『クナシリ』公開を前に元島民の孫世代の学生が意見交換会
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これまで知らされなかった国後島の真実とは……
ロシアが実効支配する北方領土・国後島の現実を、旧ソ連(現ベラルーシ)出身で、現在はフランスを拠点とするウラジーミル・コズロフ監督が、ありのままに映し出したドキュメンタリー映画『クナシリ』が、12月4日から全国で公開される。この度、公開に先駆けて本作を鑑賞した映画作家の想田和弘、お笑い芸人のせやろがいおじさん、ラッパーのダースレイダーをはじめとした著名人や専門家から賞賛コメントが届いた。
また、元島民の孫世代である学生上映会と意見交換会を東京外国語大学で行われた。
北海道からわずか16キロに位置し、かつては四島全体で約17,000人の日本人が生活していたという北方領土。しかし、戦後の1947年から48年にかけて引揚が行われ、現在、日本人は1人もおらず、日本政府は問題が解決するまで、日本国民に入域を行わないよう要請している。
「今のままでは仕事がない」「日本人は私たちに島を返還しろと言うけどここに移り住むつもりはない」……。戦後76年を経て、現在の国後島の様子をありのままに映し出した同作から見えてきたのは、ロシア人島民の厳しい暮らしぶりや日本に対する本音だ。
幼少期に強制退去の様子を目の当たりにした島民の当時を振り返る貴重な証言や、日本・ロシア間の平和条約締結への願い、生活苦を訴える切実な声などを、どちらにも偏ることなく客観的かつ淡々と捉えている。
両国の主張が膠着状態のまま政治に翻弄されてきた当事者たちの複雑な心境や実際の生活など、これまで我々が知らされることのなかった国後島の真実が明らかとなっている。
ロシア人留学生を含む学生が北方領土問題の今後を案じる
この度、同作の公開を記念して東京外国語大学で上映会&意見交換会が行われ、同大学4年生で根室市に暮らす元色丹島島民の孫である片貝里桜さんが立ち上げた学内サークル「ロシアサークルリュボーフィ」の呼びかけで、ロシア人留学生を含む13名の学生が参加。
講師として神奈川大学特別招聘教授・法政大学名誉教授の下斗米伸夫氏を招き、国後島の現状や北方領土問題の今後について意見を交わした。
上映終了後、学生からは「想像よりもインフラが整っていない現状に衝撃を受けた」「未だ十分に整っていない生活環境だけではなく、閉塞感によって分断してしまった現島民の人々の心を表しているようにも感じた」など、同作で描かれる国後島の現状へ驚きの声が上がった。
今回、参加したロシア人留学生は「劇中で映し出される島の現状は、他のロシアの地域でも多くみられる。貧困はロシア全体の問題でもある」と発言。
実際にビザなし交流事業で色丹島を訪れたこともある片貝さんは「日本人から見るとやや衝撃的な場面もいくつかありましたが、私も知らなかった島の現状が作品中のあちこちで見られ、ロシアや北方領土についてまだ知見の浅い方にとってもとても価値のある作品だと思います」と感想を述べた。
その後、下斗米氏による日ロ関係の歴史や解説を受け、盛況の中、上映会は幕を閉じた。終了後も下斗米氏に質問をする学生が相次ぎ、多くの学生が興味を深めている様子だった。
映画作家・想田和弘も衝撃受ける「国って何なんだ……」
また、公開に先駆けて同作を鑑賞した著名人、専門家からコメントが到着。『選挙』(07年)、『精神』(08年)などの監督で、同作同様に台本やナレーション、BGMを排した、「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践している映画作家の想田和弘は「国っていったい何なのだろう。『クナシリ』を見ながら、ずっと考えていた。頭をクラクラさせながら」と政治に翻弄されてきた島民の本音を映し出す本作品についてコメント。
お笑いコンビ「リップサービス」の活動をはじめ、沖縄の海を背景に赤いふんどし姿で時事問題に切りこむ動画で人気を集めているせやろがいおじさんこと榎森耕助は「普段目にすることが出来ない貴重な映像の数々から浮かび上がる、“コレ、結局誰が幸せになったん? ”な現実。ある住民が語る“共存”という言葉が、遠い夢物語のように虚しく響く」と感想を寄せた。
その他にも、司会業や執筆業など、さまざまなジャンルで活躍するラッパーのダースレイダー、戦史・紛争史研究家で日本の政治情勢を分析した書籍を多数執筆する山崎雅弘、自身の著書「ニッポンの国境」で国後島を含む北方領土の現地ルポを交えて真相に迫ったジャーナリストの西牟田靖氏、医療、災害・防災、国際紛争領域と幅広い取材を行うフリージャーナリストの村上和巳氏、北方四島の現在の島民と元島民の生活と意見をレポートした「ルポ・サハリンと根室から見た四島のいま」の著者でもあるライターの奈賀悟氏、安倍プーチン会談の焦点・北方領土の真実を書いた「北方領土の謎」の著者で拓殖大学教授の名越健郎氏、ソ連政治史・日ロ関係の専門家で「プーチンはアジアをめざす 激変する国際政治」など多数執筆している神奈川大学特別招聘教授・法政大学名誉教授の下斗米伸夫氏から、次のようなのコメントが到着した。
・ダースレイダー「この木は日本人を記憶している。印象的なセリフだ。クナシリの日本人の生活と艶と文化が夢のように漂う中、ロシアの人々は現実を生きている。様々な視座から立ち上がるクナシリの今」
・山崎雅弘「北方領土問題について、日本では日露両国政府がそれぞれ主張する「国益」のぶつかり合いという図式に単純化された報道しかないが、現地に住む人々の想いは、そのどちらとも違う、より生活に密着したもの。北方領土の現状や、日露両国の「国益」の衝突に翻弄される住民の生活と境遇を知ることができる作品」
・西牟田靖「日露にとって不都合な真実が山積する島の実体を描いた意欲作。領土問題を考える前にこの映画は必ず見るべき」
・村上和巳「3度も開発計画が掲げられながら現実は最果ての寒村。旧ソ連出身の監督だからこそ聞けた建前なしの棄民の声だ」
・奈賀悟「ロシア当局の宣伝映画ではない。ベラルーシ出身の監督による素顔のクナシリが、初めて私たちの前に現れた」
・名越健郎「勇ましい愛国主義と低劣な生活水準、これに日本が交錯して国後島の不都合な真実を暴いた力作」
・下斗米伸夫「コズロフ監督の描くクナシリは、76年前の戦で時間が止まり文明が自然化したようで美しく、そして哀しい」
コズロフ監督が、ロシア連邦保安庁の特別許可と国境警察の通行許可を得て撮影した国後島の現在を捉えたドキュメンタリー映画『クナシリ』は、12月4日から、全国で公開される。
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