『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』
映画誕生から100年余。フィルムで撮影し、保存される“映画”という概念は、デジタルシネマの台頭によって変化しつつある。デジタル上映が主流になり、フィルム上映設備しかない映画館存続の危機も語られるなか、ドキュメンタリー『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』は、キアヌ・リーヴスがハリウッドの錚々たる映画人たちにインタビューし、過渡期にある映画の現在と未来を探っていく。
・[動画]『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』予告編
マーティン・スコセッシ、ジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロンといった巨匠、デヴィッド・フィンチャーやスティーヴン・ソダーバーグ、『マトリックス』で組んだラナ&アンディ・ウォシャウスキー、『スキャナー・ダークリー』のリチャード・リンクレイターらの自身と同世代の監督たち、我が道を行くデヴィッド・リンチやラース・フォン・トリアー、『インセプション』『ダークナイト ライジング』で飛ぶ鳥を落とす勢いのクリストファー・ノーランも登場し、それぞれの見解やこだわりを語る。
監督はキアヌが製作も兼ねた主演作『フェイク・クライム』のポストプロダクション監修を務めたクリス・ケニーリー。彼1人では恐らくたどり着けなかったであろう大物たちが、いわば“キアヌ・パワー”で集結した。多くの名匠、巨匠と組んだヴィットリオ・ストラーロ、ミヒャエル・バルハウス、ヴィルモス・ジグモンド、家庭用ビデオカメラの斬新な映像で90年代半ばに新風を吹き込んだアンソニー・ドッド・マントル、クリストファー・ノーラン監督作で知られるウォーリー・フィスター……コメントする撮影監督たちの顔ぶれも豪華だ。さらに編集やカラー調整、VFXのスタッフ、日進月歩で性能を高める機材メーカーなど、最高級の映画関係者たちによる話はどれも興味深い。キャリアが長ければ守旧派、若い映画人ならば新しい技術のみを信じるというほど単純ではなく、意外な人の意外な主張に驚かされる。
映画俳優としてはヴェテランの域にいるキアヌだが、映画作りの舞台裏に詳しくない一般客と同じ視点に立ち、エキスパートたちに素朴な質問を投げかける。その結果、フィルムかデジタルかという問題のみならず、映画が作られていく工程を垣間見る作品にもなった。自作品のプロモーションとは無縁ゆえの忌憚のない発言、自由な本音が聞ける貴重な機会でもある。一方、本作の作り手側はニュートラルな立場を貫き、フィルム派、デジタル派のどちらかに偏らず、並列させ、まさにサイド・バイ・サイド(並ぶ、共存)のタイトルを地で行くスタイルだ。
素のキアヌを見るという邪道の楽しみ方も、もちろんありだ。幼い男の子に『マトリックス』の一場面について質問され、丁寧に答えてあげた後に一緒に笑い合うところなど、ファンではなくても萌えポイントになりそうな一場面。そういう点もちゃんと心得た構成にニヤリとさせられた。(文:冨永由紀/映画ライター)
『サイド・バイ・サイド:フィルムからデジタルシネマへ』は12月22日より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開。
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