キッドマン&バルデムが好演、“愛すべき夫妻”を演じた俳優夫婦の波乱万丈な愛の軌跡
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国民的シットコムの人気夫妻の内幕を描く『愛すべき夫妻の秘密』
【週末シネマ】1950年代にアメリカで絶大な人気を誇り、日本でも放映されていたシットコム『アイ・ラブ・ルーシー』(1951~57年)。ニューヨークのアパートに暮らす主人公のルーシーとリッキー・リカルド夫妻を演じたのは実生活でも夫婦だったルシル・ボールとデジ・アーナズだ。『愛すべき夫妻の秘密』は、1953年のある週のエピソードを撮る数日間を中心に2人の波乱万丈の愛の軌跡を描いていく。
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明るく楽しい番組からは想像もつかない壮絶な舞台裏に生きる主人公、ルシルとデジを演じたニコール・キッドマンとハビエル・バルデムはそれぞれ第94回アカデミー賞の主演女優賞、主演男優賞にノミネートされ、『アイ・ラブ・ルーシー』のキャスト、ウィリアム・フローリーを演じたJ・K・シモンズも助演男優賞候補になっている。『ソーシャル・ネットワーク』(10年)でアカデミー脚色賞を受賞したアーロン・ソーキンが『シカゴ7裁判』(20年)に続いて監督・脚本を手がけたAmazon Primeのオリジナル作品だ。
テレビで妊娠を扱うことはタブーだった時代にルシルが妊娠
物語は『アイ・ラブ・ルーシー』の脚本家3人(プロデューサーも務めたジェス・オッペンハイマー、マデリン・ピューとボブ・キャロル)のインタビューから始まる。ドキュメンタリーのようだが、実在の3人を俳優が演じる形で、彼らの語りによって進むドラマも事実とフィクションを織り混ぜた内容になっている。
毎週決まったスケジュール通り、月曜日の本読みから観客を入れての金曜日の収録までの間にルシルは多くの問題に直面する。彼女の妊娠を“ルーシーの妊娠”として番組に取り入れるという提案(当時のTV界では妊娠を扱うことはタブー視されていた)、タブロイドが掲載したデジの浮気ゴシップ、ルシルが主導権を握る制作現場での夫妻のパワーバランスの調整、そして彼女が共産主義者であるという疑惑の払拭。
実際には長い年月の中で夫妻に起きた出来事が1週間の中に凝縮され、さらにフラッシュバックで、B級映画のスターだったルシルとキューバ出身のミュージシャンのデジとの大恋愛、彼女のキャリアの変遷、いかにして大ヒット番組『アイ・ラブ・ルーシー』が誕生したかも描かれる。
質の高いコメディを作るための緊張感あふれる制作過程には、無用の軋轢や忖度も絡んでくる。女性に向けられる当時の“常識”は偏見や差別だらけだが、夫を立てようとするルシルの姿勢も含めて、約70年前の風潮は現代にも残っている感覚だ。
キッドマンはルシルの勇敢さを表現、バルデムは見事なパフォーマンスで魅了
『アイ・ラブ・ルーシー』に親しんだ人々は快活なリカルド夫妻と実在のルシルとデジを同一視しがちでは、と思われるが、ソーキン監督はそこにはっきりと線を引く。ケイト・ブランシェットの降板から急きょ主演を務めたキッドマンは、誰からも愛された天才コメディアンの知られざる素顔を、公私ともに勇敢さを貫く女性として表現した。バルデムは誇り高いデジの力強いパフォーマンスを魅力的に演じると同時に、外国出身である疎外感や妻への微かな劣等感といった屈託も見せる。
コメディも得意なキッドマンとバルデムの資質を生かしきれなかった演出はもったいないが、これは『アイ・ラブ・ルーシー』ではなく、あくまでもその世界を作る2人の物語なのだ。原題『Being the Ricardos』が示すように、リカルド夫妻になったルシルとデジがプロに徹する芸道ものでもあり、2人の苦い物語でもあり、彼らの小さな世界が狭量な社会の姿を映す鏡にもなる多面的な作品だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『愛すべき夫妻の秘密』は、Prime Video にて配信中。
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