ヘルプとは、手伝う人のこと。かつてアメリカ南部で黒人メイドはそう呼ばれていたという。本作は1960年代前半、南部でも特に人種差別が激しいと言われたミシシッピ州のジャクソンに生まれ育った作家志望の若い白人女性・スキーターが、大学を卒業して帰郷するところから始まる。級友たちは皆すでに既婚者で、進歩的な考えを身につけて戻ってきたスキーターは変人扱いだ。公民権運動の隆盛など意に介さず、旧弊な差別意識に囚われた人々の意識に疑問を抱いた彼女は、”ヘルプ”たちの本音を集めて1冊の本にまとめようと動き始める。
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肌の色で差別することに疑問を持たないどころか、それを良識ととらえる“善良な人々”がわずか半世紀前にいた。同じトイレを使用するのを絶対に許せない相手が作った料理を毎食口にし、大切なわが子の世話一切を任せる。地元の新聞社に就職したスキーターが任されたのは家事コラムだが、そもそも一体誰がそれを読むのだろう? 自分たちは皿一枚洗わない白人女性なのか? 案の定、家事の知識がまるでないスキーターが友人宅に勤めるメイド、エイビリーンに助けを求める導入から、そんな社会の矛盾をユーモラスな描写をまじえて提示しつつ、物語は快調に展開していく。
登場人物の造形は紋切り型ともいえる。コンプレックスを抱えながら善意と不屈の精神で行動するスキーター(エマ・ストーン)、悲しみや怒りを心の奥底にしまい込んだ寡黙なエイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)、対照的に毒舌だが、料理上手で世話好きなミニー(オクタヴィア・スペンサー)、差別意識に凝り固まった高慢でヒステリックな白人女性のヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)、身分違いの結婚を理由に仲間外れにされるのはいかにもなダムブロンド(金髪白痴美)のシーリア(ジェシカ・チャステイン)。だが、女優たちの繊細な演技がそこに豊かなリアリティを与え、強烈な共感を促す。スペンサーのオスカー助演女優賞受賞、そして映画俳優が選ぶ映画俳優組合(SAG)賞において主演女優賞、助演女優賞、作品賞にあたるアンサンブル演技賞(主な出演者が受賞対象)を独占したことからも、彼女たちの貢献が本作の最大の魅力であることは明らかだ。
自分たちの大それた行為のもたらす影響に怯えもする。それでもなけなしの勇気と誇りで自身を奮い立たせ、前進していく彼女たちは美しい。その姿が、自由を手にするうえで引き受けなければならない覚悟を伝える一方、本作が当時の社会の現実を活写したとは言い切れない。黒人奴隷の歴史はもっと悲惨な事実に満ちている。しかし、男性の存在感が極端に薄く、暴力表現を抑え、社会問題にも深入りしないスタイルを貫きながらも、物語は甘いだけではなく、苦さもある。わかったような顔をせず、被害者目線を装うことなく、白人の立場から理解した世界を描いた。そこに不満を抱く人もいるだろう。だが、人種間にとどまらない差別の実態を品性を保つ形で表現する本作は、その真の醜悪さを想像させる。知りたい人はそこから真実を追っていけばいい。きっかけを与える。それもエンターテインメントがはたす重要な役割の1つだ。
『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』はTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中。(文:冨永由紀/映画ライター)
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