長靴を履いた猫と聞けば、シャルル・ペローによる童話のそれか、日本の某アニメ映画のイメージを抱く人が大半だったはず。彼が登場するまでは……。『シュレック2』で登場した、華麗なアクションと必殺ウルウル光線が武器の“長ぐつをはいたネコ”だ。人気者となった彼が、ついにスピンオフ作品『長ぐつをはいたネコ』で主役として登場した。
描かれるのは『シュレック2』に流れ者として彼が登場する以前の物語。いわば、彼の前章譚。名前は“プス”と判明し、捨て猫として孤児院で育てられたことが明かされる。そこで彼はイメルダ婦人から、本当の母親以上にも思える温かな愛情を受けて育ち、親友とも出会う。この親友が、『シュレック』シリーズ最強といえるほどにインパクト大の造形を持つ、世界一有名な卵であろうハンプティ・ダンプティだ。
物語はすでにプスがある濡れ衣を着せられてお尋ね者になっている状態から始まる。酒場での登場シーンは字幕版でのプス役、アントニオ・バンデラスの『マスク・オブ・ゾロ』を完全に意識していて、カッコよさと、結局は身長60センチでしかないプスのミスマッチとが生むユーモアで笑わせて一気に観客を掴む。その後も、同酒場でのやりとりは最高。特にミルクを飲むシーンなどは、愛猫家(筆者もしかり)にはたまらない場面になっている。
故郷を追われていたプスは、それからハンプティ・ダンプティと再会し、ジャックとジルの極悪夫婦が所有する魔法の豆の木を奪う話を持ちかけられる。それで天空にある城に住む伝説のアヒルの金の卵を持ち帰れば、故郷にもまた受け入れてもらえるはずだと。ハンプティと溝のあったプスは迷うものの、イメルダ会いたさと親友との友情復活のため、そしてハンプティの相棒となっていた謎の雌ネコ・キティの魅力にもやられ、この計画に乗ることにする。
本作は3D作品だ。魔法の豆の木が空へとグングン伸びていく勢いや、アトラクションのようにプスたちを運んでいく様子、マシュマロのような雲といった描写には持ってこいだったと言える(天空の城の描写は物足りないが)。
だが全体を振り返るに、不満も残る。『シュレック』シリーズ最大の魅力といえば、やはり“毒気”。『シュレック』では中央にあの緑色の怪物がドンと構えているだけでも強い。しかし本作でのプスは、カッコいいのだ。一見、いいことに思えるが、それは全体がつまらなくなる危険性を孕むのである。
だからこそ、ハンプティ・ダンプティが置かれた。しかし、彼の心情への迫り方が中途半端。ハンプティは憎しみや嫉妬などの複雑な感情を抱えている。そのことは伝わるのだけれど、どうもお子様に配慮したような、掘り下げの足りなさを覚えて仕方ない。結果、大人向けなのか子供向けなのかが、イマイチ分からない出来となってしまった。というより、非常にいい素材=ハンプティを用意したのに、それを活かしきれていないように思えてモドカシイのだ。
とはいえ、幼い子供たちに“カッコいい”プスは好評だろうし、最初にも述べたように、ネコ好きには自然と顔がほころぶシーンが満載なのは確か。日本語吹き替え版の竹中直人は安定しているし、ハンプティの声をあてた勝俣州和も意外なことに(あ、失礼)上手い。あれこれ考えずに可愛いネコたちの大冒険を見に行く春休み映画としては、平均点はクリアしている。いや、本来ならば文句はつけたくない作品なんだよねぇ。だってネコ好きなんだもの。
『長ぐつをはいたネコ』は3月17日より新宿ピカデリーほかにて全国公開となる。(文:望月ふみ/ライター)
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