『テッド』
なんとまあ、お行儀の悪い。おなかを押すと「だいちゅき(I Love You)」と愛らしくさえずる声はそのままなのに、その瞬間以外は完全にオヤジ。モコモコしたテディベアが口を開けば下ネタ連発の毒舌、ビールもマリファナも女の子も大好物の中年という設定だけでも、『テッド』は無敵だ。
孤独な少年の無二の親友だが、かわいい見かけと裏腹にとんでもない本性を隠し持つ、といえば、80年代にヒットしたホラー・シリーズ『チャイルド・プレイ』のチャッキーという悪夢のような先達がいるが、テッドはその点においては至って無害。友だちのいない少年・ジョンの相棒として27年間、共に暮らし、成長し、中年になったのだ。だが、居間のソファで1日中ダラダラ過ごし、仕事に出かけようとするジョンに「休んじゃえば」と悪魔のささやきをしたり、結婚を考えているガールフレンドの存在に嫉妬したり、という腐れ縁を絵に描いたような状況は、やはり考えもの。初めてテッドとジョンは別々の生活を始めるが……。
当たり前のようにぬいぐるみが喋り、街を歩き、車を運転している日常の描写にもびっくりさせられるが、実は“生きたテディベア”として一世を風靡した元セレブといううら悲しい背景もあったりする。その辺りのエピソードはさらっと流す感じに見せつつ、随所に80年代の小ネタをちりばめ、彼らの絆を象徴する映画『フラッシュ・ゴードン』とその主演俳優が大活躍するなど、大技小技を決めてくる演出は、ジョンと同世代の観客にはたまらないだろう。趣味に没頭すると、いくつになっても中坊ノリ。パーティではついついハメを外してしまう。なりはクマだが、『テッド』の世界は、ヴィンス・ヴォーンやオーウェン・ウィルソンといったアラフォー(死語?)男優たちが少し前に流行らせたブロマンス風味のバディ・フィルムそのものだ。そこに思いもよらぬ感動をも盛り込んでくる欲張りなコメディ。R15+指定は、まあしかたない。こういう友情、愛もあるのだ、ということは大人にならなければわからないだろうし、大人になるまで知らなくてもいいことだ。
ジョンを演じるマーク・ウォルバーグの醸し出す普通っぽさが絶妙。流されやすくて小心者だけど、いいヤツ。自分の膝くらいしか身長のないぬいぐるみと本気で格闘するような“大人こども”の雰囲気がよく出ている。テッドの声は本作の監督・脚本をつとめたセス・マクファーレンが担当し、これ以上ない的確さで、今までいそうでいなかった罰当たりなテディベアを大暴れさせる。大暴れといえば、息子と2人でテッドのストーカーになる中年男を演じたジョヴァンニ・リビシの怪演も忘れがたい。あのテッドでさえ引き気味の破壊力なのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『テッド』は1月18日よりTOHOシネマズ スカラ座ほかにて全国公開される。
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