【週末シネマ】イタい、けれど嫌いになれないヒロインをシャーリーズ・セロンが好演
「あれ、自分、ヤバイのか?」。『ヤング≒アダルト』を見ていて、途中からよぎり始めた感想だ。というのも、本作は“シャーリーズ・セロンがどうしようもなくイタくて嫌な女を演じている話”だと耳にしていたからである。
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ミネアポリスに住む、自称作家にしてゴーストライターのメイビスは、執筆中のヤングアダルト(少女向け)シリーズの最終回を伝えられ、新作も未定の状態。30代後半でバツイチ、一夜の相手には不自由しないが恋人はナシ、愛犬のポメラニアンと酒に慰められる日々を過ごしていた。ある日のこと、高校時代の恋人バディと彼の妻から赤ちゃんの写真が添付された「誕生パーティにお越し下さい」なるメールが届く。彼女の中で何かがプチンと切れた。突然、荷物をまとめたメイビスは、ミニ・クーパーに乗って故郷へと走り出す。妻子ある“運命の人”バディを取り戻すために。
監督は長編デビュー作『サンキュー・スモーキング』でイキナリ高評価を得て、2作目の『JUNO/ジュノ』ではアカデミー賞監督賞にノミネート、3作目となる『マイレージ、マイライフ』ではアカデミー賞6部門にノミネートを果たした、ジェイソン・ライトマン。そして脚本は『JUNO/ジュノ』でライトマン監督と組み、アカデミー賞脚本賞に輝いたディアブロ・コディ。つまり映画好きには「おお、あのコンビ再び!」な作品なのである。
故郷へ戻ったメイビスは、あの手この手でバディを取り戻そうとする。彼の妻のバンドが街のバーで演奏するシーンがある。そこで、妻はバディへ捧げる曲としてティーン・エイジファンクラブの「ザ・コンセプト」を演奏。これはメイビスにとっても、バディとの思い出の曲だった! この演奏中のメイビスの形相たるや……もはやホラーの域である。いや、セロン、あっぱれ!
自分とバディは運命で結ばれていると信じ、突っ走るメイビス……かなり恐い。30代後半にしてポメラニアン片手にキティちゃんTシャツで練り歩く姿も相当イタイ。でも、でも、である。筆者はメイビスを嫌いになることができない。冒頭で、「あれ、自分、ヤバイのか?」と感じたのは、暴走しまくるメイビスを目の前にしても、“嫌な女”だとは思えなかったから。確かに、バディ家にとってみれば、迷惑以外の何物でもないだろう。でも人間なんて所詮自己チュー生物。彼女だけが特別なワケじゃない。
それに。本作はメイビスとバディの物語のようであって、そうではない。真に描かれているのは、メイビスと、故郷で偶然再会した高校時代の同級生で、当時のイジメで足を悪くしてしまったマットとの物語である。マットの妹との出会いも重要。さらに言うなら、メイビスは決して高校時代の輝かしい自分と、運命の人バディに執着しているのではない。彼女が反応したのは“赤ちゃん”の写真。そうでなければ、バディが結婚したそのときに、たとえ自分自身が結婚中であっても、『卒業』ばりに彼を奪い返しに行ったはずだ。
クライマックス、メイビスはついに爆発する。しかしその後には、メイビス風の終着点が待っている。興味深いのは、彼女はゴーストライターの身に苛立ちを感じつつ、故郷に帰るときも、バディ奪還作戦を実行中の際も、決して執筆活動を止めないことだ。美しき利己的女。その言動のインパクトと余波は大きい。今後も彼女はそこかしこに超の付く迷惑をかけながら、ヤングアダルトを綴って生きていくだろう。だが、そんな彼女を、嫌いにはなれない。「あれ、やっぱり、ヤバイ?」。
最後にひと言。ライトマン監督ファンの筆者。しかし本作は他の人にメガホンを任せたほうがメイビスの頑なさと同時に脆さが出たかも。さじ加減が難しいところではあるが、もう少〜し、違った角度からの演出も必要だったかもしれない。
『ヤング≒アダルト』は2月25日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開される。(文:望月ふみ/ライター)
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