『みんなで一緒に暮らしたら』
オスカー女優のジェーン・フォンダが40年ぶりのフランス映画出演を果たした『みんなで一緒に暮らしたら』は、社会の高齢化が進むなか、新しいコミュニティのあり方を提示する作品だ。老人ホームにお世話になるのを嫌って、数十年来の友人である男女5人がひとつ屋根の下で暮らし始める。
夫・アルベール(ピエール・リシャール)が記憶を失いつつある不安定な状態という元哲学教師のジャンヌ(ジェーン・フォンダ)は病のため死期が迫っているが、その事実は自分の胸の内にしまっている。もう一組の夫婦は、歳のせいで長年心血を注いできた社会運動への参加を拒まれるジャン(ギイ・ブドス)と、孫に夢中の心理学者の妻・アニー(ジェラルディン・チャップリン)。そこに独身生活を謳歌するクロードが加わった5人は、折りにふれてパリ郊外のアニー夫妻の家に集ってきた。同じ仲間と40年間付き合い続けてきた彼らは共に歳を取ることで、逆に老いに対して鈍感になっている部分もある。いつまでも、気持ちは知り合った頃の30代のまま。個々に衰えは薄々感じながらも、どこか身に染みていないようだ。
そんなある日、若い女性とデート中にクロードが心臓発作で倒れ、75歳の老父の一人暮らしを心配した息子は彼を老人ホームに入居させる。面会に来た仲間たちは活気をなくしたクロードの姿に大ショックを受け、なんと彼をホームから連れ出す。そして、以前にジャンがふと口にした「みんなで一緒に暮らしたら」という言葉が突如現実のものとなるのだ。
ただでさえ個人主義が徹底しているフランス人が、それも70代を迎えてから共同生活をするとなると、互いに譲らずぶつかり合いも激しそうだが、そこは「ルールを決めない自由主義」という、まさにフランス的な解決を見る。男女の友情と恋愛が絡まった糸のように介在するのも、やっぱりフランス的。我々は、アルベールの飼い犬の散歩係兼共同生活のお世話係をつとめるドイツ人留学生のように目を丸くしながら、自由という理想を追い続ける彼らを見守ることになる。自らの最期と向き合うジャンヌの率直さ、老いの残酷さも織り込みつつ、ユーモアを忘れない語り口だ。
面白いのは、いろいろな努力の賜物で年齢不詳の外見のフォンダと、痩せて皺だらけのチャップリンが並んでも不自然さがないところ。42歳のステファン・ロブラン監督は“老い”というテーマに真摯に取り組み、ありがちな描写を注意深く避ける。文明社会の発達により、人間はおしなべて長生きになったが、それでは歳を重ねれば重ねるほど、枯れて仙人のように達観するのかといえば、誰もがそうとはいかない。見た目は老いていても、心のなかはみずみずしい。監督は、そんな人間の内と外の落差を愛すべき姿としてとらえている。シニカルにならない、その視点が魅力的だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『みんなで一緒に暮らしたら』は11月3日よりシネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開される。
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