『ロック・オブ・エイジズ』
トム・クルーズのロックスター姿は本当にかっこいいのか? 『シカゴ』での歌とダンスが圧巻だったキャサリン姉さんは相変わらずかっこいいのか? 80年代のロックに特別な思い入れがない筆者にとって、80年代のロック満載のミュージカル映画『ロック・オブ・エイジズ』に対する興味はその2点だった。
・トム・クルーズ、ミュージカル映画初挑戦で80年代のロックスターに!
トムが演じるのは、堕落したロックの帝王で、女性たちを失神させるほどセクシーフェロモン全開のステイシー・ジャックス。正統派大スターがなんとあんな部位から登場し(※スクリーンでご確認ください)、乳首をぎりぎり囲んだデザインのタトゥーまで入れている! セクシーというより変態、いや、なかなか笑えます。しかし、歌はすごい! 徹底的にボイストレーニングをしたそうだが、ライブシーンでの熱唱は本作の最大の見せ場だろう。そんな髪振り乱してシャウトするロックンロールなトムを見て、いくら退廃的な格好をしていても眼差しは真摯だし、歯は真っ白だし、やっぱり“かっこいいトム・クルーズ”だなぁ、と妙に感動した。なにを演じてもその役に見えて、それでいてトムにしか見えない、そういうスターは稀有だから。
一方、キャサリン姉さんはといえば、青少年の健全な育成のためにロックを排除しようと婦人運動を扇動する新市長夫人パトリシア役。風紀の乱れを嘆くあまり、教会内で「セックス、セックス」と雄叫びをあげながら踊る姿が勇ましい! 美人でパワフル、それでいてコミカル、というキャサリンの魅力が存分に発揮されている。
さらにもう1人、ハリウッドのスターが登場している。アレック・ボールドウィンだ。90年代には「ボールドウィン4兄弟」として騒がれたものだが、いまやすっかり太ったおっさんになって、ライブハウスのオーナー・デニス役に扮している。意外な愛の歌まで歌い出す苦労人のデニスを好演していて、やはり容姿は変わり果ててもスターだなぁ、としみじみ懐かしかった。
これまで3人のスターについて語ってきたが、実は彼らは脇役であるというのがこの映画のすごいところだ。主人公は、スターを夢見る女の子シェリー(ジュリアン・ハフ)とロックシンガーを目指す青年ドリュー(ディエゴ・ボネータ)という若いカップルなのだ。瞳を輝かせながらひたむきに歌い踊り、恋の行き違いに苦悩する姿は、80年代の青春映画、例えば『フラッシュダンス』や『ダーディダンシング』などの甘酸っぱさを思い起こさせる。しかし、主役の2人も魅力的でがんばっていて素晴らしいのだが、あれだけ個性的なベテランが揃っては、存在感が薄くなってしまうのは仕方がないのかも。そのバランスの悪さゆえ、若い2人の物語の印象が弱くなってしまった。でも、おかげでベテランスターたちのパフォーマンスを楽しめたのだし、映画ファンとしては見て損はない、とても楽しめる1本だと思う。(文:秋山恵子/ライター)
『ロック・オブ・エイジズ』は9月21日より全国公開される。
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