複層的メタファーに秘められた映画愛を読み解く…イラン映画『白い牛のバラッド』監督インタビュー

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白い牛のバラッド
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『白い牛のバラッド』ベタシュ監督とマリヤム監督が語る

愛する夫が冤罪で死刑を受け、ろうあの娘と暮らすシングルマザーを描いた、第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞ノミネート作品『白い牛のバラッド』が、2月18日より公開中だ。公開を祝して、イランのベタシュ・サナイハ監督とマリヤム・モガッダム監督から動画メッセージが到着した。

ベタシュ監督は、「本作品が日本公開されることを大変うれしく思います。日本は歴史的にも多くの名作を生み出し、私たちも世界中の制作者も影響を受けた国です」と話す。

続けてマリヤム監督は、「それに日本の観客の皆さんとは深い繋がりを感じます。それは私たちに共通する詞的な東洋文化から来るものでしょう。本作品を気に入ってくれることを心から願いますし、この物語を皆さんと共有できて光栄です」と喜びを語った。

2人は、最後に日本語で「ありがとう」と笑顔で締めくくった。

・この度公開された本編映像はコチラ!

 

監督が吟味する、映像芸術の創造原理

2人は製作秘話について語った。

ベタシュとの共同監督についてマリヤムは、「私たちはずっと個々ではなくチームとして協力し、基本的なアイデアから完成に至るまで一歩一歩進んできました。撮影が始まる前の決定はすべて一緒に行います。それによって、ほとんど直感的な信頼が生まれるのです。撮影中、私がカメラの前にいてベタシュがカメラの後ろにいるときは、彼の選択を完全に信頼できました」と語る。

また、監督たちが影響を受けた作品については、「これは難しい質問でも簡単な質問でもありますね。もちろん、私たちが映画を愛する理由である、多くの巨匠たちや名作から影響を受けていますし、彼らは私たちが映画を作り始めるモチベーションとなりまし た。イングマール・ベルイマン、アンドレイ・タルコフスキー、スタンリー・キューブリック、アッバ ス・キアロスタミ、黒澤明、イタリアのネオレアリズモ、フランスのヌーベルバーグの巨匠監督たちです。選ぶことは難しく、1、2本の映画を挙げることはとてもできません」と映画愛を語った。

タイトル『白い牛のバラッド』にある「白い牛」は、イスラム教の聖典コーランに記された古代の寓話に由来している。

マリヤムはタイトルの意味と同時に、イスラム法やイランの刑罰について説明してくれた。

「イランの生活には近代的な側面がありますが、法律はイスラム法(シャリーア)に基づいています。宗教的な儀式における牛は、通常、生け贄とされています。本作品における白い牛は、死を宣告された無実の人間のメタファーです。コーランの一章である『雌牛』は、『キサース』に関連しています。キサースとは『目には目を』という格言のとおり、同害報復刑を意味するシャリーア用語です。被害者の命や体の部位にまで金銭的価値がつけられ、加害者は何らかの形で賠償させられるのです」

これを受けてベタシュは、「このメタファーはタイトルの由来というだけではありません。例えば、ミナが見る牛の夢やミルクなど、脚本の中で繰り返し出てくるテーマです。ペルシャの文化や文学、特に詩においては、メタファーやダブルミーニングは非常に強い存在感を持っているので、自分たちの映画にもそういった複層的な解釈を取り入れるようにしています」と補足する。

白い牛のバラッド

そうした複層的な構造は、映像からも読み取れる。複数のカットが緻密にフレーミングされ、窓・ドア・階段など、建築的な要素が演出に取り入れられている。

ベタシュはこうした映像芸術的手法について、解説を加えた。

「映画の雰囲気を作るために、主として建築の要素を用いることはよくあります。また、テーマを引き出す形で意味を持たせるためにも建築を用います。例えば、ドアや窓は本作品で繰り返し用いられるモチーフです。廊下や階段、ドアや窓の開閉は、観客に自由や解放について考えさせるものです。私たちは無駄なカメラの動きや複雑な構図を避け、シンプルでミニマムな作品を目指しています。クローズアップとロングショットの両方を用いることで、キャラクターはドラマの状況に応じてカメラに近づいたり離れたりすることができます。このようなパターンにおいては、構成と調和が二重の意味を持ちます。こういった趣味は、私たちの芸術、特に絵画への愛から生じるものです」

数々の社会問題を盛り込んだ冤罪サスペンス

本作品は、テヘランの牛乳工場に勤め、夫のババクを殺人罪で死刑に処されたシングルマザーのミナの物語。

刑の執行から1年が経とうとする今なお深い喪失感に囚われているミナは、ろうあの娘ビタの存在を心の拠り所にしていた。ある日、裁判所に呼び出されたミナは、別の人物が真犯人だと知らされる。ミナはショックのあまり泣き崩れ、理不尽な現実を受け入れられず、謝罪を求めて繰り返し裁判所に足を運ぶが、夫に死刑を宣告した担当判事に会うことさえ叶わなかった。するとミナのもとに夫の友人を名乗る中年男性レザが訪ねてくる。ミナは親切な彼に心を開いていくが、ふたりを結びつける“ある秘密”には気づいていなかった……。

『白い牛のバラッド』は、2月18日より公開中。