ヒュー・グラントも耽美な青年だった! 『世界で一番美しい少年』ほか、麗しの俳優たち
#エズラ・ミラー#ティモシー・シャラメ#ヒュー・グラント#ビョルン・アンドレセン#ベニスに死す#モーリス#世界で一番美しい少年#君の名前で僕を呼んで#少年は残酷な弓を射る#映画を彩る美少年・美青年たちの今
【映画を彩る美少年・美青年たちの今】<後編>
(<前編>より続く)
映画史に残る名作の数々に登場し、脚光を浴びた美しい少年、青年たち。運命の1作で一世を風靡した彼らのドラマティックなその後を振り返りながら、近況を紹介する。
ビョルン・アンドレセン/『ベニスに死す』『世界で一番美しい少年』
イタリアの巨匠、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『ベニスに死す』(1971年)で、主人公の作曲家を虜にする美少年タジオを演じ、世界にその存在を鮮烈に知らしめたビョルン・アンドレセン。撮影時は15歳、公開時もまだ16歳だった彼は、この1作で運命が一変した。素朴なスウェーデンの少年は類い稀な美しい容姿ゆえに、自身でコントロールできない栄光に振り回され、大人たちの意のままに操られ、自分を見失っていった。映画の世界に足を踏み入れる以前の複雑な生い立ちや、青年期以降の困難な日々についてはドキュメンタリー映画『世界で一番美しい少年』(21年)が詳細に追っている。
・美貌は欲望の対象に…。儚い栄光と苦難に向き合う『世界で一番美しい少年』
『ベニスに死す』によって世代を超えて愛され続けてきた彼が世間を驚かせたのは2019年、アリ・アスター監督の『ミッドサマー』に突如、俳優として出演した時だ。事前に知らなければ絶対に気づかないほどの変貌は、50年近い年月の流れを考えれば当然だ。キャラクターが迎える衝撃的な結末を、世界で一番美しい少年と呼ばれた彼が演じることに特別な意味を見出そうとする向きもあるが、本人は「自分がもうすぐ死ぬと知っている老人を演じただけ」と、ドキュメンタリー公開時に「DAZED」のインタビューで語っている。「あんなに小さな役だったのに」と、世間があの老人を演じたのがビョルン・アンドレセンだと知って大騒ぎしていたことも知らなかったという。この姿勢こそが、苦しみ続けた彼が身につけた自らを守る術なのかもしれない。
エズラ・ミラー/『少年は残酷な弓を射る』
『ファンタスティック・ビースト』シリーズのクリーデンス・ベアボーン役、DCコミックスのスーパーヒーロー、フラッシュ役で知られるエズラ・ミラーが最初に脚光を浴びたのは、2011年のカンヌ国際映画祭で絶賛された『少年は残酷な弓を射る』だ。恐ろしい事件を起こした15歳の少年について、息子が誕生してからの日々を振り返る母の視点で描くストーリーで、エズラは誰の目にも普通のいい子に見えながら、ティルダ・スウィントン演じる母親だけには冷酷な一面をむき出しにする少年ケヴィンを演じた。
相手を見透かすような、サディスティックな眼差しが印象的だが、同作のプロモーションで来日した本人は対照的によく笑う明るい性格だった。東京という街に興味津々で、取材した記者たちにお勧めのナイトスポットを尋ねていた。そんな素顔は、エマ・ワトソンと共演した『ウォールフラワー』(12年)で演じたパトリックに近いかも。
当時はインディペンデント映画中心に出演していたが、その後スーパーヒーローのフラッシュ/バリー・アレン役に抜擢されて『スーサイド・スクワッド』(16年)や『ジャスティス・リーグ』(17年)などDCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)の作品に出演、2022年にはフラッシュが主人公を務める『ザ・フラッシュ(原題)』がDCEU12作目として公開予定。それに先立ち、『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』が2022年4月に公開予定だ。
ヒュー・グラント/『モーリス』
イギリスの文豪、E・M・フォスター原作をジェームズ・アイヴォリー監督が映画化した『モーリス』(1988年)は20世紀初頭のケンブリッジ大学で出会った青年2人の恋の物語。ジェームズ・ウィルビーが演じたモーリスに対して、恋心を告白するクライヴをヒュー・グラントが演じた。知性と美貌と大胆な性格で、生真面目な秀才のモーリスを魅了する説得力にあふれる存在感を放ち、ヒューはこの1作でブレイク。1990年代からは『フォー・ウェディング』(94年)、『ノッティングヒルの恋人』(99年)、『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ(01年、04年)などロマンティック・コメディの大ヒット作で活躍したのはご存知の通り。インテリ男性の不器用な優しさ、逆に鼻持ちならない嫌味なキャラも、どちらもチャーミングに演じ、『アバウト・ア・ボーイ』(02年)で子役時代のニコラス・ホルトとの名コンビも忘れ難い。
現在61歳のヒューは50代からツイッターを始め、政治についての意見も積極的に発信している。絡んでくるコメントに反応して論争になることもあるが、本業に支障をきたすこともなく、自身の立場を明確にしながら活動を続けている。
個人的には様々な表情を見せた『クラウド アトラス』(12年)や強烈キャラの妻を優しく支える『マダム・フローレンス!夢見るふたり』(16年)、『ジェントルメン』(20年)、ニコール・キッドマンと共演のHBOミニシリーズ『フレイザー家の秘密』など、歳を重ねるごとに役の幅が広がる近年の活躍から目が離せない。
ティモシー・シャラメ/『君の名前で僕を呼んで』
『モーリス』のジェームズ・アイヴォリー監督がアカデミー賞脚色賞を受賞した『君の名前で僕を呼んで』で大ブレイクし、同世代を代表するスターとなったティモシー・シャラメ。トーク番組や映画賞授賞式でMCからネタにされるほどの美貌と演技力、インタビューでは知性あふれるコメントを紡ぎ出す非の打ち所がない逸材だ。10代から俳優として活躍していて、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』ではヒロインの兄(少年期)、TVシリーズ『HOMELAND』ではアメリカ副大統領の息子を演じて、美貌が注目されていた。初主演作『シークレット・チルドレン 禁じられた力』(15年)では特殊能力を持つアーミッシュの少年を演じたが、ブレイク後の主演作でもNetflix『キング』や『DUNE/デューン 砂の惑星』など、選ばれし者の孤高や苦悩を演じている。
ドラッグ依存の青年をリアルに演じて、ゴールデングローブ賞や英国アカデミー賞助演男優賞候補になった『ビューティフル・ボーイ』(18年)や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(19年)など、主役だけではなく助演に回ったときの、作品の1パートとしてのあり方も見事だ。Netflixで配信中の『ドント・ルック・アップ』(21年)や『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(22年1月28日公開)は、まさにその真骨頂。
映画祭やMETガラなどイベントでの着こなしが注目されるファッション・アイコンでもあり、年末にはデザイナーのハイダー・アッカーマンと白地にブルーのスプラッシュ柄のフーディを制作・販売し、収益の全額をアフガニスタンの女性と子どもの権利を守るための救援団体「Afghanistan Libre」に寄付するという。(文:冨永由紀/映画ライター)
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