リメイクではなくてリブート(再起動)。と言っても、「要は高校生の男の子がクモに咬まれて特殊能力を持つ話なわけでしょ」と鑑賞前はついタカを括っていたが、これが面白い。3D撮影という表現法を得て格段に迫力を得た映像に、父親探しに始まる青年の成長物語が重なる『アメイジング・スパイダーマン』は、お馴染みのピーター・パーカーの物語を、これまでにない形で語ってみせる。わざわざ“アメイジング”と念を押すのも納得の出来映えだ。
本作でスパイダーマン(=ピーター・パーカー)を演じるアンドリュー・ガーフィールドは『ソーシャル・ネットワーク』や『わたしを離さないで』などで確かな才能を見せてきた若き演技派だが、その魅力は何といっても佇まいの普通さだ。『スパイダーマン』の前シリーズで主演をつとめたトビー・マグワイアも一見どこにでもいる青年のように見えるが、その瞳はいつも静かな狂気を湛え、超然とした様子にどこか“選ばれし者”感が漂う。それに較べてガーフィールド版ピーター・パーカーは本当に平凡で不器用な高校生なのだ。謎の失踪を遂げた両親に対する複雑な気持ち、育ての親である伯父夫婦への愛着を素直に演じている。格好良過ぎず悪過ぎず、悩みながらも宿命を受け入れて成長していく姿が清々しい。エマ・ストーンが扮する同級生グウェンが積極的にリードしていく恋愛エピソードも含め、現代の若者のリアルが伝わってくる描写に、青春映画の傑作『(500)日のサマー』のマーク・ウェブ監督の手腕が冴える。
ピーターの父親リチャードのかつての研究パートナーで、リチャード夫妻失踪の秘密を知るコナーズ博士は「弱者のいない世界をつくる」という理想のもとで暴走し、やがてスパイダーマンと対決する。コナーズを演じるリース・イーヴァンズが見せる異形の者の心情と正義感は心に突き刺さるものがある。デニス・リアリー扮するグウェンの父ステイシー警部、マーティン・シーン扮するピーターの伯父ベン、サリー・フィールド扮する伯母のメイ、と脇を固めるキャラクターの豊かな人間性もストーリーに奥行きを与え、大きく功を奏している。
ドラマ的な要素のみならず、ウェブ監督は3D撮影の可能性を追究し、3つのV(速度:velocity、体積:volume、めまい:vertigo)の映像化に挑戦。その結果、観客自身が、ニューヨークの空を縦横無尽に舞うスパイダーマンが味わう高揚を実感させる映像が出来上がった。アクションの迫力のみならず、感情のうねりまでもが伝わってくる。まだ明かされない秘密、謎がいくつも残された新しいシリーズは、映像技術の進歩とともに、今後もさらなる進化を見せてくれそうだ。
『アメイジング・スパイダーマン』は6月23日、24日に3D先行公開、6月30日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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