『リンカーン弁護士』
邦画の話題作がいくつも公開される7月14日だが、個人的に一番推したいのは、スリリングな展開のサスペンス『リンカーン弁護士』だ。高級車リンカーン・コンチネンタルの後部座席がオフィスの一匹狼の敏腕弁護士が、軽い気持ちで引き受けた案件から人生最大の危機に直面する。
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オープニング・クレジットを見ただけで、良い作品に当たったと確信させる作品があるが、これもそんな1本だ。70年代のソウルの名曲、ボビー“ブルー”・ブランドの「Ain’t No Love in the Heart of the City」に乗せて黒塗りのリンカーンのパーツが映し出される。分割画面のスチルはやがて動く映像となり、ロサンゼルスの街を走る車中で資料を読み、電話をかける主人公ミック・ハラーの行動を見せていく。いわば名刺代わりのようなこの2分弱のシーンで、もう観客は大体彼がどんな人物なのかを把握できる。果たして彼は、必要とあらばきわどい裏技も駆使する悪徳弁護士すれすれの存在だ。スーツをパリッと着こなし、強面の男たちとも堂々とわたりあうタフな佇まいが、40歳を過ぎて渋味と、うっすら凄みすらにじむ風貌になったマシュー・マコノヒーによく似合い、ここ数年間で最高の演技を見せている。
複数の訴訟を手際よく捌いていくミックのもとに“でかい儲け話”が転がり込む。女性暴行容疑で告発された資産家の御曹司の罪を司法取引で軽減させれば、多額の報酬が得られる。32歳のブロンド美青年は逮捕歴もない。従順な彼を自分の指示通りに行動させ、全ては簡単に済むはずだった。だが、御曹司と被害女性の証言はことごとく食い違い、真相は薮の中。有利な証拠が手に入ったかと思えば、検察側から事態を逆転させる証拠が現れる。二転三転するうちに、ミックは依頼人に対する不信を募らせていく。調査の過程でミックが過去に携わった事件との類似性が浮上し、友人や家族など周囲を巻き込みながら、思いがけない方向へと事態は動き出す。無垢な表情の被告と弁護士という設定は、リチャード・ギアとエドワード・ノートンが出演した『真実の行方』を彷彿とさせるが、マコノヒーも御曹司役のライアン・フィリップも、より攻撃的で、欲望や悪意、そして独特の正義感をエモーショナルに表現する。
コメディも得意なマコノヒーはただ深刻ぶってみせるだけでなく軽妙さも役に盛り込み、別れた妻(マリサ・トメイ)とも艶っぽさの抜けきれない奇妙な友情を保つ色男ぶりも魅力的。原作者のマイクル・コナリーは映画のキャスティングが決まる前からマコノヒーが適役だと感じていたというが、まさにこれ以上はないというはまり役だ。ミックの調査を手伝う親友の私立探偵役のウイリアム・H・メイシー、御曹司の母親役のフランシス・フィッシャー、それにジョシュ・ルーカス、マイケル・ぺーニャ、ジョン・レグイザモ、とキャストの顔ぶれも、ハードボイルドなロサンゼルスの物語にふさわしい。法廷劇でありながら、舞台は街へも広がり、犯罪と愛と友情と裏切りのドラマとしても堪能できるサスペンス・エンターテインメントだ。
『リンカーン弁護士』は7月14日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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