ハリウッドが舞台とはいえ、世界的にほとんど知られぬ主演俳優と監督の作品ながら、アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞・作曲賞・衣装デザイン賞の5部門に輝いたフランス映画『アーティスト』。
・【動画】『アーティスト』ミシェル・アザナヴィシウス監督 インタビュー
3D映画が増え続ける今、あえて白黒サイレントに取り組んだことでも注目を集めている。だが、この『アーティスト』。サイレント、サイレントと騒がれているものの、実は“音”を非常に巧みに使っている。
物語は1927年、サイレント映画の成熟期に始まる。大スターのジョージは、あるとき、女優の卵ペピーと出会う。「女優になりたいなら、何か特徴がなければ」と優しくアドバイスし、彼女の口元にほくろのメイクをするジョージ。彼の主演作のエキストラに過ぎなかったペピーだが、次第にそのキュートな魅力で観客に支持されるようになっていく。
時代はトーキーへの転換期に来ていた。自らを“アーティスト”だと主張するジョージはサイレント映画に固執。結果、スターの座から一気に堕ちていくことに。一方、ペピーはトーキー映画の盛り上がりと共に、スター女優への階段を上っていく……。
ジョージの運命の分岐点となる、トーキーの登場。彼は映画会社からトーキー映画のデモを見せられる。「これが“未来”だ」と。それを笑い飛ばし、社長に「君はトーキーを作ればいい、僕は自分でサイレント映画を作るよ」と言って去るジョージだが、この直後の演出が凄い!
ジョージが華々しい活躍を見せる前半、バックは陽気なジョージのテーマ曲で彩られていた。その音が突如として、消える。そして、コップを置く音、ものを倒す音、相棒犬アギーの吠える声や電話の呼び鈴など、日常の“音”が、一気に彼に迫ってくる。そして音に攻め立てられるように外へと出た彼に、今度は若い女性たちの“笑い声”が襲いかかる。
サイレントと銘打たれる本作。確かに無声映画の形をとってはいるが、これはあくまでも現代に撮られた作品。無声映画としたのは、かつてのように技術的に不可能なことからの必然ではなく、あくまでも物語を綴る上での手法なのである。結局、この場面に登場する“音”は、彼の夢のなかのものだと分かるのだが、この時点で、彼の潜在意識は、時代はトーキーへ移るのだと認識していることが分かる。
ジョージの人生が急転していく中盤は重々しい空気が占め、ペピーとのロマンスが展開する後半はメロドラマ色の強い音楽が華を添えていく。
中盤以降の展開については、みなさん自身の目で確かめていただきたいが、ちょっとだけ種明かしを。終盤、「もう誰も自分の声など必要としていない」というジョージだったが、彼は声ではなく、ある“音”で、見事、スクリーンに復帰する。この音の使い方も今の作品だからこそ出来ることであり、またラストもシャレた“音”の洪水で幕を閉じる。
サイレントとの宣伝に、「苦手かも」と思ってしまっている人。いやいや、本作の“音”の使い方を、ぜひとも確認していただきたい。もちろん、名演技ぶりが話題になった犬のアギーくんも、その注目度が納得の大活躍を見せてくれます。
『アーティスト』はシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開中。(文:望月ふみ/ライター)
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