「な、なんだ、この傑作は!?」とド肝を抜かれたのは、2006年の春先のこと。ドジでおバカで、だけどお母さん想いでとってもお人よしな“こぶた”のマクダルが主人公のアニメーション『マクダル パイナップルパン王子』に出会ったときの衝撃だ。あれからもう6年以上。ついに! 待ちに待ったマクダルの新作アニメ『マクダルのカンフーようちえん』が公開になる!
ファンが狂喜乱舞したこの公開。マクダルの世界にどっぷりハマリ、家にはDVD-BOXも大事に置いている筆者からは考えられないことだが、マクダルのことを知らない人も多数いるのが現実。仕方ない。ちょっとばかり彼と彼の世界について説明しよう。
本シリーズの原点は1991年にスタートした漫画。もともとマクダルのシリーズの主人公は、片目と頭の部分に沁みのあるマクダルではなく、そのいとこの優等生マクマグだった。やがてマクダルが登場。そして彼らの通う幼稚園を主な舞台としたテレビアニメシリーズ「春田花花幼稚園 マクダルとマクマグ」がスタート(我が家にあるBOXはコレ)。人気は高くなる一方で、ついに劇場版に発展。01年、香港初(!!)の長編アニメーションとして『My Life as McDull』が公開。そして『パイナップル〜』と、実写版(どういうこと!? 想像不可です)を経た、劇場版第4作が『マクダルのカンフーようちえん』ということになる。
香港に見切りをつけて中国へと渡ったマクダルと2匹暮らしのミセス・マグが、マクダルを武術の名門「カンフーようちえん」へ預けることになる本作。マクダルは可愛い。仲間もみな可愛い。それは確かだ。筆者も、最初にマクダルに興味を覚えたのはそのキャラクターのホンワカさに惹かれたからだ。でも、妙に生生しい背景をバックに語られるマクダルの物語は、決して“可愛い”のひと言では収めきれない様々な感情が入り乱れまくる。
彼を取り巻く世界はシュールで、ナンセンスで、センチメンタル。もちろん愛もある。意外に、いや完全に深いのだ。『パイナップル〜』で父の不在について語った本シリーズ。そこで、マーラーの交響楽第1番「巨人」、第3楽章の「葬送行進曲」が流れたときの衝撃と圧し掛かった重さは、今もって払いのけることができない。
そして、「ちびっこたちのカンフー修行だ、可愛いなっ」となりそうな本作でも、全編にわたって音楽が存在感を放つ。「テネシーワルツ」やモーツァルトのピアノソナタ、マヌエル・デ・ファリャの「恋の魔術師」などなど、大人な選曲が続いていく。この時点で、まだ見ぬ人の頭は混乱してくるだろう。混乱ついでに補足すると、本作ではマクダルの18代前の祖先にして、ガラクタばかりを発明したマクデブが随所に“唐突に”登場。ミセス・マグは更年期障害に苦しみ、カンフーを教えるようちえんの園長先生は過去の戦いによるトラウマを抱えている……。えっと、オホンっ。これだけ読んでいるとただの支離滅裂な作品に思えるかもしれないが、それは単に筆者の力不足ゆえ。マクダルのナンセンスワールドを甘くみてはならない。
ところで、新作公開には喜びだけではなく、ひとつの懸念もあった。吹き替え版上映なのだ。『パイナップル〜』で耳にした広東語の響きは、マクダルにあまりにも合っていて、その響きも世界を構築するピースに間違いなかった。だが、本編を観見て安心した。鈴木福くん、ピッタリ! ミセス・マグ役の前田美波里さんも、彼女のちょっと畳み掛けて話す感じをよく出している。途中、マクダルが歌うシーンは広東語のままだが、むしろ福くんのほうがマクダルらしいと感じてしまうほどに、いい意味で裏切られることになった。
大傑作だった『パイナップル〜』と比較するのは酷だが、『マクダルのカンフーようちえん』も十分に秀作。もう一度言おう、マクダルを甘くみると痛い目に遭うゾ。
『マクダルのカンフーようちえん』は8月11日よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開される。(文:望月ふみ/ライター)
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