『莫逆家族 バクギャクファミーリア』
田中宏原作の人気コミックを映画化した『漠逆家族 バクギャクファミーリア』。30歳を越え、漫然と生活を送る元暴走族が、仲間に起きたある事件をきっかけに再び集い、仲間との絆のために、そして自分自身のために奮起して暴走していくさまを描いている。
原作はもともと映画化を念頭に描かれたらしく、原作者の地元であり原作者のほとんどの作品の舞台となっている広島ではなく、映画撮影に比較的協力が得やすいと思えるためわざわざ関東を舞台にしたのだとか。
関東一の暴走族の元トップで、今は日々の生活に埋没しているが、内に秘めたる暴力性と荒ぶる魂を持った主人公・火野鉄を演じるのは、お笑い芸人チュートリアルの徳井義実だ。ん? 徳井義実が不良? リーダー? 関東?……どれも彼のイメージにはなく、一抹の不安が。確かにコントで不良キャラもやってはいるが、逆にコントじみて見えはしないか。しかも、共演は、阿部サダヲ、玉山鉄二、新井浩文、井浦新、大森南朋、北村一輝、村上淳、林遣都などなど。さらにBLANKEY JET CITYの中村達也に倍賞美津子と、映画ファンを唸らせるそうそうたるメンバー。この豪華すぎるメンツを押さえて徳井が主演を張れるのか、と不安が追い打ちをかける。
しかし、序盤の主人公は反抗期の息子からもなめられているただのウダツの上がらない男であったこともあり、違和感なくスクリーンに溶け込み、スムーズに物語に入っていくことができた。徳井の関東弁がどうしても気になったが、それも中盤からは意識しなくなり、コントじみて見えることもまったくなかった。原作のほうがコミカルで、この映画版のほうがよっぽどシリアスに映るほどだ。
そもそも徳井だけでなく、このそうそうたるキャストがリーゼントに特攻服で暴走族を演じるのだから、誰もがコントに見える危険性はある。阿部サダヲのそれだって彼のイメージにはないわけで、そこだけ切り取って見ると十分、滑稽に見える。しかし、まったく笑う気にはならなかった。それだけ、こちらは劇中での彼らの生き様に入り込み、徳井だ、阿部だと思うことなく捉えることができるのだ。さまざまな作品でどんな役を演じていてもなぜか笑えてしまう北村一輝でさえ、鉄が尊敬する総長を力演し、カリスマ性あるオーラさえ感じられてカッコよく見えた。逆に、どの登場人物も不良時代は多少、滑稽で不様に見えるが、誰でも10代のとんがっていた時代は懐かしみと可笑しみを持って見えるというもので、それは役柄にリアリティがあるからこそだ。
バイオレンス描写もリアルで極めていてハンパない。チャラチャラしたアクションではなく、重みと血なまぐささと狂気さえはらんでいる。私自身、不良や暴走族とは無縁で、他者との問題や内包するストレスを暴力によって解決すればいいという方程式は頭にない人間だ。しかし、彼らの暴力性、とくに鉄が後半に見せる、封印を解き放って暴走してゆく姿には胸打たれるものがある。
監督は『鬼畜大宴会』で衝撃的デビューを果たし、『海炭市叙景』など社会の片隅で生きる人間を温かく、ときに冷静に真摯なまなざしを向けて描く熊切和嘉。この血の通ったリアリティは、バイオレンスにも人間描写にも長けた熊切監督だからこそ成し得たのだろう。
たとえ不良でなくても、それが自分の道と信じて突っ走ってしまう時期は誰にでもあるもの。そして本作で描かれているのは、さらに生々しいその後だ。突っ走ったあとに訪れる30代40代は、理不尽に感じたり、意志に矛盾すると感じたりしても、社会のなかで自分自身をだましだまし日々の生活を送っていく。そこでふと立ち止まり、これでいいのかともう一度自分に問いかける姿は、元暴走族である鉄の特有のものでなく、普遍的に誰にも共通するものだ。しかも、この作品がさらにリアリティもって心を揺さぶるのは、それでもやはり自分の道を貫こうとする鉄が、暴走した達成感ですがすがしく終われるわけではないところだ。貫いたところでそれが正しい道ではなく、何かを達成できるものではないことを鉄自身も悟っている。その達観の境地が終盤の徳井からは感じられ、精悍さはなく内面の暗さのにじみ出た彼がキャスティングされたことに大いに納得できた。
冒頭からときおりフラッシュバックされる、郷愁と切なさを象徴させたいかにもな遊園地の観覧車シーンにも鼻白むことはなく、素直に胸締めつけられる。自分とは無縁の元暴走族のオジサンに熱い涙がこみ上げてきて止まらなかった。(文:入江奈々/ライター)
『莫逆家族 バクギャクファミーリア』は9月8日より新宿バルト9ほかにて全国公開される。
【関連記事】
・徳井義実、オッパイが膨らんできた!? 林遣都と共に沖縄映画祭で舞台挨拶
・[動画]『莫逆家族 バクギャクファミーリア』予告編
・熊切和嘉監督が『海炭市叙景』函館試写会で舞台挨拶
・『莫逆家族 バクギャクファミーリア』作品紹介
PICKUP
MOVIE
INTERVIEW
PRESENT
-
ダイアン・キートン主演『アーサーズ・ウイスキー』一般試写会に10組20名様をご招待!
応募締め切り: 2025.01.04 -
齊藤工のサイン入りチェキを1名様にプレゼント!/『大きな家』
応募締め切り: 2024.12.27