『WIN WIN/ウィン・ウィン ダメ男とダメ少年の最高の日々』
WIN WIN。ビジネスの場などで、自分にも相手にもメリットのある状態を指す時に使う、あの表現を冠した本作には、“ダメ男とダメ少年の最高の日々”という副題が付く。ニュージャージーの小さな町で弁護士事務所を開いているマイク。映画やドラマの主人公のように派手な活躍をする機会もなく、事務所の配管の不具合を心配したり、妻と2人の子どもたちの生活費のために怪しげなサイドビジネスにまで手を出す。そんなダメ男の前に現れたダメ少年がカイルだ。金目当てでマイクが後見人を務める老人・レオの孫で、ドラッグ中毒でリハビリ施設入りした母親に愛想を尽かし、会ったこともない祖父のもとへ家出してきた。
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祖父は介護施設暮らしで身寄りのないカイルを居候させたマイクは、自身がコーチをつとめる地元高校のレスリング部の練習に参加させる。すると、カイルが素晴らしい才能を持つレスラーであることが判明する。カイルの才能を伸ばすことで、自らのコーチとしての評価も上がる。両者両得のWIN WINな状況が訪れるが、順風満帆な日々は長くは続かなかった。
どこにでもいる小市民といった主人公を演じるのは『サイドウェイ』のポール・ジアマッティ。善良だが、切羽詰まった状況で苦しまぎれに取った行動から窮地に追い込まれる男の弱さを好演する。認知症で判断力の低下した老人や身寄りのない少年を利用しながら、自分の行為は相手のためになっている、つまりWIN WINなのだと考えることで罪の意識をごまかす。そのせこい狡さが何とも悲しい。小太りで額の後退した愛嬌ある容姿と相まって、何とも言えないリアリズムを醸し出す。カイル役のアレックス・シェイファーは実際に才能ある10代のレスラーで、演技はほぼ未経験。だが、これが映画デビュー作とは思えない自然な演技で、心に傷を持つ少年を見事に演じている。マイクの妻、親友、同僚、そして息子を追って来たカイルの母親、祖父、と主役2人を囲む人々のキャラクターにも魅力的な個性があり、平穏な日常から生まれる人間ドラマを豊かに盛り上げる。
誤った選択が導き出した結果と向き合い、その責任をしっかりと背負う。スポーツの世界を描きながら、勝利するだけがすべてなのかという疑問を投げかける。監督は、孤独な老教授と不法移民のカップルの交流を描いた秀作『扉をたたく人』のトーマス・マッカーシー。本作も、ユーモアを忘れない語り口のなかに、現代社会に対する深い考察が秘められている。
『WIN WIN/ウィン・ウィン ダメ男とダメ少年の最高の日々』は8月18日よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開される。(文:冨永由紀/映画ライター)
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