初期ゾンビは、呪術師に操られる哀れな奴隷だった
【ホラー講座forビギナーズ 2】前回はホラー映画のサブジャンルとしてスラッシャー映画を紹介した。今回取り上げるのはゾンビ映画。スラッシャー映画と共に80年代ホラー・ブームを支え、ゼロ年代以降に20年近くに渡る息の長いブームを巻き起こしたサブジャンルだ。
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ゲームやコミックス、ドラマ『ウォーキング・デッド』のイメージが強いせいか、ゾンビ映画は比較的新しいジャンルだと思われがちだが、実は古い歴史がある。世界初のゾンビ映画『ホワイト・ゾンビ』(32年)は、ユニバーサルのモンスター映画『フランケンシュタイン』(31年)『魔人ドラキュラ』(31年)と同時期に誕生している。
とはいえ、初期のゾンビ映画はハイチの伝承をもとにしており、出てくるゾンビは現在の一般的なゾンビとは違っていた。彼らはヴードゥー教の呪術師に操られる生ける屍であり、サトウキビ畑などで働かされる哀れな奴隷だったのだ。命令がなければ人を襲うことはなく、不気味な見た目ほど恐ろしい存在ではなかった。初期のゾンビ映画は、ゾンビに襲われる恐怖よりも、呪術師によってゾンビにされることの恐怖を描いていたのだ。
かつてのゾンビ映画はホラー映画のメインストリームではなかったが、コンスタントに作られ続けた。50年代にSF映画が人気を得ると、SF的な要素を取り入れたゾンビ映画が誕生。マッドサイエンティストや宇宙人がゾンビを操って地球征服を企むようになった。
ゾンビ映画が大きく変わるのは、ジョージ・A・ロメロ監督のデビュー作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(68年)から。ここで初めて我々がよく知るゾンビ、つまり人肉を求めて人間を襲い、噛みついた相手を感染させて仲間にし、脳を破壊されるまで活動を続けるゾンビが登場した。この新たなゾンビのキャラクターは、続編『ゾンビ』(78年)の世界的なヒットを経てゾンビ映画のスタンダードになっていく。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は元祖モダン・ゾンビ映画であるだけでなく、サバイバル・ホラーとしても純粋に素晴らしい。一軒家を舞台に生存者とゾンビの攻防を描いたストーリーはシンプルだが、劇中の出来事や登場人物の行動は現実的に描かれている。最初に死者が蘇るという設定さえ飲み込めば、観客は生存者のサバイバルを身近なものとして共有できるのだ。
さらに本作は典型的なモンスター映画のルールに従うと見せつつ、そのルールを壊していく。若いカップルの恋愛感情、母親が娘に向ける献身は悲惨な結果を招く。主人公が発揮するリーダーシップは、仲間を引っ張るどころか無用な対立を引き起こす。救助に現れた民兵にいたっては、生存者をゾンビと見誤って撃ち殺す始末である。観客を安心させてくれるような予定調和はない。
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』は無名の新人監督による製作費11万ドルの低予算映画ながら、本国ではドライブイン・シアターを中心にヒットし、『ヴァラエティ』誌の年間興収ランキング上位に食い込んだ。海外ではヨーロッパを中心に多くの国で公開されており、特にスペインとフランスでは1年半ものロングランを記録した。69年にヨーロッパで公開されたアメリカ映画のうち、最も稼いだのが本作だといわれている。(文:伊東美和/ライター)
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