2002年、三池崇史監督が山本周五郎の名作を映像化した『SABU さぶ』に感動し、タイトルロールを演じた妻夫木聡が次に三池監督と組むとしたら、どんな作品になるだろう?と楽しみにしていた。ちょうど10年が経ち、それは予想もしなかった形で実現した。70年代に一世を風靡した梶原一騎、ながやす巧の劇画を、同時代のヒット曲を登場人物たちに歌い踊らせながら描く“純愛エンタテインメント”。それが『愛と誠』だ。
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手のつけられない不良・太賀誠(妻夫木聡)と裕福な家庭の令嬢・早乙女愛(武井咲)の恋を描く……と言いたいところだが、実際は、幼い頃に雪山で危機から救ってくれた誠に対する愛の一方的かつ揺るぎない愛情を軸に、そんな彼女にこれまた究極の一方通行な愛を捧げるメガネの優等生・岩清水弘(斎藤工)、そこに学園の番長やスケバン、裏番も仲間入りして繰り広げる愛のカオス劇場といったところだろうか。
開巻まもなく、いきなり誠が西城秀樹を歌い出し、呆気にとられると、続いて「あの素晴らしい愛をもう一度」と、振り付きで愛が高らかに歌い上げる。彼女が「あの、すばーらしい、あ〜い……」とタメる瞬間が、この映画に乗るか否かの分かれ目になるかもしれない。武井の勘の良さは特筆に値する。完全無欠のお嬢様の面(ツラ)の皮の厚さまで、ちゃんとわかって演じているのだ。自分の思うまま破天荒に生きているはずが、このお嬢様の思い込みのせいで、なぜか彼女を愛している体裁になり、そんな状況にツッコミを入れながら巻き込まれていく誠を演じる妻夫木はコメディとシリアスのバランスを絶妙に取り、ストーリーの全体像を見据えた芝居で、主演男優の矜持を見せる。
「君のためなら死ねる!」と愛に訴えるなり、そばにいた不良女子にスコーン!とどつかれる岩清水や、敵対するスケバングループのガムコ(安藤サクラ)が誠にメロメロになってしまう姿には思わず笑うが、気づけば、彼らの純情にほだされている。三池監督は、歌や踊りは登場人物の感情の延長上にあるものだとキャストに説明したという。納得だ。歌は心情の吐露。だから、ガムコの清らかな歌声と、それまで見せてきたキャラのギャップにガツンとやられるのだ。『忍たま乱太郎』に続いて三池作品に登場の加藤清史郎が乱闘シーンで披露する本気のアクションも見逃せない。
アニメになったり、舞台仕立てになったり、『岸和田少年愚連隊 カオルちゃん最強伝説』シリーズ(竹内力と田トモロヲが15歳の高校生を演じる)みたいな伊原剛志の起用など、語り口は多彩だが、“面白い台本を真面目に撮る”というコンセプトにブレがなく、役者も演出も一切の迷いなく、突っ走っているのが爽快。彼らの疾走につき合い、振り回された最後に味わうカタルシスは格別なものになるはずだ。
『愛と誠』は6月16日より新宿バルト9ほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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