ホラー映画の金字塔『13日の金曜日』
【ホラー講座forビギナーズ1】ホラー映画には様々なサブジャンルがあるが、なかでもポピュラーなのは、ジェイソン、フレディ、マイケル、レザーフェイスら人気殺人鬼キャラを生み出したスラッシャー映画だろう。フランチャイズ化された作品も多く、ホラー映画に興味がある人であれば何かしら見たことがあるに違いない。
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大雑把に言えば、スラッシャー映画とは、サイコな殺人鬼が若者を殺しまくる映画のこと。すべての作品がそうではないが、殺人鬼は何らかのトラウマ的な過去があり、それに紐づけられる記念日になると凶行に走る。この殺人鬼は人間離れした働きぶりで死体の山を築いた後、最後に生き残った女性“ファイナル・ガール”に倒される。そしてもちろん、続編で生き返る。
スラッシャー映画で面白いのは、本来の主人公である被害者よりも、殺人鬼の方が圧倒的に人気&知名度が高い事実だ。『悪魔のいけにえ』(74年)のチェーンソー殺人鬼レザーフェイスは有名なのに、ヒロインであるサリー・ハーデスティの名前を知っている人はそう多くない。フランチャイズ化された作品では、登場人物が毎回入れ替わるのに対し、殺人鬼はずっと同じ。つまり、スラッシャー映画では殺人鬼が主人公であり、そのキャラクター性が大きな売りなのだ。
こうした殺人鬼のキャラ化を最も成功させたのは、『13日の金曜日』フランチャイズに違いない。同シリーズに登場するホッケーマスクの殺人鬼ジェイソンは、ホラー映画を代表するアイコンであり、一般的な知名度にかけては他の殺人鬼たちを圧倒している。
1作目で大暴れしたのはジェイソンではない!という知る人ぞ知る事実
とはいえ、ジェイソン人気は最初から意図されていたものではない。よく知られているように1作目の殺人鬼はジェイソンの母親であり、当のジェイソンはラストに登場するのみ。2作目『13日の金曜日PART2』(81年)で初めて殺人鬼ジェイソンが出てくるものの、トレードマークのホッケーマスクではなくズタ袋で顔を隠している。我々が知るジェイソンは、3作目『13日の金曜日PART3』(82年)でようやく登場するのだ。
前置きが長くなったが、今回はその『13金』フランチャイズから現時点での最新作となるリメイク版『13日の金曜日』(09年)を紹介したい。監督は『テキサス・チェーンソー』(03年)を成功させたマーカス・ニスペル、脚本は『フレディVSジェイソン』(03年)のダミアン・シャノンとマーク・スウィフトが手掛けている。
前述のように初期『13金』ではジェイソンのキャラが確立してなかった。このリメイクではその経緯をちゃんと拾い、1~3作目に相当するジェイソン誕生の過程を長めのプロローグで描いている。まずは母親が殺人鬼、ズタ袋、ホッケーマスクのエピソードがあり、それから本編がスタートするのだ。
舞台は2000年代。80年代に大量殺人事件が起きて閉鎖されたクリスタルレイク・キャンプ場に、失踪した妹を捜している青年と、別荘でバカ騒ぎするつもりの男女7人がやってくる。その先は言うまでもない。彼らがジェイソンの獲物になるのだ。
とりわけ初期『13金』は、先行の『悪魔のいけにえ』『ハロウィン』と比べても登場人物のキャラクター描写が薄かった。言ってしまえば、一ミリも感情移入できない連中の死を描いていたわけだが、それこそが初期『13金』の特徴であり、80年代スラッシャー映画に共通する特徴でもあっただろう。
本作はそうした『13金』本来のテイストを踏襲し、どうでもいい感じの殺され要員を揃えている。と同時に、ある程度は観客が感情移入できるよう、失踪した妹を捜す兄という共感しやすい登場人物を用意している。10作目『ジェイソンX 13日の金曜日』(02年)で宇宙を舞台にし、11作目『フレディVSジェイソン』(03年)でフレディと対決したあとでは、目新しさも派手さも感じられないが、原点に立ち返るという意味でのリメイクとしてはいい線ではなかろうか。
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ジェイソンは概ね従来のビジュアルを踏まえているが、そのキャラに関してはアレンジがある。かつてのジェイソンは大柄な体格を生かして力任せに暴れていたが、本作では素早くしなやかに行動する。演じたデレク・ミアーズがランボーに近いと語るように、このジェイソンはトラップを仕掛け、屋根から飛び降りて相手の背後にまわり込む。殺人マシーン的な旧ジェイソンに比べると、人間らしさを感じさせるところもあり、ファンとしては好みの分かれるところだろう。
本作は北米で6500万ドルの興行収入を上げた。ゼロ年代に制作されたスラッシャー映画のリメイクとしては『テキサス・チェーンソー』に継ぐ2位、『13金』フランチャイズでは『フレディVSジェイソン』に継ぐ2位となる。決して悪くない数字だが、期待されていたほどではなかったかもしれない。
本作以降、続編やリブートの企画が立ち上がっては流れた。そして18年、1作目の脚本家ビクター・ミラーが脚本の権利を主張し、裁判所によってそれが認められるという事態が起きた。1作目の監督ショーン・S・カニンガムはこれに納得せず、判決を覆そうと活動を続けたが、二審でもミラーの主張が認められた。かくして『13金』の権利問題は泥沼化。ライバルの『ハロウィン』フランチャイズが快進撃を続ける今、『13金』関係者はもどかしい思いをしているに違いないが、権利問題が解決するまで新作を撮るのは難しい。(文:伊東美和/ライター)
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