マシュー・グード
クラシカルな映像美で倒錯した世界を描いたスリラー映画『イノセント・ガーデン』。五感の鋭い少女インディアは18歳の誕生日に謎の鍵を贈られるが、贈り主であるはずの父が事故死する。悲しみに暮れるインディアと母エヴィの前に現れたのは、行方不明だった叔父チャーリー。不仲の母娘と叔父、3人の奇妙な共同生活が続くうちに、家政婦が消え、忠告に来た叔母も消えた。一体、彼は何者? チャーリーへの疑念がふくれあがるなか、インディアはあの鍵で禁断の箱を開けてしまう……。
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インディア役を演じているのは、『アリス・イン・ワンダーランド 』(10年)でアリスを演じていたミア・ワシコウスカ、浮世離れした母エヴィ役にはニコール・キッドマン、チャーリー役にはイギリス人俳優のマシュー・グード。3人ともお人形さんっぽい風貌で生活臭が感じられないから、残虐なシーンも絵空事のように感じられるのが救い、というか狙いだろう。
とりわけ注目したいのが、長身で小顔のイケメン俳優マシュー・グードだ。ウディ・アレン監督の『マッチポイント』(05年)で大富豪の息子を爽やかなに演じて注目されたように、お坊ちゃまっぽい雰囲気が魅力で、『シングルメン』(09)では主演のコリン・ファースの同性愛の恋人役を演じて評価を高めた。そんな誰もが「かっこいい」と認める好青年のマシューが、薄気味悪い叔父になりきっているのだから衝撃的だ。何を考えているのかわからない笑みを浮かべながらインディアに近づいたり、母エヴィをさりげなく誘惑して娘に見せつけたりと、スマートなふるまいのなかに異常性が滲み出ていて恐ろしい。かっこいいだけじゃない、静かな狂気も演じられる俳優なのだった。
ただ、納得いかないのは、母も娘もそろってチャーリーに性的に惹かれていくという点だ。2人ともチャーリーは異様だと気付いていながら、近づかれるだけで息を荒くしている。チャーリーがイケメンだから? 普通は身の危険を感じて逃げるだろうに、この母娘は欲求不満なのかマゾなのか……。マシューが男の色気ムンムンのセクシー俳優ならそれも納得もできるが、マシューはそういうタイプに見えない。“女は相手がイケメンでさえあれば、実は変人だろうとなんだろうとOK”ってこと?
パク・チャヌク監督は豪邸や庭や衣装のセットも美しくこだわり抜いているのに、女心の機微を描くあたりはけっこう雑だなあ、というのが正直なところだ。その点を除けば、チャヌク監督は脚本をきっと元の面白さ以上に見事に映像化したと思う。特にラストシーンはスゴイので、一見の価値はある。
それにしてもマシュー・グード。この映画での怪演でしばらく気味悪い印象が残ってしまいそうなので、口直しに見た目の麗しさを堪能できるようなラブストーリーやラブコメに主演でもしてもらえないだろうか。(文:秋山恵子/ライター)
『イノセント・ガーデン』は5月31日よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開中。
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