『アウトロー』
アウトローでもあるが、むしろ同じトム・クルーズが『トップガン』で演じたマーヴェリック(一匹狼)という呼称がしっくりくる。それが本作の主人公、ジャック・リーチャーから受ける印象だ。とはいえ、どこにも属さず、誰ともつるまず、正義のために手段を選ばない流れ者というキャラクターは、確かにアウトロー(無法者)とも呼びたくなる。
・[動画]『アウトロー』トム・クルーズ決死のカースタント映像
ピッツバーグ近郊の街で、白昼に無辜(むこ)の市民を次々に狙った狙撃事件が発生、5人の男女が殺される。現場に残された数多くの証拠から、すぐにイラク帰りの元米軍スナイパーが逮捕されるが、黙秘する男は「ジャック・リーチャーを呼べ」というメモを差し出す。元陸軍の秘密捜査官で2年前に除隊して以来、消息不明の人物とどう接触を図るのか? 途方に暮れる地方検事と刑事の前に、颯爽と現れるのは誰あろう、リーチャーその人だ。
このうえなくドラマティックに登場をし、事件に絡むヤバそうな男たちを1人でバタバタ何人でも倒し、銃乱射事件の背後に隠された完全犯罪に迫る。暴行を受けて昏睡状態になった容疑者の弁護士で正義感あふれるブロンド美女との恋あり、命がけのカーチェイスあり。娘ほどの年頃の不良少女も、才色兼備の女性弁護士も等しく彼にメロメロ。でもリーチャーはあくまでもクールを貫く。本当に「映画の中だけ」のようなシチュエーションを衒(てら)いなく堂々と、しかも笑いに逃げずにやってみせる。結果、笑われるかもしれないことは気にしない。この辺り、トム・クルーズは本当にブレない。
これではまるでバカ映画みたいだが、原作はシリーズ17冊に及ぶ大ベストセラーだ。証拠の揃い過ぎた事件の裏に隠れる完全犯罪を暴いていくサスペンスは、『ユージュアル・サスペクツ』の脚本家としても知られるクリストファー・マッカリー監督によって鮮やかに映像化されている。来日時の記者会見で、本作を語るのに黒澤明の『用心棒』を引き合いに出したクルーズとマッカリーを結ぶのは映画愛。悪役にドイツの名匠、ヴェルナー・ヘルツォークを起用するセンスも憎い。ほぼ同世代、そして映画作りにおいて妥協知らずで疲れ知らず。そんな共通項もある2人が好きなものに全力で打ち込めば、間違いはない。
体を張ったアクションも常に自分でこなすクルーズが、今回特にいきいきしているのは、実写にこだわったカースタントだからだろう。20年以上前になるが、『カラー・オブ・マネー』で共演したポール・ニューマンに影響されて、ニューマンのレースチームに参加したという逸話を思い出した。撮影中に起きたエンストのアクシデントをそのまま活かしたシーンはまさに迫真のスリルに満ちている。スターと速い車とサスペンス、そしてほんの少しのラブ。クルーズとマッカリー、彼らが少年時代に憧れたであろう映画の醍醐味を、21世紀に蘇らせた。そんな趣のハードボイルドアクションだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『アウトロー』は2月1日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開される。
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