笑った後に残酷さを思い知る、GUCCI創業者一族の崩壊を描いたレディー・ガガ主演作
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リドリー・スコット監督とスターたちの熱量が凄まじい
【週末シネマ】昨秋『最後の決闘裁判』が公開されたばかりのリドリー・スコット監督が早くも新作を完成させた。高級ブランド「GUCCI」の創業者一族を襲った殺人事件と、そこに至るまでを描く『ハウス・オブ・グッチ』だ。
サラ・ゲイ・フォーデンの同名ノンフィクションを原作に、大物監督がオスカー受賞者のスターを集めて本気で作った絢爛豪華な通俗ドラマの熱量は凄まじい。
・レディー・ガガ、『ハウス・オブ・グッチ』でゴールデングローブ賞主演女優賞ノミネート!
まず登場するのは、カフェのテラスで朝のコーヒーを楽しむグッチ一族の3代目、マウリツィオ・グッチだ。彼は1995年、既に破局していた妻パトリツィアの策略によって暗殺される。
マウリツィオを演じるのは、『最後の決闘裁判』に続いてスコット監督作に出演するアダム・ドライヴァー。カップを持つ仕草ひとつ取っても優雅で、それだけで育ちの良さが伝わってくる。
何不自由なく育った者の余裕が滲み出る彼が若き日に出会ったパトリツィアを演じるのはレディー・ガガだ。
1970年代のミラノで父親の運送会社を手伝うパトリツィアは、機転の効く働き者だ。溌剌とした愛嬌はイタリア映画の大スター、ソフィア・ローレンのようだ。魅力的に役を生きる姿に、アカデミー主演女優賞に輝いた『アリー/スター誕生』からのさらなる進化を感じる。
パトリツィアは、友人に誘われて出かけたパーティで偶然マウリツィオと出会う。見た目の第一印象で気になった者同士のはずが、相手の名前を知った途端に一方の表情が微妙に変化する。パトリツィアはマウリツィオがグッチ一族の御曹司だから、積極的にアプローチしたのか、それとも純粋に男性としての彼に惹かれたのか。どちらとも言い切れないし、どちらとも取れる曖昧さが、この物語に相応しい。
名優たちの悪ノリ気味の怪演にドラマの悲劇性が増す
昨年、創業100年を迎えた「GUCCI」は、70年代には創業者グッチオの次男アルド(アル・パチーノ)が実質上のトップに君臨していた。アルドの弟でマウリツィオの父ロドルフォ(ジェレミー・アイアンズ)は教養ない庶民のパトリツィアを軽蔑し、財産目当てと決めつけて敵視するが、身分違いの恋に盛り上がった2人は反対を押し切って結婚。活気あふれるパトリツィアが伯父となったアルドに気に入られたことから、家業を継ぐべく夫妻でグッチ家に戻る。
子宝にも恵まれて順風満帆に見えた夫妻だが、パトリツィアがブランドの興隆に勤しむようになるにつれ、次第にマウリツィオの気持ちが離れていく。埋めがたい価値観の差が露になり、勤勉な野心家だったヒロインの心には闇が広がり、そこにアルドと息子パオロ(ジャレッド・レト)の愛憎劇、一族内での権力争いが絡む。
騙し騙される裏切りのドラマには恐ろしさと滑稽さが入り混じる。特に、日本での事業拡大を目論んで怪しげな日本語スピーチを披露するアルドを演じるパチーノと、奇抜を狙うも絶望的にファッション・センスのないパオロを演じるレトは、悪ノリ気味の怪演だ。彼らが繰り広げる父と息子の物語は大仰なパロディ演技ゆえに、笑いを誘うと同時に悲劇性が増す。
悪趣味なサルマ・ハエックの配役、トム・フォードの映画評に同意
『ゲティ家の身代金』(17年)に続いて、実在の富裕一族が遭遇する衝撃の事件を描いたスコット監督だが、各キャラクターを豊かにふくらませながら、実は誰の味方でもないというスタンスは本作でも変わらない。
一族で足を引っ張り合ううちにグッチ一族は自滅し、苗字を冠したブランドはマウリツィオが存命中に他人の所有となった。現在「GUCCI」はバレンシアガやサンローランを有する「ケリング」の傘下にある。代表者のフランソワ・アンリ・ピノー夫人のサルマ・ハエックが、マウリツィオ殺害にも手を貸したパトリツィアのお気に入り占い師役というキャスティングには、人が悪い……と思いながらニヤっとしてしまった。
1994年から「GUCCI」のクリエイティブ・ディレクターを務め、映画にもそのキャラクターがチラリと登場するデザイナーで映画監督でもあるトム・フォードは同作を見て、「しばしば声を上げて笑ったが、それで良かったのか?」と映画評で綴った。渦中にいた彼は「笑えることなど何もなかった」と過去を振り返っている。当事者たちは真剣な悲劇を生き、外から見る者はそれをコメディとして笑う。2時間半余、狂騒に乗せられて大いに楽しんだが、最後はフォードの言葉通りの感情が浮かび、人間の無意識の残酷さを思い知らされた。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ハウス・オブ・グッチ』は、2022年1月14日より全国公開。
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