“北欧の至宝”+“愛と欲望の王宮”という魅惑的なフレーズに心惹かれたデンマーク映画『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』を見た。18世紀後半に起きたデンマーク王室のスキャンダルをもとに、精神を病んだ若き国王クリスチャン7世とイギリス王室から嫁いだ王妃カロリーネ、国王の侍医ストルーエンセの三角関係を描いたドラマだ。
三角関係といっても、王妃を奪い合うわけではない。国王でありながら側近に軽くあしらわれている哀れなクリスチャンは知的な王妃をお気に召さず、侍医を慕っている。孤独な王妃もまた侍医の知性に惹かれていく。というわけで、2人に愛されるのはストルーエンセなのだ。彼は王室内で権力を持ち始めるにつれて野心を抱くが……。そんな“愛と欲望の王宮”の中心人物を奥深い色香を漂わせながら演じているのが、“北欧の至宝”ことマッツ・ミケルセン、47歳である。
コペンハーゲン生まれのマッツはデンマークの人気スターで、『007/カジノ・ロワイヤル』(06年)などでハリウッドにも進出、2012年に『偽りなき者』でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞するなど演技力はお墨付き。しかし、なんといっても彼の魅力は熟した男の色気だろう。『シャネル&ストラヴィンスキー』(09年)で音楽家ストラヴィンスキーを演じたマッツの官能性がシャネル役のアナ・ムグラリスよりも強く記憶に残っているので、彼のセクシーさはどこからくるのか本作を見ながら考えてみた。
その鍵は2つ、ひとつは“はらり前髪”だ。ストルーエンセは町医者出身の侍医という設定なので王室メンバーのようなカツラではないが、フォーマルな場面では髪をぴっちりまとめている。『シャネル&〜』のストラヴィンスキー役のときもピタッとなでつけていた。それが、髪の乱れは心の乱れなのか、感情が高まるにつれて前髪が乱れてくる。高い鼻と薄めの唇が与える知的で冷たい印象の顔に、はらりと落ちる長めの前髪。これが、“こんな知的な人でも乱れるのね〜”といったギャップを与えている。また、ギャップといえば、ときおり老いが感じられる口元に対して、笑うと子どもっぽくなる目がかわいい。
もうひとつの鍵は、脱いだらすごい、マッチョなボディだ。青年時代は体操選手、その後はダンサーをしていたという経歴にも納得の、鍛え抜かれたボディ。侍医とか音楽家とか知的で悩んでいる役柄が多いのに、脱ぐと意外にも肉体派で、一瞬、驚く。そういえば、リアルタイムでスザンネ・ビア監督の『しあわせな孤独』(02年)を見たはずだが、マッツのことは、めそめそした医師だけど実はずいぶんとマッチョだな〜、という記憶しかない。当時のマッツは30代半ばか後半のはずだけれど、老いの影がちらつき始めた今の方がずっと魅力的だ。
ハリウッドでも活躍するようになり、今がまさに脂ののった旬の時期なのだろう。外見上の魅力ばかり挙げたけれど、充実したキャリアからくる自信と幸せな家庭生活が魅力の開花につながっていることはいうまでもない。きっと、少なくともあと数年は、男のセクシーさをスクリーンで全開にしてくれるだろう。(文:秋山恵子/ライター)
『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』は4月27日よりBunkamuraル・シネマ他にて全国順次公開中。
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