純愛少年マンガの金字塔を鬼才・三池崇史監督が再映画化した『愛と誠』。出演の妻夫木聡と武井咲が映画の内容について、揃って「よくわからない(笑)」とコメントしており、いったいどんな破綻作品になっているやらと、失礼ながらも多少ゲンナリして見てみると、予想外にまっとうなエンターテインメントに仕上がっていた。
・[動画]『愛と誠』はよく分からない映画!? 妻夫木聡、武井咲らが爆笑会見
妻夫木聡演じる札付きの手の付けられない不良・誠と、武井咲演じるブルジョアのお嬢様・愛の純愛が描かれている。純愛と言っても誠は愛を相手にせず不良同士のケンカを繰り返し、愛が独りよがりな献身を尽くしているのだが。
1970年代に大ヒットした梶原一騎原作、ながやす巧作画による同名原作コミックにははっきり言ってあまり馴染みはない。原作がブームだった当時に製作された西城秀樹主演の映画化やテレビドラマも未見だ。
むしろモトネタ関連は、江口寿史原作コミック「すすめ!!パイレーツ」に登場するパロディ版でその存在を知っていたといったほうがいいだろう。そのことからもわかってもらえるだろうが、原作は当時から憚(はばか)ることなく茶化されていじられる対象でもあった。あまりに実直で一途過ぎるために、客観視すると滑稽に見えてしまうためだろう。「巨人の星」と同じ原作者だからしてそのテイストは言わずもがな。
そのあたりで真っ向勝負に出たというか、原作の持つ真っ直ぐなあまりの可笑しみを逆手に取ったのが本作というわけだ。テレビシリーズ『花より男子』などの脚本を担当する宅間孝行が、昭和の不良と純愛という古臭さを昭和ヒットソングのミュージカル仕立てにすることで、利点として生かしている。唐突に歌いだすミュージカル特有の軽妙さや、昭和ヒットソングのやけにドラマチックすぎる曲調も作品のムードにピッタリだ。くだりの西城秀樹の代表曲のひとつ「激しい恋」や「空に太陽があるかぎり」、「また逢う日まで」などなど、昭和世代にはおなじみのナンバーを出演陣がけれん味たっぷりに歌って踊るのはそれだけで豪華で楽しい。
また、来るオファーを拒まず次々と作品を手がける、ある種の職人監督である三池監督はテーマやメッセージを追究するタイプでなく、どう見せるか演出にこだわる監督だ。それも遊び感覚のオフザケをこちらがたじろぐほどマックスで全力投球してくる。今回、スリッパどつきも放り込んで滑稽な笑いを満載させ、バイオレンスシーンは躊躇なく活写する。あちこちにプンプンと立ち込めている昭和のうさんくささも効果的だ。
惜しむらくは……というには実は難点が大きいが、妻夫木聡と武井咲がミスキャストと感じたこと。妻夫木聡が不良タイプと真逆であることはこの際置いておいても、演技がどうもこぢんまりとしていて軽く、この世界観に負けている。下手でもなんでもいいから大見得切ったダイナミックな演技を見せてほしかった。武井咲は、勇気を出して言うとただ単に顔が可愛くない。空回りしている世間知らずの可愛いお嬢様であってほしいのに、「あれ? 武井咲ってこんなに可愛くなかったっけ……?」と思ってしまった。姫カットがアゴを強調してアダとなったか。まぬけでおバカな愛らしい雰囲気でカバーできてはいるが。
彼らを取り囲む共演陣が誰をとっても小気味いいほどハマり役ではじけているから完璧を求めてしまったのかもしれない。メガネの優等生・岩清水役を演じる、三池監督の『逆転裁判』でも活躍を見せた斎藤工は原作の名ゼリフ「君のためなら死ねる」をためらいもなく愛に言い放ち、潔さは胸がすくほど。愛の父親役の市村正親は、それこそ大見得切った芝居が堂に入ったもので惚れ惚れしてしまう。誠に歯向かったもののノックアウトで恋に落ちてしまうスケバンのガムコに扮する安藤サクラは、能面顔が功を奏してスケバンの凄み顔も恋する乙女顔もすんなり似合う。その他も揚げ出したらキリがなく、贅沢な共演陣が主演2人のミスキャスト感を相殺してくれている。
モトネタに特別な思い入れはない人にはおすすめしたい、映画的な見応えを備えたエンターテインメントだ。
『愛と誠』は6月16日より新宿バルト9ほかにて全国公開される。(文:入江奈々/ライター)
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