判決と25年の懲役刑、ニッツも有罪となったが、1987年に判決は覆され、無罪となった。
ジャオ監督は、チンさんの事件をきっかけにアジア系アメリカ人の抗議活動の中心的人物となったジャーナリストのヘレン・ジアらと共に製作チームに加わった。
ジャオは「ヘレンがヴィンセントの物語と個人的な繋がりを持っていること、つらく、それでいてインスピレーションに満ちた物語に対して深い洞察力とニュアンスに富む視点を持っていることに感動しました」「チームに参加して、一緒にこの旅に出られることをとても光栄に思います」と語っている。
ジアはツイッターで「ビッグニュースです。ストーリーテラーであり世界を構築するマスターであるクロエ・ジャオが、ヴィンセント・チンの物語、そしてAAPI(アジア・太平洋諸島系アメリカ人)コミュニティの物語をアメリカの物語にするために、私たちのチームに参加してくれることになりました」と喜びを伝えている。
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