『華麗なるギャツビー』
レオナルド・ディカプリオが一番輝いていたのは『ロミオ+ジュリエット』だと思っている。無軌道な恋に生きて死ぬロミオを演じてから17年経ち、再びバズ・ラーマン監督と組むのに『華麗なるギャツビー』ほどふさわしい作品はないだろう。
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第一次世界大戦後の1920年代、大恐慌の前の享楽的なから騒ぎの一時期に現れたミステリアスな大富豪の物語だ。ロング・アイランドの大邸宅で夜な夜なパーティが繰り広げられる。ジャズ・バンド、ダンサー、そのほか有象無象が集まって来るが、大半は宴のホストであるジェイ・ギャツビーの顔さえ知らない。誰もが勝手に押しかける毎夜のパーティに、ただ1人、招待状を持って訪れたのは隣人のニックだった。なぜ、一介の証券マンである彼が招かれたのか? 対岸の屋敷に夫と暮らすニックの親戚の女性・デイジーも絡んで、胡散臭い経歴と悪い噂にまみれたギャツビーの謎が徐々に明らかになっていく。
ヒステリックなほど華やかで、同時にどうしようもない虚無感が漂うパーティ・シーンは『ムーラン・ルージュ』などでも馴染みのあるバズ・ラーマンお得意の意匠。隅々までこだわるセットの人工美も同様だ。想いを寄せる女性を喜ばそうと室内を花であふれ返らせるシーンでも、生花がまるで書き割りか、少女漫画でバラの花を背負っている状態かのように見えるが、それが様式化された美しさとして成立している。
主役のディカプリオの醸し出す“ありがたみ”も凄まじい。観客全員が知っているのに、もったいをつけてなかなか姿を見せず、ついに登場!のその時は、トム・クルーズでも叶わないかも、と思わせるスター・パワーが炸裂する。役と演じる者が気持ち悪いほどシンクロする瞬間だ。かつて『ギルバート・グレイプ』で脚光を浴びたディカプリオは、役に埋没する俳優だった。今はむしろ、役を自分の方へと引き寄せるタイプになっている。実際、若いモデルたちをはべらせ、パーティ三昧の日々を送る彼の周囲には、遊び仲間のロシアの富豪など、お手本はいくらでもいるだろう。富や名声を得ることでは満たされない心を抱えたギャツビーと、ゴシップで形成されたディカプリオ像が重なると、ちょっとだけ『ヘルタースケルター』の沢尻エリカを見た時と同じ感覚を味わった。不幸を演じることの自浄作用みたいなものがあるのかも、と考えてしまう。
デイジー役のキャリー・マリガン、夫役のジョエル・エドガートン、物語の語り部でもあるニック役のトビー・マグワイアの手堅い演技が、主役の魅力をより引き立てる。特に、ディカプリオの親友であるマグワイアの静かな佇まいがいい。少年時代から切磋琢磨して、それぞれ頂点に立った2人の本格的な共演は感慨深い。(文:冨永由紀/映画ライター)
『華麗なるギャツビー』は6月14日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開中。
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